第6話 暗躍する謎の男①





 瑠美川を仲間にしてから、三日が経った。



「うちの親、実はイギリス人じゃなくてアメリカ人なんだよね。――あっ、やっぱり嘘を言ったら〔真偽の理〕のLvが上がったぁ!!」


「お、良かったね」



 自らのユニークスキルのLvが上がり、嬉しそうにニヤニヤする瑠美川に適当な返事をする。

 すると、瑠美川は俺の物言いが気に入らなかったのか突っかかってきた。



「もっと喜べし!! ……てか何してんの?」


「衣装作りだよ」



 瑠美川が自らのユニークスキル〔真偽の理〕のLvを上げようとくだらない嘘を吐いている横で、俺はお裁縫に集中していた。


 実は俺、そこそこ裁縫が得意だ。


 知り合いにコスプレの衣装作りを手伝わされて以来、ちょくちょく色々と作っていたからな。


 今回作っているのは俺が陰の支配者となった際にまとう衣装である。

 機械類が使えなくなった今、ミシンもダメだから全部手縫いという中々の地獄作業だが、やってると段々楽しくなってくるものだな。



〈熟練度が一定に達しました。スキル〔裁縫Lv3〕を獲得しました〉



 元からある程度出来るからか、いきなりLv3の裁縫スキルをゲットしてしまった。


 このスキルを獲得した瞬間のステータスの音声が病みつきになりそうだ。



「うわ、無駄にクオリティが高い……。てか何それ? 黒装束?」


「正解。そして、更にこの上からこっちの黒のフード付きロングコートを装備する。カッコイイでしょ?」


「う、うん。そうだね」



 何故か視線を逸らしながら頷く瑠美川。

 男の子はこういうのが好きだが、女の子には理解できないらしい。


 感性の違いとは斯くも悲しきものなのか。



「こっちのは? 狐と鬼のお面?」


「ザッツライト。鬼のお面の角の部分を狐に張りつける。これで鬼狐の面の完成だ。支配者モードの俺はこれを着て戦う」


「うわ」


「うわとか言わないで」



 本当に失礼な奴だな。



「こんなお面、どこにあったの?」


「小さい頃にお祭りで買った」



 懐かしいな。


 まだ父親と母親を恨む前だった。優しい親だと思っていた頃の話である。


 今になって客観的に考えてみると、中々のクズ親だったが。



「っと、完成だ。フッ、我ながら素晴らしい出来だよ。早速着てみよう」


「ちょ、目の前で着替えないでよ!!」


「む。俺は気にしないよ?」


「私が気にするの!! トイレとかお風呂場で着替えてよ!!」



 俺の家だと言うのに図々しい奴め。その図々しさ、嫌いではないがな。


 それにしても……。



「それ、俺に抱かれようとした女の台詞じゃなくない?」


「っ、そ、それは、そう、だけど……ごにょごにょ……」


「……まあ、瑠美川さんがそう言うなら、こうするまでだ」



 俺は転移魔法を応用し、一瞬で服を脱いで手に持った黒装束を自らの身体に着せる。


 これなら一瞬で着替えられるし、変身みたいでカッコイイ。



「どう? 似合う?」


「う、うーん、ギリギリ怪しさが勝る感じ?」


「なら満点じゃないか」



 怪しさは陰の支配者に必須な要素だ。



「さて、と。この格好で少しレベリングに行ってくるね」


「え? あ、そう。いってらっしゃい。……ちゃ、ちゃんと帰ってきてよね?」


「? うん、もちろん」



 俺は転移魔法を使い、自宅マンションの屋上に移動する。


 フッフッフッ。


 実はこの三日間で俺の転移魔法はスキルLvが3となり、晴れて自分自身を転移させることができるようになった。


 今なら100kgくらいのものを一度に100mちょい移動させられる。


 おまけに魔力操作のスキルLvも上がり、一回一回の転移魔法のコスパも良くなった。

 お裁縫しながら小まめに転移魔法の練習を重ねた結果だな。



「おー、今日も絶景絶景」



 屋上から見下ろす地上は至るところから煙が上がっていた。

 魔物が現れてから三日経つが、まだまだ人々は混乱の最中にいる。


 非日常というのは常にスリルがあって楽しい、という俺のような人間は稀なのだろう。



「さて、今日はあの辺りで魔物狩りするかな。よっと!! 紐無しバンジー!!」



 俺は屋上から飛び降りた。

 数十メートルの高さから落ちても、俺の転移魔法なら問題ナシ!!


 俺は瑠美川を仲間にしてから、転移魔法の検証を何度か重ねた。


 まず俺の転移魔法は生物無生物に関わらず、触れていなくても移動させられる。

 しかし、相手が生物の場合や離れているものを転移させようとする場合は必要なMPが数倍にはね上がる。


 一番コスパが良いのは無生物を手に触れた状態で転移させる時だな。

 その性質を利用して、俺はとある攻撃方法を編み出した。


 地面と激突する前に転移魔法で移動し、着地した俺はゴブリンと遭遇。


 すぐさま殲滅してやった。



「ゴブリン討伐完了っと。やっぱりこの技、アホみたいに強いね」



 俺の武器は鉄串だ。


 スーパーの百均コーナーに売ってた、串焼き用の鉄串である。


 それをゴブリンの頭に転移させるのだ。



「ギャギャ!!」


「おっと、生き残りがいたか」



 ゴブリンの頭に鉄串を転移させる。

 それはゴブリンの脳ミソを一撃で破壊し、活動を停止させた。


 以前、瑠美川の手足を転移魔法で壁に埋めて拘束した時のことを思い出す。


 瑠美川を再び転移魔法で拘束から解放すると、彼女の手足が埋まっていた場所には綺麗な穴が空いていた。


 これを見て俺は閃いたのだ。


 つまり、最初から物がある場所に俺の転移魔法で何かを重ねるように移動させると、元々あったものが破損、あるいは消滅するってわけだな。


 別に鉄串じゃなくても、石ころを敵の頭の中に転移させて仕留めることもできる。


 防御貫通即死攻撃だ。


 他にも敵を地面の中に転移させて生き埋めにしたり、薄い鉄板を転移させて敵を真っ二つにする攻撃も編み出したが……。


 鉄串転移が一番魔力のコスパが良かった。お気に入りの技である。


 しかし、これでは死なない。


 どうやら心臓を包丁で刺したり、首を捻って折ったりして完全に絶命させなければ経験値にはならないらしい。


 動かなくなったゴブリンの首を折って回っていると、アナウンスが聞こえてくる。



〈経験値が一定に達しました。神影みかげ運命さだめのレベルが20になりました〉


「うし!!」



 小さくガッツポーズを取る。


 MPもかなり増えたし、その他のステータスも最初の数倍。


 試しに地面を舗装しているアスファルトをぶんなぐってみたら、少し痛いだけでビキビキッとヒビが入った。



「お、おお、アニメで見たことある奴だ!! ステータスって凄いな……。ん?」



 レベルの大切さを再認識していると、どこからか人の怒鳴る声と魔物の雄叫びが重なって聞こえてきた。


 俺は転移魔法で上空に移動し、落下しながら地上を見下ろす。



「お、誰かが魔物と戦ってるのか」



 そう離れてはいなかったので、転移魔法は使わずに歩いて移動する。


 レベルアップのお陰で連発こそできるようになったが、転移魔法の燃費の悪さはまだまだ酷い。


 節約できる時はしないとな。



「……あ、うちの高校の生徒だ」



 そこには俺の通っている学校の制服を着た女子生徒が三人ほど、狭い道路でゴブリンと戦っていた。


 鉈を始め、どこから持ってきたのか刃の部分を研いだ刀、珍しいものでは弓道部のものと思わしき弓矢で武装している。


 ただ何というか、動きが遅いような……。



「いや、俺が速くなったのか」



 ここでまたステータスの大切さを認識する。


 圧倒的なレベル差があれば、多少の数の不利は覆せるのではなかろうか。


 いつかは大軍を相手に無双ゲーの如く暴れ回ってみたいものだ。



「っと、いかんいかん。観察に集中せねば」



 何故かって?


 そりゃあ、君。ここでピンチになった彼らを謎の強者が救ったらクソカッコイイじゃないか。


 だから敢えてピンチになるのを待つ!!


 それに、時折姿を現して存在を匂わせるから陰の支配者はカッコイイのだ。


 さあ、さあほら!! 早くピンチになれ!!


 と思ったのだが……。

 どうやら彼らを率いている人物が思いの外優秀らしく、苦戦する様子は無かった。


 くっ、このままでは俺の見せ場が無くなってしまう。



「MPは……よし、まだ余裕があるな。連れてくるか」



 俺は彼らにピンチに陥ってもらうため、転移魔法で近場にゴブリンを連れてくるのであった。


 我ながら素晴らしい計画だな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る