第8話 宿題を解決する
偶然、思わぬ収穫があったおかげで空腹は満たされた。
腹が膨れると、あれほど苛立ちを感じていた実兄のオルランのことなど気にならなくなってしまうのだから我ながら現金なものだ。
それよりも空腹のピンチから救ってくれた新魔法のことが気になって仕方がない。
強く念じたものを再現する魔法なんてものができるとは、さすがに予想できなかったからね。
この魔法はクリエイションと名付けよう。
たぶんだけど俺しか使えないだろうし絶対に人前じゃ使えないよな。
それなら収納関係の魔法の方がまだマシかもしれない。
先代の知識によるとストレージという大容量を格納できる魔法があるみたいだ。
ただし、これもレアな魔法のようで人前で使うと悪目立ちするのは間違いなさそうである。
ストレージよりも容量は大幅に少なくなるが同系統でポケットという魔法もあるという。
これでも使える人間はかなり限られるのだとか。
いずれにせよ後で練習して使えるようになっておこう。
重さを感じず荷物を持ち運びできるのはありがたいからね。
それと、ふと思ったんだけどクリエイションで出せるのは食べ物だけじゃないよな。
試しに紙とボールペンを念じてみたら、あっさり成功したし。
こっちの世界の紙とペンは基本的に品質がよろしくないので助かるよ。
まあ、人には見せられないけど。
とにかく、これからは魔法で食事を出すことにしよう。
魔力が大きく減ったような感覚もないし常用しても大丈夫そうだ。
問題はゴミだな。
今はまだ少ないからいいが、いずれ足の踏み場もないほどに積み上がることになってもおかしくない。
「ん?」
不意に思いついた。
「魔法で作り出せるなら消すこともできるんじゃないか?」
という訳でハンバーガーの空き箱を見ながら消滅するイメージを込めてみたが、これも呆気ないほど簡単に成功した。
続いて空き缶でも実行すると、これも成功。
特に負担が増したように感じることもないので気軽に使えそうだ。
もちろん人前では無理だと思うけど。
人心地ついた状態で落ち着いて考えてみると、こっちの世界の魔法は思った以上に自由である。
柔軟な発想で色々と試すのが良さそうだな。
書庫の中を覗かれる対策の宿題についてもそうだ。
いかに怪しまれない状態で書庫の中を見せないようにするかを考えていたけど、堂々と見せるくらいのつもりで良いのかもしれない。
その方が勘繰られることもないだろうし。
そんな訳で窓の外から覗かれた場合を想定してフェイク映像を見せればいいという結論に達した。
先代の記憶を元に過去に行っていた生活のあれこれを幻影として24時間フルタイムで魔法で投影する。
ただし、24時間ぶっ通しの幻影を用意する訳ではない。
それだとワンパターンで疑われやすいからね。
いくつか違うものを用意しようにも手間がかかって少数しか用意できないだろうし、労力に見合った効果は見込めない。
たから時間ではなく作業パターンごとに幻影を用意してクリエイションで創造したクリスタルに記録しランダムで組み合わせて自動再生する方法を採用した。
一種の魔道具だな。
ランダムに幻影を組み合わせる部分は先代の知識からゴーレムの技術を用いている。
定期的に魔力を込めておけば半永久的に動作させることができるのも強みだ。
とにかく、これなら単調なパターンになりづらく疑われにくい。
作業映像も短時間なので日々コツコツと増やしていくことができる。
時間の長短もあるので時計で計ったような映像になりにくいのも利点だ。
前後した時間は睡眠中の映像で帳尻を合わせればいい。
最初に考えていたよりも手間は増えたけど実際に作ってみたところ思ったほど大変ではなかった。
幻影は制御が難しく上級の上に位置する特級に分類される魔法のはすなんだけど。
それよりも映像を作り出すほうが手間がかかったくらいだ。
同種の作業パターンでもバリエーションを複数用意しないといけなかったからね。
何にせよ、あっという間に魔法が構築できたのには結界を連続して構築成功させた時と同じくらい引いてしまった。
これはもしかして魂が適合しない世界でずっと転生し続けたことで無意識のうちに鍛えられていたとかなんだろうか。
考えても分からない。
が、チート同然の魔法制御力があるというのは歓迎すべきことだ。
存分に能力を発揮させてもらう差。
ちなみに1日が24時間なのは、この世界でも同じようだ。
時計は存在しないんだけどタイムスパンが同じになるよう世界の管理者が統一しているらしい。
さりげなく俺の記憶にまぎれ込ませていたよ。
疲れ切った顔をしている割に芸が細かいよな。
おかげで今回の俺のように異世界転生しても時間感覚のギャップで苦労せずに済むのだから実にありがたい。
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数日かけて幻影をクリスタルにストックし自動再生システムの構築が完了した。
クリスタルを書庫の天井に設置する。
10才児では椅子やテーブルを台がわりにしても手が届かない。
倉庫扱いされているだけあって2階建ての建物の割に天井が高く、大人でも同じことなんだけど。
そんな訳でフロートの魔法で天井近くまで浮いていく。
こんなところを目撃されてはマズいので光学迷彩の魔法で姿を消しながらだ。
天井からつり下がった照明器具を加工の魔法で変形させてクリスタルを組み込む。
この魔法は地味なんだけど物の形を変えるのが相当難しいらしく特級のさらに上の超級に分類されている。
人前で使うのは避けるべきだろうな。
とはいえ、そんなに制御が難しいとは思わなかったんだけど。
どうせなら綺麗に仕上げたくて球体のクリスタルと照明器具が合うように造形する方が難しいと感じたほどだ。
ただ、こういうのは前世で職人だった経験があるからかデザインが決まればサクッと終わる。
魔法で加工すると木工のはずなのに焼き物を成形するような不思議な感覚だった。
それはそれで結構楽しいもので職人だった頃の気持ちが蘇り血が騒いだ。
あっという間に終わったのが残念である。
何にせよ現代日本人だったときの知識や経験を生かせるのは思った以上に強みとなりそうだ。
「これで良しっと」
さっそくクリスタルの動作を開始した。
幻影が投影され、俺自身はクリスタルの追加機能で光学迷彩をかけられている。
書庫の外に出れば光学迷彩の効果が切れるので注意が必要だ。
そう。書庫から抜け出すつもりなんだよね。
せっかく幻影の投影ができるようになったのだから外で修行がしたい。
シドは貴族家の生まれとはいえ三男だから、いずれ家を出ることになるのは確実だ。
外で生き抜く訓練もしておくに越したことはない。
クリエイションは人前じゃ使えないから食糧確保なんかも重要である。
サバイバル術は俺の前世の知識や技術が使えるが、この世界ならではの情報は先代の知識が頼りだ。
食材の確保にしたって食べられるかどうかの判断が必要になるからね。
特にキノコなどは毒があるかを見極めなければならないし、じかに触れるだけでもアウトな場合もあるので細心の注意が必要だ。
また、毒があるからこそ使い出があることもある。
狩猟に用いたりポーションの材料になったり。
ポーションと言えば薬草だ。
丁寧に採取することで価値が上がるだけでなくニラのように繰り返し採取できるものもある。
収入源にもなり得るから先代の知識はしっかり活用させてもらおう。
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