第5話 瑠美川あくあの独白①





 私にとって、男は自らの価値を高めるためのアクセサリーだ。


 小学校の時は駆けっこの速い奴、中学の時は勉強のできる奴、高校の時はその両方ができて顔の良い奴。


 そういう男と親しくなることで、私は今まで絶対的な地位を築いてきた。


 もちろん、女子と仲良くすることも忘れない。


 ブス共のくだらない嫉妬で私の理想の生活を壊されたくないもん。


 まあ、たまに私の本性に気付く奴がいるけど、そういう奴が男だったらヤらせれば大人しくなるし、女だったら潰しちゃえばいい。


 だって私は誰よりもかわいくて、誰よりも優しい理想の女の子。


 私が「あの子にいじめられて~」とか言ったら、ハイそいつの人生終了(笑)って感じで問題は解決だった。


 まさに最高の人生だった。


 高校を卒業して大学生になったら、今の彼氏とはおさらばして、良い大学に通ってるイケメンを探す。


 更に大学を出たら、金持ちのイケメンと結婚して子供を産む。


 顔が良くて身体がエロいだけ、あとは勉強とか運動とかコミュ力とか、自分を少し良く見せるための努力をするだけで人生楽勝。


 楽勝、だと思ってた。


 神を自称する糞野郎のせいで私の順風満帆な人生計画がぶち壊されるまで、そう思っていた。


 ふざけんな!!


 何がステータスだよ、何が魔物だよ、何がユニークスキルだよ!!


 私の人生をめちゃくちゃにしやがって。絶対にあのクソ神、ぶっ殺してやる。


 でも現実は非情だった。


 ごぶりん? とか言う気持ち悪い魔物がスーパーで買い物してる時に現れて、周りにいた人間が皆殺された。


 私も死ぬと思った。


 でも咄嗟に身体が動いて、バックヤードに駆け込み、殺される人たちの悲鳴を聞きながら時間を過ごした。


 今も知らない誰かの断末魔が耳に残っている。


 だから、誰でも良かった。もう順風満帆な人生なんて要らない。

 ただ私を守ってくれる人なら、誰でも良かったのだ。


 それがクラスの地味でぼっちなクソ陰キャでも、別に構わなかった。


 どうせ一発ヤらせたらすぐに堕ちる。


 私は可愛くてエロくて、誰からも好かれる理想の女の子だから。

 少し抱きついたり、おっぱいに頭を埋めさせてやるだけで私の虜になると思ってた。


 この過酷な世界を生き抜くための最初の奴隷ができると思った。


 ましてやこの意味不明な状況で、食料や水の確保といった生存のために必要な行動を取れる冷静な男である。


 頑張り次第では奴隷じゃなくて、恋人にしてやっても良かった。


 さっきは地味な奴に興味は無いとか言っちゃったけど、あれは少し嘘。

 神影は結構、私好みの顔をしてる。めっちゃイケメンってわけじゃなくて、あまり目立たない端正な顔立ちだ。


 隣に立たせたら私の可愛さや綺麗さ、美しさを損なうことなく引き立てられる、個人的には理想のイケメン具合。


 だからコイツを奴隷にしてやろうと思った。


 コイツが関わっちゃいけない奴というか、ヤバイ奴とは欠片も思わなかったのだ。



「ね、ねぇ、神影。アンタ本気でそれ言ってんの?」


「もちろん」



 私のユニークスキルで分かる。


 こいつは、神影は秩序もクソも無い、この魔物が溢れ返った地球を本気で支配したがっている。


 なんで陰から支配したがるのかは分からない。


 でも、少なくともコイツが厨ニ病とか妄想癖から言ってるわけではないことが、私のユニークスキルで分かってしまう。



「い、意味分かんない。私にどうしろっての?」


「簡単だよ。ただ王になれば良い。そうだね、俺は表向きには瑠美川さんの奴隷になろうかな。その代わり、俺のやりたいことを手伝ってもらう」


「は、はあ? きもっ。まじ頭おかしいの? こんな世界を陰から支配したいとか、何のために?」


「カッコイイから」


「……は?」


「そういうの、なんかカッコイイでしょ? 俺さ、人生エンジョイ勢なんだよね。俺の行動原理は、俺が楽しいか楽しくないか。それだけ」



 やっぱり頭がおかしい。螺子が外れてる。


 いつ魔物に襲われるかも分からず、人々が混乱に陥っている中、楽しむ……。


 ただ壊れてるとしか思えない。


 でも、何故だろう。神影という男が次に吐いた台詞は私の心に安堵を与えてくれた。



「俺が瑠美川さんに、瑠美川さんのための居場所を作ってあげる。誰も君を脅かさず、皆が君を王と崇め奉る、君だけの国をね。――俺が君を、王にする」



 例に漏れず、神影は本気で言っていた。


 私がこの変わり果てた世界で、何を犠牲にしても欲しいもの。


 誰にも脅かされない、皆が私を崇める、私の国。



「だから俺に協力してよ」



 そう言って神影は楽しそうに笑った。


 まるで一緒に遊ぼうと誘われているような、思わずその手を取りたくなるような何一つ悪意の無い満面の笑みだった。


 いつもはクラスの隅っこで退屈そうに窓の外を眺めていたぼっち陰キャとは似ても似つかない。


 その笑顔を見ると、心臓がドキッとした。


 ……いや、無い。それは流石に無い。

 こんな頭のイカレてる奴にときめくとか絶対に無いと断言できる。


 でも、私に近づいてくる奴らとは違う目をしているのは事実だ。


 私を見る奴らは、男でも女でも同じような目をしていた。

 嫉妬や情欲にまみれた、心の底から不快で気持ち悪い視線は中々忘れられない。


 この神影という男には、それが無い。



「もし、私が断ったら?」



 さっき神影がしてきた質問と同じ質問をする。


 これはただの意趣返しだった。私の誘いを断ったムカつく男子に対する仕返し。


 すると、神影は首を傾げた様子で言った。



「殺すよ。口封じは必要だし、人間を殺したらどうレベルが上がるのか気になるし」



 ゾッとした。


 神影はまたしても嘘を言わなかった。ただの興味本位で人を殺そうとしている。


 ガチのヤバイ奴だ。関わっちゃいけない。


 それなのに、心臓のドキドキが止まらない。

 ただ恐怖を感じて心臓の鼓動が早まっているだけかも知れないけど……。


 でも、お腹の奥、子宮がキュンキュンした。


 人は死を感じたら本能的に子孫を残そうとするってどこかで聞いたことがある。


 そうだ、これは本能的な勘違いだ。吊り橋効果と一緒。

 冷静にこの勘違いをどうにかしなければ、私まで壊れてしまいそうだ。



「なんで、私なのよ」


「ん? なんでって?」


「私、嘘をつくかも知れないでしょ。信用できないでしょ。なんでそんな楽しそうに誘うの?」



 どうか私の納得できない理由を言って欲しい。これ以上、私を壊さないで欲しい。



「だって瑠美川さん、可愛いから」


「え?」



 また心臓がドキッとする。


 それはもう誤魔化しようのない、人間としての、女としての、一匹の牝としてのときめきだった。


 神影の言葉に嘘がないことがユニークスキルで分かってしまったのだ。


 私が、可愛い?

 私の醜いところを知って、その上でこいつは可愛いって言ったの?



「俺さ、瑠美川さんのこと気持ち悪いと思ってたんだよね」



 それも本心からの言葉だった。酷い罵倒だ。全世界の私が泣く。


 すると、神影はまた楽しそうに笑って言った。



「でもようやく分かった。底が見えたら、ただ居場所を欲しがってる普通に可愛い子だった」


「べ、別にそんなもの欲しがってないし」


「瑠美川さんがそう言うなら、そういうことにさておこっか。でも君と一緒に過ごせたら、俺の人生はもっと楽しくなると思う」


「は、はあ!? ちょ、それ」



 それは最早プロポーズだろう。


 そして、どうしてそんな言葉に私は心臓がドキドキして、お腹の奥が疼いているのだろうか。


 私って、意外とMなのかな。



「返事を聞かせてよ?」


「っ、もう!! 分かった!! 分かったから!! アンタに協力する!! その代わり、アンタも約束守りなさいよ!!」


「ありがとう、瑠美川さん!! 友達ができて嬉しいよ!!」



 そう言ってまた微笑む神影。ああ、ダメ。


 その笑顔は堕ちかけている私の心にとって反則のトドメだった。


 ……神影、結構イイ男かも。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント瑠美川設定

惚れさせるのは慣れてるけど、惚れるのは慣れていないチョロイン。


「主人公マジキチで草」「即堕ちヒロインええやん」「ガチの暗躍で草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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