第3話 クリーム味、もちもち
私とアルバム、そしてルリちゃんは並んで、花壇が良く見える位置のベンチに腰を掛けた。
「美味しい~! やっぱりクリーム味、なんだよねぇ~! ね? アルバムとルリちゃんもそう思わない? 」
「モチモチ、モチモチ」
「え、ええっと…… 私は、鯛焼きは
「なんと! クリームの素晴らしさがまだ分からないみたいだね」
「モチモチ?」
「そう…… なんでしょうか……? 」
時間を約束している訳じゃないし、先生の事務所には、少し遅れても大丈夫。 今は朝のおやつに舌鼓を打とう。
「あ~、朝食のすぐ後に甘い物って、すごく贅沢な気分! 」
「それで、ひざしさんはどうして私にも鯛焼きを? 怒っているんじゃ? 」
「いや、別に怒ってないよ」
「え?」
「確かに、あのアオダモは、私の思い出が詰まった大事な木だし、この大通りの植物管理と、デザインも私が手伝っているんだけどさ――」
「え…… 」
ルリは、食べようとした鯛焼きから口を離し、申し訳なさそうに口をすぼめた。
「あぁ、ほんとに怒ってないから! ほら、アツアツの内に食べて! 」
「モグモグ、モチモチ」
「そうですか……」
「だって、それだけこの枝が綺麗に見えたってことでしょう? 」
私は、ルリちゃんがさっき折った、アオダモの枝を揺らして見せる。
「確かに折ったのは良くないけど、それはもう謝ってくれたんだし、オーケー! クリーム味の鯛焼きは、植物を好きになってくれたお礼で、私は今はこの枝をどうするか考えてるんだよ」
「枝を? 」 「モチモチ? 」
「ただ飾っても良いけど、挿し木にして、土に植えたら良いんじゃないかなって」
「挿し木? って何ですか?」
ルリは首を傾げた。
「挿し木っていうのは、まだ切ったばかりの枝を、植木鉢とかの土に挿し込む手法で、うまくいくと根っこが生えて、一本の枝から新しい木になるんだよ」
「へぇ~ 」「モチモチ! 」
「これなら、枝が無駄にはならないし、ルリちゃんのお家でも、この木が見えるようになるかも。 ただ、挿し木にする時は、この枝の花の付いている部分を、短く切らないとだね。 ルリちゃんどうかな? 」
「なんか大変そうなので、花瓶に飾るだけで良いです」
「そ、そっか…… 」
「モチモチ」
鯛焼きを食べ終わったアルバムが、慰めるように、私の膝に手をポンと置いた。
「まぁ、花を楽しむならそれが良いか。 そのまま水に入れても、根が出ることはあるし」
「そうなんですか? 」
「うん、ただ発根率を上げるための薬を入れた方が良いかも。 欲しいならあげるけど、それはどう? 」
「欲しいです」
「良かった! ルリちゃん、この後時間はあるんだよね? 」
「はい」
「じゃあ、目の前にある先生の事務所に一緒に行こうか」
「先生、事務所? あの、知らない人についていくは…… 」
ルリはしっかり者だった。
「あぁ、先生―― ブラウニーのアリシアって聞いたことある? 」
「!! 知ってます、グリムの街で一番有名なお庭の管理人さんだって、聞いたことがあります」
「先生がそのアリシアさん。 事務所もほら、あれだよ」
私の指指す先には普通の民家くらいの建物がある。 周りは開けていて、太陽に明るく照らされる花々が美しい。
「あれですか?! 凄く目立っていたので、気になってはいたんですけど…… 」
「どうかな? アルバムと一緒にここで待っていても良いけど」
「モチモチ」
「……行きます! 」
「よっしゃ! じゃあ行こう!」
「はい! 」
「モチモチ! 」
私は小さな少女と大きなハムスターを引き連れて、アリシア先生の事務所に向かう。
album sunlight ひたかのみつ @hitakanomitsu
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