第10話 森の奥へ向かう
使い魔は発見できなかった。
おそらく監視はされていないのだろう。
だからといって油断はできない。
監視するよりも手軽に外出を察知する方法がある。
感知型の結界だ。
一定の範囲を囲うように薄い結界を構築し対象がその範囲を超えたら設置者に知らせるようにする。
頑丈さを求める必要がないので上級魔法の割に構築は難しくないはずだ。
オルランの魔法の腕前は知らないが、仮にも魔法の名門と知られる家系に生まれている以上は実行可能だと思っておいた方がいい。
逆にまったく魔法が使えなかった先代の方が奇異と憐れみの目で見られていたくらいだし。
とにかく自分が構築した以外の魔法を感知するべく……
「あ、そうか」
魔法を使おうとしたところで、その必要がないことに気付いた。
試作した魔力レーダーの魔法に反応がなかったからね。
もちろん自分の魔法には反応があった。
魔力レーダーは使い物にならないと思っていたけど、そんなことはないな。
同じく失敗作だと思っていた生体レーダーの反応を差し引く形で構築し直せば……
「うん、これは使えそうだ」
魔法レーダーの完成だ。
魔法や魔力の痕跡などを探知することができる。
隠蔽されていようと関係ない。
試しに3D気配レーダーへ組み込んでみた。
その分、魔力消費量は少し増えたけど応答性は下がらなかった。
3Dレーダーとして常用するようにしよう。
今の俺には何の負担にもならない。
総魔力量がやたら多いようで自然回復する範囲内で賄えてしまうからだ。
なんだかシドってやたら高スペックなんじゃないか?
魔法の名門ミューラー伯爵家に生まれただけのことはある。
というか、その中でも傑物として後世に名を残す逸材じゃなかろうか。
残念なことに魂が世界に適合しなかったせいで魔法が使えなかったのだけど。
宝の持ち腐れ、ここに極まれりだった訳だ。
「………………」
もしかしてオルランには、これが元で危険視されていたんじゃなかろうか。
魔力量は歴代ミューラー伯爵家の中でもトップクラスとあれば後継ぎに据えられていたかもしれない。
魔法が使えていたならばの話だが。
オルランはミューラー伯爵家の長男として嫡子と目されているが、それを上回る能力があれば引っくり返る恐れがある。
一応、貴族家の長子が家督を継ぐのがこの国の常識とされているようだけど何事も例外はある。
その常識が吹き飛ぶくらいの実力があればね。
もしくは長子がどうしようもない無能だった場合とか。
まあ、オルランは仕事ができないタイプではないので後者には該当しないだろう。
だからこそ先代の魔力量に気付いて魔法を使えるようになった時のことを考え恐れていたのかもしれない。
執拗にいじめるのもうなずけるというものだ。
これで魔法が使えることが発覚すれば本腰を入れて抹殺に動くだろう。
タイムリミットは父アルブレヒトに知られるまで。
おそらく形振り構わず命を狙ってくる。
冗談じゃない。
魔法が使えるようになっただけで命を狙われる恐れがあるなんてシャレにならん。
こっちは成人したら自由に生きたいと考えていたのに、わざわざ立場をひっくり返されるのも御免被る。
そんな訳で魔法が使えることは何がなんでも秘匿しなければならなくなった。
「やれやれ……」
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
慎重に書庫の外に出る。
魔力が外に漏れないようにして気配を殺しつつ光学迷彩とサイレントの魔法を併用した。
警戒しすぎかもしれないけど足りずに気付かれるよりはいいだろう。
まずは塀を越えて様子を見るがレーダーに急激な変化は見られない。
誰かに気付かれたということはなさそうだ。
そんな訳で森の中へと入っていく。
歩を進めるごとに屋敷の側から森の奥の方へと警戒の度合いをシフトしていき、レーダー上に光点が見られるようになる頃には屋敷への意識をゼロにしていた。
「さて、何がいるかな?」
自分の周囲数メートルを結界で防御しつつクレアボヤンスでレーダー上の光点の正体を確認していく。
小動物ばかりだ。
確認が終わると黄色い光点が白色に変わっていた。
もっと奥に行かないと危険なのはそうそう出てこないか。
結界を解除して身体強化しながら移動を開始する。
周囲の木々が邪魔で真っ直ぐに走れないのが難点だ。
だが、これも鍛錬になる。
クリエイションで棒手裏剣を作り出して投てきし遠くの木に当てて目印にし走るのを繰り返す。
その時々によって可能な限り真っ直ぐ進んだり最速の移動を目指したりと色々と試しながら。
これがゲーム感覚になって結構楽しい。
もっとも難しかったのは地面に足をつけずに目標まで移動することだった。
アニメで見た忍者を参考に木の幹を蹴ったり枝の上に飛び乗ったりと立体的な動きはなかなか面白い。
そんな訳であっという間に結構な奥地に来てしまった。
マッピングもせずに来てしまったけど抜かりはない。
そのために棒手裏剣を目印にしたので、たどっていけば間違いなく帰ることができる。
念のため棒手裏剣には魔力を込めておいたのでレーダーで確認することは容易だ。
まあ、レーダーの範囲を大幅に拡大すれば屋敷の方向は確認できるんだけどね。
そんな訳で万が一にも棒手裏剣がすべて失われるようなことになろうと帰ることはできる。
この状態で鍛錬を始める訳だが、まずは魔物との実戦からになりそうだ。
レーダー上の光点は黄色なので向こうから認識されていないのだがクレアボヤンスで近くにいる奴を確認してみたところゴブリンだった。
異世界に来て最初に遭遇したのが定番中の定番の魔物か。
お手頃すぎて棒手裏剣で仕留められそうだけど、それでは鍛錬にならない。
棒手裏剣の扱いについては、ここに来るまでに慣れてしまった。
普通はその程度でどうにかなるものではないのだけど前世の経験があるからシドの体を上手く使いこなせるように調整するだけだったのだ。
もちろん、身体強化をしないと10才児の体では遠くに投げられないけれど。
とにかく今は攻撃魔法を試す。
書庫の中では使えなかったからね。
まず最初に選択した魔法はウィンドカッターだ。
ファイヤーボールよりも制御が難しく中級に分類される魔法だけど、森の中で火を使うのは危険だ。
事故にも対処してこそ鍛錬だとは思うが、最初からハードルをあげることもないだろう。
ゴブリンの背後から接近した。
棍棒を手にしてはいるが無防備に歩いている。
誘っているのかと思うほど無警戒なので遠慮なくウィンドカッターを使わせてもらうとしよう。
万が一を考えて少し幅を広めに鋭くして無詠唱で放った。
綺麗に首チョンパしたところまでは良かったのだけど。
「うわっ、やべっ」
ウィンドカッターがゴブリン前方の木までスパッと切ってしまったのには焦りましたよ?
慌てて魔法をキャンセルしましたとも。
でないと次々に木を切り倒していきそうな勢いだったからね。
魔法の加減が分からなくて過剰な威力にしたのが良くなかった訳だ。
それとゴブリンの首から派手に血が噴出したのも大変だった。
周囲に飛び散った血をの匂いで獣や魔物を集める恐れがあったから泡を食ったよ。
高圧洗浄機をイメージした魔法で洗い流したけど、おかげで周囲はぬかるみができるほど水浸しになったさ。
次から首チョンパは無しだな。
あと、洗浄する魔法も開発しておこう。
結界で囲って食洗機みたいな感じで洗うようにするのがいいかもね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます