第7話 魔女
その子どもが指差した方向を見てみると、そこには女の子がいた。
遠目で見るだけで異質だとわかる少女。纏う雰囲気も服装も他の人とは違う。
しかし、それでも印象をあげるとすれば、とても……とても目が綺麗な女の子だった。
赤い宝石のように煌めき、燃え盛る炎のように見るだけで心がざわめく……そんな瞳でこちらを見つめている。
……目が合う。
「……んぐぅっ!」
息を忘れていた。
一瞬別の世界に迷い込んだような……長い夢から覚めたみたいに現実と頭の中の区別がつかない。
世界の境界線が正中線に走っているみたいだ。
『大丈夫かの?』
「ああ、平気。」
落ち着いて周りをよく見ると、その女の子があからさまに浮いているのがよく分かる。
村の人間の動線、視線はその子に交わらないようになっているのに誰もが意識の一部を割いている。
見られている事に気づいたのだろう……その子はふらふらとした足取りでこちらに近づいてくる。
水の中を漂うように歩くその少女は、たっぷりと時間をかけて僕の目の前までやってくる。
「君、なにか用?」
よく見ると、意外なほど清潔な衣服を着ているその少女に声を掛ける。
すると……
「……きっ…い…り…み……きみ?」
言葉にならないような呟きが返ってくる。
咀嚼するように何度も同じ発音を繰り返している。思考の波に入り込んでいるようにじっと動かないが、その目はまっすぐにこちらを見つめているままだ。
「どうしたんだこの子?」
『さあ?お主の変態チックな顔を見て慄いているんじゃろ。』
「何を言う。そこら辺の白馬の王子様より白馬してるイケメンだぞこっちは!」
『それだと馬面ってことにならんかの?まあ大方妾の偉大なオーラでも感じ取っているんじゃろ。実態がなくても流石は妾っ!歴代最強の魔王にして最多の配下と最大の領土を持ち、神にも抗う血と地と智を統べる……
「長えよ。」
おっと、会話声に出していたか。
「ごめん、ちょっと独り言多いけど気にしないで。」
「そ……そう?……ぼく?わたし?わたくし……
「名前?オライオン……まあ、言いづらいからライって呼んでくれ。」
「ええ!ええ!ライ様でよろしいですね?
彼女はまるで宝物を仕舞うみたいに僕の名前を繰り返す。
最初見た時は儚さを感じる少女だったが、今ではそこに何か強さが追加されているように思える。
「そうだ。僕、本……というか資料というか、とにかく歴史とかを知れる物が見たいんだけど、そういうのどこにあるか知ってる?図書館とか資料館とか。」
子どもには酷な質問か?
「そうですわね。うーん、申し訳ありませんわ。
どうする?
『行きたいの。次この村に来れるのがいつになるかがわからんのじゃから。それにこの小娘も気になるしの……』
確かに不思議な雰囲気の女の子である。どこか本能に働きかけるような……それが恐怖なのか好意なのかは分からないが。
『まあ、こんなガキに何かできるとは思えんしの。別に行っても良いじゃろ。』
僕が了解の意を示すと、少女は満面の笑みを浮かべ喜ぶ。
気のせいかもしれないが、無垢なはずのその笑みは、しかし何かを含んでいるように見える。
「そういえば、君の名前聞いてなかったね。」
長く艶やかな黒髪を翻している少女に、忘れていた疑問を問いかける。
別に大した質問でも無いのに少女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、少し考える。
「どうしましょうか、なんでも良いんですけど……せっかくならそうですわね。ルナ……ルナ・スコルピオス。ルナって呼んでくださいまし。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます