第3話 地球に魔物が溢れ返った日③
俺はマイ自転車を乗り回し、最寄りのスーパーに向かう。
途中でゴブリンを轢いてしまったが、気にしたら負けである。
経験値の足しになったと考えよう。
そうこうしてやってきたスーパーマーケットは荒れに荒れていた。
「うーわ、魔物の襲撃にでも遭ったのか?」
この世界に魔物が現れてから、まだ数時間しか経っていない。
しかし、やってきたスーパーは床や壁に人のものと思われる血が染み着いており、ざっくばらんとなった死体が転がっている。
たった数時間でこの惨劇とは恐ろしい。
まだ近くにこの惨劇を引き起こした魔物がいるかも知れないし、足早に必要な物資を集めよう。
「食料は……缶詰めがベストだな。水道が止まってたし、水も必須っと」
俺は持ってきたリュックサックにありったけの食料と水を詰め込んだ。
お菓子やジュースの類いも忘れない。
この世界では、こういう嗜好品はもう二度と手に入らないだろうからな。
美味しいものは今のうちに集めておく。
と、その時だった。
バックヤードの方からガタッという物音が聞こえてきたのだ。
「……魔物か?」
俺は警戒しながら、バックヤードに入った。
安心してスーパーを物色するなら、早めに始末した方が良いだろう。
問題は、物音の正体がここでジェノサイドを引き起こした魔物だったら、俺は抵抗する間もなく殺されてしまうかも知れないことか。
いや、どちらにしろ危険な魔物の情報は把握しておくべきだ。
幸いなことに、ここには商品棚のような俺の転移魔法でも跳ばせる質量のものがそれなりにある。
咄嗟にバリケードを作る程度なら、俺のMPでも十分可能なはずだ。
さて、何が出るかな? 何が出るかな?
「きゃっ!!」
「なんだ、人間か」
バックヤードに入ると、隅で女の子が身を屈めて隠れていた。
スタイル抜群のボンキュッボンで、綺麗な長い金髪の美少女である。
俺の通っている高校の女子用の制服を身にまとっていた。
しかも知っている顔だった。
「瑠美川さん?」
「え? あ、クラスの……神影、だっけ?」
同じクラスの子だった。
イギリス人と日本人のハーフで、学年トップの成績と運動神経、圧倒的なコミュ力を備えている。
相手が陰キャでもボッチでも数分で仲良くなるというオタクに優しいギャルだ。
ついでに言うと、学年トップのイケメンを彼氏に持つ。
彼女に恋をした純粋無垢な少年たちは、その事実を知って心挫けるのだ。
それでも積極的に話しかけてくる彼女に懸想する者は多いようだがな。
でもまあ、俺は少し苦手だ。
彼女は男子からも女子からも絶大な人気があり、誰からも信頼を寄せられている。
こういう完璧善人みたいな人間って、裏で何やってるか分からないから、底が見えなくて怖いんだよ。
「神影っちぃー!!」
「うおっ」
と思ってたら、瑠美川が俺に抱き着いてきた。
俺は瑠美川のたわわな二つの果実に顔を埋めてしまう形に。
おお、柔らかいですな。
「離れて、瑠美川さん」
「え、あ、ご、ごめん!! ……その、苦しくなかった?」
「……平気だよ」
「そっかぁ、良かったぁ。せっかく生きてる人に会えたのに、おっぱいで殺しちゃうところだった」
抱き着いてきたのは向こうとは言え、乳の感触を堪能していた俺に怒るわけでもなくにへっと可愛らしく微笑む瑠美川。
俺は瑠美川から距離を取り、彼女に状況の説明を求める。
「何かあったの? どうしてバックヤードに?」
「そ、それがさ!!」
「……ふむ」
瑠美川の話をまとめると、彼女は神の声が聞こえてきた時にこのスーパーで買い物をしていたらしい。
その後、スーパー内に魔物が出現。
瑠美川の言う魔物の特徴から考えると、おそらくはゴブリンだろう。
そのゴブリンの中に一際大きなゴブリンがいたそうで、混乱の最中にあった人々を一方的に蹂躙して回ったらしい。
「ホブゴブリンとか、そういうのかな? 上位種が存在する可能性を知れたのは大きいな」
「ほぶ……? よく分かんないけど、私ずっと怖くてここに隠れてたの。神影っちと会えて良かったよぉ!! ……てか、神影っちはここで何してんの?」
「食料と水の調達に」
「え、めっちゃ冷静じゃん!! こんなわけ分かんない事態なのに落ち着いてるってマ? 尊敬しかないわ!!」
「そうでもないよ。お、サバ缶見っけ」
サバ缶は俺の好物だ。沢山貰って行こう。
「ね、ねぇ、神影っち!!」
「……なに?」
「あ、あのさ!! 荷物持ちでも何でもするから私も連れてって!! こんなところに一人とか絶対にやだし!!」
「それは別に良いけど……。俺が拠点にしてるの、普通に俺の家だからね?」
彼氏持ちの女の子が大して親しくもないクラスの男子の家に来るのはどうなのだろうか。
まあ、やましいことをするつもりはないが。
俺が眉を寄せていると、瑠美川はにへっと人懐っこい笑みを浮かべた。
「大丈夫大丈夫!! 私、そういうの気にしないし!! あ、エッチな本隠す時間くらいなら待ってるから安心して!!」
「……そう」
この非常事態で軽口を叩けるくらいなら、一人でも何とかなりそうだが……。
一人でいるのと知り合いが一緒にいるのとでは、何か違うのだろうか。
それはそうと、気になることが一つ。
「瑠美川さんのユニークスキルはなんだった?」
「あー、神様が最初にくれたやつ?」
「そうそう、それそれ」
「ごめん!! 私のスキル、まじ使えなくてさー。言うのも恥ずかしいから公開は勘弁して!!」
クズスキルだったのか。
まあ、瑠美川の顔とスタイルとコミュ力なら魔物溢れるこの世界でもどうにかなるだろう。
容姿の整っている奴は羨ましい。
「……ん?」
なんだ? 何か少し違和感があった。
気のせいだろうか。いや、たしかに何か変な感じがした。
「へー!! 神影っちの家、マンションなんだ!! 親御さんは?」
「二人とも借金残して蒸発した」
「そ、そうなんだ? 神影っち、大変なんだね。あれ? じゃあこのマンションはどうしたの?」
「知り合いのおじさんが同情して買ってくれた」
「凄い太っ腹な知り合いのおじさんだね!?」
違和感の正体が分からぬまま、俺は瑠美川を連れてマンションに帰ってきた。
瑠美川との不意の遭遇で予定よりも多めに缶詰めと水を持ち帰れたのは、正直なところ嬉しい誤算だった。
瑠美川が遠慮がちに俺の部屋を漁り始める。
「なにしてんの?」
「エッチな本を探してんの。見りゃ分かるでしょ?」
いや、分かるか。人の家に来ていきなりエロ本探しとかどういう神経してんだ。やりたくなる気持ちは分かるけども。
「うーん、どこにもないなー? もしかして神影っちって電子派?」
「そうだよ」
「うわ、大変じゃん。スマホ使えないからネタに困らない?」
「かもね」
俺が適当に相槌を打つと、瑠美川が不意に制服のブレザーのボタンを外し始めた。
え? 何してんの?
「もし良かったらだけどさ。私のこと、ネタにする?」
「何を、言ってんの?」
「いや、その、私だって恥ずいけどさ? 私、一人じゃすぐ死ぬだろうし。だから!! わ、私の身体を好きにしていいから、守って欲しいなーって」
……なるほど。
「合点が行った。瑠美川さん、それ良い作戦だね」
「作戦? 何のこと?」
にへっとした人懐っこい瑠美川の微笑みが、一瞬だけ硬直する。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント作者の癖
作者「優しいギャルも良いけど、腹黒ギャルも好き」
「羨まけしからん」「サバ缶が好きなのか……」「作者の癖で草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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