第4話 地球に魔物が溢れ返った日④
俺はずっと、皆の人気者である瑠美川あくあが苦手だった。
だって底が見えないから。
でもたった今、俺に自らの身体と引き換えに安全を手に入れようとした彼女を目の当たりにして確信する。
「瑠美川さんの作戦、良いね。女でも顔やスタイル、信頼に足る性格をしていなければ成立しないものだ」
「だから作戦ってなんのこと? 私、ただ死にたくないだけだよ?」
「あ、別に良いよ。前から瑠美川さんのこと、裏では性格悪そうだと思ってたから」
「……あっそ」
瑠美川の顔から表情がストンと抜け落ちる。
そして、先程までの遠慮がちな態度が嘘のようにドカッと俺のベッドに腰を下ろした。
「私の本性、気付いてたんだ? キモ」
「酷い罵倒に全人類の俺が涙を禁じ得ない」
「まあいいや。取り敢えずさ、適当にヤらせてあげるから私のために働いてよ」
私のために働け、か。
「嫌だって言ったら?」
「ふーん? そういう態度を取るんだ? じゃあそれはそれで良いよ、別に。今すぐ人のいるところに駆け込んでアンタにレイプされそうになったとか、適当に言い触らすから」
「……随分と脅しに慣れてるな」
「当たり前じゃん。私に逆らう奴、全員こうしてきたんだから。ま、男はヤらせてやるって言ったら猿みたいに腰ヘコヘコさせるから、こういう脅しはあんまり必要ないんだけど」
俺の顔を見て、瑠美川がニヤリと嗤った。
人を心底小馬鹿にしたような、嘲るような悪魔のごとき笑みである。
「もしかして私がやらないと思ってる? やるよ、私は」
「仮にやったとして、それを信じる人がいると思うか?」
「は? アンタ馬鹿? いるに決まってるでしょ」
俺のカマかけをフンッと鼻で笑いながら、瑠美川は言ってのける。
「片やいつもクラスで一人の根暗、片や学年一の美少女なんだから」
「それもそうだな」
「それに私のユニークスキルは〔真偽の理Lv1〕。嘘を見抜き、嘘を信じ込ませる力。アンタをこの世界から孤立させることだってできるんだよ?」
あ、さっきの違和感の正体が分かったぞ。
瑠美川が自分のスキルをクズ呼ばわりしたのが嘘だったのだろう。
その嘘を彼女のユニークスキルで信じ込まされたのか。
ただ相手に違和感を感じさせることもあるから、何でもかんでも吹き込んで騙せるわけではないみたいだな。
中々興味深いスキルである。
俺が瑠美川のユニークスキルについて考察していると、彼女は話を続けた。
「これからの世の中、誰もが鬱憤を晴らせる相手を欲しがるようになるのはアンタも分かるでしょ? ストレス解消のためのサンドバッグにしていい悪い奴が必要なの。そのサンドバッグになりたい?」
なるほど。
あらゆる電子機器、機会が使えなくなった今、人々の不満は溜まりに溜まるだろう。
今はまだ大丈夫でも、いずれはどうにもならない程の大きな不満となっていつかは限界を迎えるはずだ。
しかし、その不満をぶつける相手がいない。
そこに絶世の美少女をレイプしようとしたクズ男が現れたなら?
俺なら間違いなく、そいつをフルボッコにしてしまう。
瑠美川のやり方は実に合理的だな。
「……ふふっ」
俺は笑みが零れる。
良いぞ、瑠美川はとても良い。間違いなく、彼女は俺の計画に必要な人材だ。
「なに? ビビり過ぎて頭おかしくなった?」
「それが瑠美川のやり方なんだな。自分の地位を守る、あるいは安全を得るために自らの身体を差し出す。場合によっては相手を社会的に抹殺することも厭わない。状況を冷静に見据えている目も良い」
「……?」
「ああ、学校での行動も納得だ。お前は誰にも嫌われていない自分を理想としている。その方が生きやすいからか? たしかに陰キャにも優しいギャルは需要があるものな」
独り言同然の俺の呟きに、瑠美川が我慢の限界を迎えたらしい。
俺の胸倉を掴み、ぐいっと顔を近づけてきた。
「ごちゃごちゃうるさいんだけど。アンタは私の奴隷になるか、強姦魔の糞野郎になるかの二択しかないの」
「……」
「あ、言っとくけどもうヤらせてあげないから。なんかアンタうざいし。そもそもアンタみたいな地味な奴、興味の欠片も無いし。アンタは私のために食料と水を持ってくるだけの奴隷。ここの家も私が貰うから。スーパーのバックヤードよりはマシだろうし」
「ぷっ、くくく、あははははっ!!!!」
俺は胸倉を掴む瑠美川の手を握り、転移魔法を発動する。
「え? は? ちょ、なにこれ!?」
「ぶっつけ本番だったけど、意外と上手く行くもんだな。瑠美川さんの体重が軽くて良かったよ」
俺は瑠美川を転移させた。
その結果、彼女は手足が壁に埋まり、身動きが取れなくなっている。
俺自身を転移させるにはまだスキルレベルが足りないが、瑠美川なら可能だった。体重が軽いからだろう。
〔転移魔法Lv2〕で一度に跳ばせる質量は45kg程度。
ということはつまり、瑠美川はそれ以下の体重ってわけだな。
ボンキュッボンのナイスバディーなのに体重が45kgって何だよ。
アニメや漫画のキャラじゃないんだから。
気になるのは、普通に物体を転移させるよりも消費するMPが多かったことか。
相手が生き物だと必要MPが増えるのかな?
こう、魔法に抵抗する力みたいなものが働いているのかも知れない。知らんけど。
「ちょ、まじ何なのこれ!?」
「俺のユニークスキルだよ。そっちも教えてくれたんだし、教えなきゃフェアじゃないからな。詳細は秘密だけど」
瑠美川が必死に壁を壊そうと暴れるが、ビクともしない。
「おま、神影!! ふざけんなよ!! まじでレイプ魔って言い触らしてやるからね!!」
「まあまあ、落ち着いてよ。乱暴なことはしないからさ」
「はあ!? 意味分かんないし!! さっさと元に戻してよ!!」
身の危険を感じてか、喚き散らす瑠美川。
仮にも男の部屋に一人で入ってきた時点でこうなる可能性もあると想像できるだろうに。
いや、俺はそういうことをしないと高を括っていたのだろうか?
どちらにしろ危険に対する意識が低いな。
あるいは咄嗟にスーパーのバックヤードに隠れてゴブリンの襲撃をやり過ごすとか、大きな危険を経験して感覚が麻痺したからか。
少し頭の足りないところもあるかも知れないが、瑠美川には才能がある。
俺は彼女の顔を覗き込みながら、声をかけた。
「ねぇ、瑠美川さん。俺のものにならない?」
「……は?」
おっと。今の言い方は少し誤解を招くな。
「俺さ、魔物で溢れ返った地球を陰から支配したいんだ」
「……え? は?」
「でも陰から支配するなら、表に立つ人間が必要だと思うんだよね」
この世界が変貌してからずっと考えていた。
どうすれば陰から世界を支配できるのか、その具体的な方法を。
その結果、俺は答えに辿り着いた。
そう難しいことではない。
混乱の只中にある人々をまとめ、率いて、導く者を傀儡とする。
要は俺の意のままに動く王を用意し、人々に信仰させれば良いのだ。
そして、その王に相応しい者が見つかった。
「瑠美川さんにはその役目を担って欲しいんだ」
この世界を陰から支配するなら、この方法が一番良いと思う。
彼女は王に相応しい。
「神影、それ本気で言ってんの?」
「そうだよ」
「お前、冗談抜きでヤバイやつじゃん。怖っ」
軽蔑するような目ではなく、何か理解できない恐ろしいものを見たような目で俺を見る瑠美川。
その反応は少し酷くない?
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あとがき
ワンポイント一言
作者「この主人公こわい」
瑠美川「ね」
神影「どこが?」
「腹黒ギャルは好き」「キチガイ系主人公は嫌いじゃない」「作者も怖がってて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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