第7話 暗躍する謎の男②
近場にいるゴブリン数体を引き連れて、戦闘中の生徒三人にけしかける。
それぞれの死角になっている場所へゴブリンを転移させた。
目の前に転移させたら、後々登場した俺が疑われてしまうからな。
まあ、疑うも何も犯人は俺だが。
「なっ、いつの間に背後に!?」
「か、会長!! 指示を!!」
ん? 会長?
俺は三人のうちの一人、刀を振るってゴブリンと戦っていた少女の顔をよく見た。
知り合いだった。
俺が通っている高校の同級生であり、二年生ながら生徒会長を務めている人物。
剣道部では部長兼主将として全国大会にも出ている現代の美少女剣士だ。
艶のある黒髪をポニーテールに束ねた凛々しい雰囲気の少女である。
彼女の名前は
その美しい容姿と正義感のある性格、皆を率いる生徒会長という立場、ついでに野郎顔負けの腕っぷし。
男子からも女子からも告白をされており、それら全てを断って泣かせている罪な女である。
「くっ、背面は私が抑えるわ!! 二人は正面のゴブリンを倒して!!」
「そ、そんなの無理ですよぉ!!」
「きゃあ!?」
早乙女が俺の転移させたゴブリン数体を相手に上手く立ち回り、少しずつ削っていく。
しかし、他二人は早乙女のサポート無しでは満足に戦えないらしい。
一人は鉈を振るった際にうっかり手放してあらぬ方向へ飛ばしてしまい、もう片方の弓使いは矢が底を突いて右往左往している。
それを見た早乙女はまずいと判断したのだろう。
二人が相手にしていたゴブリンに対し、大声で挑発した。
「ゴブリン共!! 私の方を見なさい!!」
「ギャギャ!!」
「か、会長!? 何を!?」
ゴブリンのターゲットが生徒二人から早乙女へと移る。
他二人は困惑し、その場で立ち尽くす。
「近藤さん!! 相沢さん!! 私がこいつらの注意を逸らしてるうちに学校へ戻って!! 増援を連れてきてくれると嬉しいわ!!」
「そ、そんな!! いくら会長でもこの数は無理ですよ!?」
「ならここで貴女たちも死ぬ!? 今は二人が逃げて増援を呼んでくれる方が、私の生存率も高まるの!! 分かって!!」
「くっ!! 行くよ、相沢!!」
「う、うぅ、会長ぉ、ごめんなさい、ごめんなさい!!」
早乙女を残し、他の二人が戦場から離脱する。
ちっ。
陰の支配者たる俺のデビュー戦を見せつける観客が減ってしまった。
「まあ、問題ないか」
早乙女三鈴の影響力は強い。
少なくとも、俺の通う高校の生徒たちは彼女の言葉なら何があっても信じるだろう。
ここで謎の強者が颯爽と現れたら、きっと良い感じに俺の存在を親しい人々に周知させてくれるはず。
他二人は所詮、ただのおまけである。
インパクトを出すために、もう少し様子見して彼女がピンチになったら助けに入ろう。
え? 鬼畜? 最終的に助けるんだから良いじゃない。
「ぐっ、この!!」
早乙女がヒュンと風を斬る勢いで刀を振るい、ゴブリンの首を一撃ではねる。
しかし、ゴブリンはまだ十数体。
多少拙いながらも連携するゴブリンたちの方が遥かに優勢であり、早乙女はじわじわと追い詰められる。
早乙女はヒット&アウェイで少しずつゴブリンたちの数を減らして行くが……。
ゴブリンの鋭い爪による引っ掻き攻撃が、彼女の制服を切り裂いた。
瑠美川ほど大きくはないが、程よい大きさの綺麗な形をしたおっぱいがぷるるんと零れ落ちる。
どうやら今の一撃でブラジャーごと裂かれてしまったらしい。
「へ? ――きゃっ!?」
それは凛々しい女剣士のものではなく、年頃の少女の悲鳴だった。
慌てて胸を隠そうとし、そこで自分が判断を誤ったことに気付く。
ゴブリンの一匹が早乙女に飛びついたのだ。
「ギャギャ!!」
「っ、し、しまった!!」
数体のゴブリンに群がられ、身動きが取れなくなってしまう早乙女。
「くっ、や、やめて、は、離しなさい!! 痛いっ、離してったら!!」
「「「ギャギャギャギャ!!」」」
暴れる早乙女を見下ろしながら、ゴブリンたちは彼女を嘲笑った。
きっとゴブリンたちは早乙女を犯しながら食い殺すのだろう。
早乙女もその未来を想像してか、顔色は青を通り越して白色になっていた。
ゴブリンの汚いイチモツが極上の牝を前に血管が浮き出るほど膨張する。
それを見た早乙女は、また小さく悲鳴を上げた。
「ひっ、い、いや、やめて!! そんなものを近づけないで!! や、やだ、やめて!! 誰か、誰か助けて!!」
よーし、ここだ!!
俺は早乙女を今にも襲おうとしているゴブリンの背後に転移し、その首を力任せに捻った。
断末魔の叫びを上げる間もなく絶命するゴブリン。
「……え?」
「怪我は?」
「え? あ、えっと、だ、大丈夫、です」
「そうか。ならばいい」
早乙女が俺をまじまじと見つめている。
どうやら俺の自作『陰の支配者』コスチュームに見惚れているらしい。
ふふん、もっと見て見て!!
「あ、貴方は、一体……?」
「話は後だ。まずはゴブリン共を始末する」
どうせならここは見栄え良く、派手にゴブリンをぶっ殺したいな……。
鉄串の脳破壊(物理)は燃費は良いが、迫力に欠けるという欠点がある。
よし、ここはあの技を使おう。
「え? 何、今の……?」
早乙女からすると、俺がゴブリンの身体に触れた途端、その部分が消滅したように見えただろう。
俺は部分的にゴブリンの身体を転移させたのだ。
手足を失ったゴブリンはともかく、頭だけを転移させられたゴブリンはその場に残った胴体から血を吹き出し、倒れる。
まるで血が噴水のようだった。
部分転移はそれなりの集中力とMPを要求されるが、派手さにおいて比肩するものが無い。
こうして俺は、ゴブリンを殲滅した。
「……今回も違ったか」
俺は早乙女に聞こえるように、特に意味は無いカッコイイ台詞を言う。
我ながら素晴らしい演技力!!
こんな世界じゃなかったら俳優になってたかも知れないな。
「あ、あの!!」
「……なんだ?」
よーし、話しかけてキタあ!!
「貴方は、何者なの? 今のは貴方のユニークスキル?」
「……何者かは言えん。それと、ユニークスキルを他言するわけがないだろう。切り札だぞ」
「うっ、そ、そうね」
と、その時だった。
「会長ーッ!!」
「増援、連れてきましたぁ!!」
戦線離脱していた女子二人が仲間を連れて戻ってきた。
潮時だろう。
謎の強者とのファーストコンタクト、その演出としては自分に満点をあげたい。
……いや、もう一押しやっとくか。
俺は増援が早乙女と合流する前に適当な民家の中に転移し、適当な上着を掻っ拐ってくる。
「きゃっ!! しゅ、瞬間移動……?」
「どうだろうな。仲間が来る前に、これを着ると良い」
「へ? ……あ、ど、どうも」
民家から掻っ拐ってきた上着を差し出すと、早乙女は赤面する。
自分がおっぱい丸出しだったことを思い出したのだろう。
早乙女が俺から上着を受け取り、慌てた様子で羽織る。
「ではな」
「あ、ま、待って!!」
「……まだ何か用か?」
「わ、私は私立蛍火高校で生徒会長を務める、早乙女三鈴です!! 今、私たちは学校で避難者の受け入れをしています!! もし良かったら、貴方も一緒に――」
「遠慮しておこう」
「なっ、ど、どうして……?」
俺は早乙女の申し出を食い気味に断る。
何故かって? ここで表舞台に出るのはあまりにも早すぎるからに他ならない。
ここはそれっぽいことを言おう。
「やるべきことがある。それだけのことだ」
「……貴方の、目的は一体?」
なんか早乙女、やけに食いついてくるな……。
「言えん。ただ、そうだな。関わらない方が良い。お前たちは弱い魔物を殺してレベルでも上げていることだ」
「それは、どういう……?」
早乙女たちは見ていて危なっかしかった。
俺はレベルが15くらいの時点で、ゴブリンを同時に複数体を相手にしても苦戦することは一切なかったからな。
おそらく一番強い早乙女でも、レベルは10と少しだろう。
あれではいつか必ず死ぬ。
まあ、今回俺がゴブリンをけしかけなければ苦戦することなく戦えていたが……。
それはそれ、これはこれだ。
「あ、待っ――」
俺は多くの謎を残すようにその場から転移魔法で離れた。
と言っても、その後の様子を見るために近くの民家の屋根の上に移動しただけだが。
「会長!! 大丈夫ですか!?」
「え、ええ……。彼は、何者だったのかしら?」
「会長? ぼーっとしてどうしたんですか? って、なんですか!? このゴブリンの死体!!」
おうおう、良いリアクションだなあ。
俺は一通り目撃者たちのリアクションを堪能した後、瑠美川の待つマンションに帰るのであった。
それはそうと、学校には人が集まってるのか。これは良い情報を得られたな。
早速計画を練ろう。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント作者の一言
作者「美少女がゴブリンにヤられるシーン、期待した?」
「主人公がガチクズやんけ」「期待してない」「期待した」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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