第2話 地球に魔物が溢れ返った日②
レベリングとは!!
目の前の敵を片っ端から倒して経験値に変換し、強くなる作業。
この作業で求められるのは効率だが、こと現実においては安全性も大切だろう。
当たり前のことだが、命は一つしかない。
効率を極めようとし過ぎて命を落としてしまうことがあってはならないのだ。
効率的かつ安全性の高いレベリングをするためには、まず自身の強みとなる転移魔法について色々検証せねばなるまい。
「ふむ。今の俺には片手で持てるのものを転移させるのが限界か」
おそらくはMP不足だろう。
より大きなものを転移させようとした時、魔力を消費する感覚があった。
ステータスを確認してみたら、MPの数値が減ってた。間違いない。
何よりこの転移魔法の強力な点は、魔力さえ足りているなら自分自身も移動させられそうなところだろう。
万が一身に危険が迫った時、緊急退避することもできるってことだからな。
「とは言え、レベルが上がってMPの総量が増えるまでは瞬間移動はお預けか。でもまあ、レベリング方法の目処は立ったな」
俺は部屋の窓から外を見る。
路上では無数のゴブリンが獲物を探して闊歩しており、出歩くのは危険を伴うだろう。
幸いにも我が家はマンションの三階だ。
玄関の鍵をしっかり締めておけばゴブリンが侵入してくることは無い。
なので遠慮無く、卑怯な戦法で戦おうと思う。
借金を残して蒸発した両親が怪しい新興宗教の人から買った『幸せになる石』を全力でゴブリンに向けて投擲する。
「ギャギャ!?」
うっし、ヒット!! ゴブリンが頭から血を流して倒れたぞ!!
俺は慌てて窓から顔を引っ込めた。
他のゴブリンはどこから攻撃されたのか分かっていないようで、倒れた仲間を見ながら右往左往している。
「カムバック、幸せになる石!!」
投擲した石を転移魔法で手元に戻す。
あとはこれを何度か繰り返せば、ゴブリンを数体は倒せるだろう。
ただ一つ、この転移魔法に欠点があるなら。
「あ、ちくしょう!! 当たった反動で幸せになる石があらぬ方向に!!」
転移魔法は移動距離に限界がある。
一応、見えない場所にあるものでも手元に引き寄せることはできるのだが……。
一度に15m程度しか移動させられないのだ。
まあ、ここら辺はレベルアップでMPの総量が増えたりとか、あるいはスキルレベルが上がったら改善されるかも知れない。
スキルの横にあるLv表記。
俺の予想では転移魔法を繰り返し使うことでこのスキルのLvが上がると思っている。
予測だからどうなるか分からないけどね。
「くっ。幸せになる石はまだ何十個もあるけど、範囲外に行かないように上手く投げないとな。――こらあ!!」
繰り返し石を投げること十数回。
しばらくすると俺の目の前にステータスが出現し、レベルアップを告げた。
〈経験値が一定に達しました。
ステータスを詳しく見てみると、全体的に能力値が向上している。
MPに至っては三割増しだ。
やったぜ。
魔力が増えたからもっと幸せになる石を投げられるぞ!!
「おらあ!! 逃がすかあ!!」
「ギャギャ!?」
流石に繰り返してたら見つかって、ゴブリンが逃げてしまった。
仕方ないので、別の群れがやってくるまで転移魔法の練習をすることに。
そうこうしてるうちに――
〈熟練度が一定に達しました。ユニークスキル〔転移魔法Lv1〕が〔転移魔法Lv2〕になりました〉
〈〔転移魔法Lv2〕により、転移可能距離及び転移可能質量が増加しました〉
〈熟練度が一定に達しました。スキル〔魔力操作Lv1〕を獲得しました〉
〈〔魔力操作Lv1〕により、魔法使用時の消費魔力量が減少しました〉
〈熟練度が一定に達しました。スキル〔投擲Lv1〕を獲得しました〉
〈〔投擲Lv1〕により、投擲時の命中率及び威力が上昇しました〉
やったぜ。
転移魔法がLv2となり、一度に移動できる距離がかなり長くなった。
30mくらいだろうか。
最終的にどの程度の距離を移動できるようになるのか楽しみだな。
しかも〔魔力操作Lv1〕まで習得して、燃費の悪さが少なからず改善!!
おまけの〔投擲Lv1〕も悪くない。
最高だね。
「……ふむ、まだ俺自身は飛ばせないか」
自分に転移魔法を使ってみても、やはりMPを消費する感覚があるだけで、どこかに跳ぶ気配は無い。
俺の体重が問題なのだろうか。
どの程度のものを移動できるようになったのか、試してみよう。
「テーブル、オッケー。洗濯機、オッケー。冷蔵庫、残念」
うちの洗濯機はそこそこ大きいものだから、大体30kg〜45kgかな。
……あれ?
「待てよ? 俺、今すごく良い作戦考えたかも!!」
より効率的かつ、より安全に魔物を倒す方法を閃いてしまった。
まずは魔物がマンション前を通るまで待つ。
もう近くにゴブリンはいないのか、いくら待っても来なかったが……。
代わりに犬の頭を持った人型の魔物がマンション前を通った。
コボルトってやつかな。
犬好きの俺としては気が進まないが、今は転移魔法の検証が優先だ。
「喰らえ、洗濯機落とし!!」
コボルトの頭上に我が家の洗濯機を転移させ、落とす。
ドゴッ!!
という生々しい音と共にコボルトはビクンと震えて動かなくなった。
成功だ。
幸せになる石よりも遥かに命中率が高く、それでいて殺傷力も高い必殺である。
「洗濯機落とし、三連撃!!」
洗濯機を何度も転移させ、コボルトの群れを一気に全滅してやった。
転移魔法、チートが過ぎるぜ。
MPの総量からして今のところは数回程度が限界だが、レベルアップを繰り返して行けば、そのうち何十回、何百回と使えるようになるはずだ。
もしかしたら洗濯機以上のもの――車でも落とせるかも知れない。
「そのうちなんちゃってメテオも撃てるようになったりして……。それは流石に無いか」
そんなの、本格的に無法スキルになってしまう。
でも出来たら絶対にカッコ良いし、神の話が本当なら今の地球では兵器が使えなくなっているはずだ。
メテオを使えたら、それは間違いなく国家を滅ぼし得る力だろう。
この魔物で溢れ返った地球を陰から支配するなら、それくらいの力は持っていないと期待外れも良いところ。
よし。大きな目標は陰から地球の支配、小さな目標はメテオの習得だな。
「取り敢えず、転移魔法のスキルLvを上げるためには練習が必要だな」
俺は魔物がマンション前を通ったら洗濯機落としを敢行し、そうでないなら自宅から出ないで転移魔法の練習をすることになった。
ところがどっこい、ここでトラブルが発生。
「お腹、減ったな」
うちの冷蔵庫の中にはロクな食料が無い。
俺の両親は借金を残して蒸発したため、俺は今一人暮らしをしている。
そのため、食品類は俺が月曜日の高校の帰りに近所のスーパーで購入してるのだが……。
今日は日曜日。
昨日、夜中に目が覚めて夜食を作ったせいで今日の分の食べ物が何も無い。
「……今の俺のレベルは8。MPもその他のステータスも、元の数倍になっている。ゴブリンやコボルトなら負けない、はず」
少し不安は残るが、餓死はしたくない。
俺は食料を得るために近所のスーパーに向かうのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント設定
主人公の家庭事情は最悪。
「幸せになる石が役に立ってて草」「マンション前を通っただけのゴブリンたちに同情する」「洗濯機落としで草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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