第4話 盗賊②
「おぎゃあ!(なんだあれ⁉︎なんだあれ⁉︎)」
もう人間としての体を保っていないナニカがそこにはいた。
イメージするオークやオーガみたいな感じだろうか。筋肉隆々で三メートルを超える巨体は人型ではあっても人間ではない。血管が異様な数浮き出ていて、体表も紫色になっていた。
『あれと一緒にするでない。オークどもはあんなに醜いものではないわ。』
じゃああれなんだよ!薬みたいなの飲んだ瞬間ああなったけど⁉︎
『あれは……恐らくじゃが、強制的に魔術を行使させる類の薬じゃな……穢らわしいの……。』
強制的に?
『そうじゃ。基本的に魔術を扱うまでに必要なハードルは四つ……適正属性、術式、魔力量、魔力出力量じゃ。あれで発動させてるのは無属性じゃから、適正属性については無視していいの。』
曰く、術式はどのような魔術を行使するか決定する楽譜。魔力量はその名の通り魔力のタンクであり、発動する魔術に込められる分の魔力量を保有してなければ魔術は成り立たない。そしてその魔力量があっても、一度に込められる魔力の量には個人ごとに限界がある……それが魔力放出量らしい。
『あれはその三つを無理やりクリアしているんじゃ。体を無理矢理作り変え術式を構築させ、限界を超えて魔力を込めさせる。魔力量に関しては、死ぬ寸前まで発動させればそこそこ持つからの……。』
そんなものが?
『どこにでもそういうのを作る連中はいるもんじゃろ……とにかくあれで発動しているのは身体能力強化と防御魔術の二つじゃ。シンプルじゃが一番効果があるの。』
そんなの……そんなのって……
『まあ凄惨じゃのぉ……平和な世界に住んでたお主にはちと怖いかえ?』
ああ……薬で無理やり体を強化なんて……
「ぎゃあ!(すっげーカッケェじゃん!)」
『はぁ?』
変身こそ男のロマンだよ!なぁ!
ダークヒーローってやつ⁉︎元の姿とのギャップがあればあるほどカッケぇじゃん?筋肉隆々で喋れなくて一見悪そうなんだけど根は優しいみたいなのに憧れる時期が男の子にはあるんだよ!!
『一見悪いというか、普通に悪じゃろ。』
使ったら寿命が縮みそうなところもまた良い。
『サブカルに染まった現代人の価値観は世紀末じゃの。こちらの世界の方が意外と価値観まともなんじゃな。』
「うぉおおおおおお!お前ら!カッコいいぞぉ!そのままあいつらを蹴散らせ!」
「はいお頭ぁ!あいつらは立派な男ですぜぃ!」
『やはり人間は滅ぶべき生き物かえ?』
魔王メンタルが再燃するほど僕たちのこの思いは邪悪じゃないぞ!かっこよさに憧れる思い……これはそう!初めての保健体育の授業……それが終わった後に親に質問する時くらいには純粋なんだ!
『やっぱり邪悪じゃろうて。』
俺が感激に耽っていると、二つの巨大な体躯がエイラツィオさんに向かって駆けていく。
薬で強化されたその速度は、到底人間が……ましてやあの巨体では出すことのできないであろうスピードだった。圧倒的質量と相まってダンプカーのようである。
「よし!行けぇ!」
「バブゥバブゥ!!(よっしゃいけるぜ!)」
『お主どういう立場なんじゃ?』
揺籠の中の開けていない視界では、ただでさえ小さいエイラツィオさんの体は突進していく二人の姿に埋もれていく。
巨体が風を切る音と床が踏みつけられる音とが響き、ついに激突する。
バチンッッと爆発音のような衝撃が小屋を揺らし、予想以上の衝撃に思わず目を瞑った……そして。
「これでボクを倒せると思ったのなら心外だよ。」
エイラツィオさんが、無傷で立っていた。
突っ込んで行った二人は水の壁のようなものでせき止められ、顔も覆われているため窒息し気絶している。
気を失ったことで薬による魔術の強制は止まったのだろう、巌のような体躯はどんどん縮み、元の大きさに戻りつつあった。
その化け物じみていたというかほぼクリーチャーだった奴らを倒したエイラツィオさんは、自慢げな笑顔を浮かべながら、残った盗賊たちに対して右手を向ける。
当然、その手には魔力が込もっている。
「ふっふっふ……エルフの里において100年に一度の天才と謳われたボクに死角はないよ!」
と、エイラツィオさんは声高々と宣言するが……
「あの……ガキ取っちゃてるぞ。」
「おぎゃあ!(何やってんのぉ!)」
あの二人が彼女を襲っている間に、盗賊の一人が僕の首根っこ捕まえて確保したのである。
いや……あの……
『ちなみに、エルフは長寿な上に数も少なく、生殖機能も衰えがちじゃから……そもそも百年に一人ほどしか子供は生まれんのじゃ。だから別に……1000年に一度のおっこちょちょいかもしれんがの。』
その……あの……頑張って。
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