第6話 5歳だってよ
拝啓。
お母様お父様、雄平です
こちらの世界に転生してきて五年ほどが経ち、もう一人で歩けるようになりました。
こちらの世界での名前は拾ってくれた人に名付けてもらいまして、“オライオン“という名前になりました。ライ君とかと呼ばれています。
イエーイッ!クラスに二人はいるような平凡な名前と違ってかっこいいぜ!やっぱ異世界はセンスが違うんすな!
ちなみに、名前の意味はおしっこだそうです。僕が変な薬を飲んだ際に思い切り漏らしたことが由来だそうです。
やっぱ異世界はセンスが違うんすなぁ……。
平凡な名前のありがたみに感涙しながら今僕が何しているかというと……新しい母親から全力で逃げてます。
「“原初の火よ 我が魔力を用いて 敵を燃やせ“」
森の中を全力で駆けていく。
ほとんど獣道といえど、歩けるようになってからの数年何度も歩いた道であるため、ほぼ前を見ずに魔力を練り上げ、詠唱をする。
狙うは後ろから追ってくるエイラさんではなく、その横の木。
本人を狙っても涼しい顔で防がれるため、あえて別の場所を狙う。当然森が燃えるわけにはいかないため、エイラさんは木を守らねばならない。
あの時飲んだ薬によって強制的に魔力を知覚できるようになった僕は、頭脳が大人という利点も活かし、五歳児にはあるまじき魔術の腕になっているのだ。
「甘いよっ。」
まあ、どうせガキなんでね。熟練の魔術師には敵いませんよね。
エイラさんが放った水魔術は僕の出した炎を軽く消し、そのまま縄のようにしなり僕を縛り上げる。
「さあ、さっさと布団を出しなさい!」
「いやだっ!」
「んぅもう!なんでそんなに嫌がるのさ。5歳でお漏らしが恥ずかしいのはわかるけど!」
違うんです五歳じゃないんですよ。本当はもう高校生でぇ、恥ずかしいとかじゃないレベルでぇ。
『前世と今世合計したら成人しとるしの。』
この年で年齢サバ読みたいと思うとは考えもしなかったな。
いや違くてね。大人を一回経験してるから、子供の膀胱との差とかで間違えちゃっただけでね。仕方ないことなんだ。
「さっさと洗わないとシミになるんだから……ってあれ?布団、持ってない……?」
「ふははははっ!そう、これがシュレティンガーの布団だ!お漏らしを確認される前に燃やしさえすれば、僕が本当にお漏らししたかはわからない!」
『いや、わかるじゃろ』
「うん?そのシュレ……なんちゃらはわからないけど、布団……燃やしちゃったの?」
「え?……あ、まず。」
やっべ、その後のこと何にも考えてなかった。
「ねえ、うちに余分なお金とかがないこと……聡いライ君ならわかってるよね?それなのに燃やしたの?」
「いや、あの、その。」
『だからやめろと言ったんじゃがな。』
いや絶対言ってないしそれどころかこの作戦提案したのおまうぎゃあああああああああっっっ!!!
◇
『エルフという種族は長い寿命に高い魔力を持ち合わせておるが、それらに対し低い生殖本能によって人数は減り、なおかつ俗世離れした思考に長寿ゆえの保守的な思想も相まって人里離れて暮らす者が多いのじゃ。正直、いまだに絶滅せず残っていたのが不思議じゃな。』
というのが魔王様の弁。
エイラさんを見る限り、エルフの習性はアンリエッタの生きていた頃とそう変わらないらしい。
逆にエイラさんが異質なくらい親しみやすい性格をしているそうだ。
『妾たちには情報が足りん、情報が。妾が死んでから二、三千年は経っているじゃろうが、思っておったものより世界が進んどらんの。歴史を一から学びたい。』
それは毎回世界史のテスト赤点ギリギリの僕にいうことですかね?
『別にお主がちゃんと学ぶ必要はない。さらっと資料でも見てくれれば妾が暗記してやる。』
いや、資料って言ったって……
「こんな辺鄙な村にあるかぁ?」
僕が布団を灰に変えた日の午後、僕とエイラさんは新たに買い直すため麓の村に来ていた。今日はたまたま行商人が訪れている日だそうだ。
しかし、初めての人里だというのに一目で期待できるようなものがない村だとわかる。
二十軒にも満たないような民家は、様式などの差異はあるものの僕らが暮らしている小屋と大して変わらないし、武器屋も無ければ冒険者ギルドといったものも無い。
行商人と話しているハゲた村長の家と思われる一際大きな洋館も、現代日本で暮らしていた僕にとっては面白みもない。
エイラさんは、村の外に駐在している行商人の馬車に近づく前に一声かけてくる。
「ボクは買うもの見繕ってくるから、ライ君は村に行っておいで。同年代の子たちと一緒に遊んでもらっててね。」
「了解。」
と言っても、こちら精神年齢高校生ぞ。
今更ガキ共と遊んだところで……
◇
「うぇーーい!!!!ガキ共蹂躙するの楽しいぃぃぃ!!!!」
『……おい。』
この村にいる子供たちには僕より年上の子もいたが、魔術によって身体能力が強化された僕からすれば敵ではない。
鬼ごっこにて数分も経たずに全員を捕まえた僕は、この村に来て早々ガキ共のボスとして君臨していた。
「おまえつよすぎー!」
「どうしてそんなにはやいの?」
ガキ共は憧憬の眼差しでこちらを見つめてくる。まあ、ほぼズルみたいなことしているだけだが、意味ありげに笑ってみる。
「ふっふっふ、特別に教えてあげてもいいぜ。」
「おー!すげー。おしえておしえてっ。」
これが王の気分かぁ!良いものだな。
『王舐めんな。』
しかし、別に教えられるものでもないんだよなぁ。
それっぽいことして騙しとくか。
「ふっ、僕は魔法使いなんだ。見てろよ……!」
思いっきりもったいぶりながら、指先に注意を集める。
子供達の視線がちゃんと集まったところで……ボンッと大きな音を鳴らしながら指先から炎を吹き出させる。ライターのように落ち着いた炎ではなく、わざと不安定で揺らめく炎を。
視覚と聴覚を通じて驚かせるように魅せた魔術だ。
こりゃ、子供じゃさぞびっくり……?
「わっ……すごいっ……でもこれ?」
「もしかして?」
「ママがいってたやつ?」
なんか変だな?
驚かすことは成功している?なのに、子供たちはまた別の何かに気を取られているような。
『怯えているの。でも、お主にじゃない。』
なんだぁ?
とりあえず、一番近くにいる子に話を聞いてみる。
「どうした?何か変かな?」
「いや、たぶんだいじょうぶだけど。ママがまじょにちかづくなって。」
「僕男だけど。」
「うん、ライくんまじょじゃない。でも、ママはまじょはふしぎなことをするって。」
子供だからか要領を得ないなぁ。
そんな状態を見かねたのか、村の子たちの中でも年長の子が話してくれる。
「ま女っていうのはあの子のことだよ。よく知らないけど、大人たちからそう呼ばれているんだ。」
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