35.メルリル③ 秘策
「何が……!?」
和希達がいきなりいなくなった事に驚いたハルト。同様にそれを見ていた生徒も驚いていた。ハルトはいち早く気を取り直し迫ってきていた氷の鎧に火の弾を放ち溶かす。他の生徒も少し経つと目の前の戦いに集中し始める。
「ハルト! 後ろはもう大丈夫そうだ!」
後ろから声が聞こえてきた。ハルトは振り向かずともそれが誰なのかわかっていた。
「そうか。まだ後ろで守っていた方が良いんじゃないか?」
「ハルト、お前が好きにしろって言ったんだぞ」
「でも後ろに戦力の和希がいなくなってる以上他の奴らがどうなるかわからないぞ」
「ハルト、俺らはそんなに弱くはないぞ。それに俺達を信じろ」
「信じろ、か。俺はもう行くから」
「おい、ハルト、待てって!」
ハルトはシノとラムネのいる最前線へと走り出す。手に力を込め近づいてこようとする氷の鎧に火の弾を放ちながら進んでいく。走るハルトの後ろには剣を持った京香の姿があったが海斗の姿はどこにも見当たらなかった。すると次の瞬間ハルトの隣に海斗がいきなり現れる。
「!?」
「俺の
「ずるだろ」
「おっ、やっとちゃんと反応してくれた」
「うるせ」
走っていたハルトはシノとラムネの元に着くとスピードを緩め止まる。それに合わせて海斗も止まった。京香は必死に走ってきて遅れてハルト達の元に到着した。
「ハルト、いいの?」
「こいつらか? 勝手についてきてるだけだ」
「ずっと思ってたけどこの可愛い人達は何なんだ?」
「それは後でいつかそのうち死ぬまでに話すよ」
「いつだよ」
ハルトはメルリルを見たあとに周辺を見渡す。どこもかしこも氷の鎧と戦闘を繰り広げておりやはりキリがない状況。このまま行けばきっとハルト達側が負ける事になってしまうだろう。実際馬車の方で戦闘をしている者の中には体力の限界を迎え結華に治療してもらっている者もちらほらいるのが見える。つまりはどれだけ早くメルリルを倒せるかが重要となってくる。
しかしメルリルにはそう簡単には攻撃が通用しないと言うことがハルトの攻撃で判明している。あの翼をどうにかすることができればもしかしたら致命傷を与えることが出来るかもしれない。それとメルリルは攻撃に対して耐久性がないようでちょっとの攻撃でもダメージを負っていた。
ということはもし直接攻撃を当てる事ができれば形勢逆転することが出来るかもしれないとハルトは思った。
「ハルトさん! もういっそ巻き込んで氷を燃やしちゃいません??」
「そんな事したら俺達は大丈夫かもしれないが他のやつがどうなるかわからないぞ」
「東雲くん、それならいい案があるけど」
いきなり会話に入ってきた京香がそう言うとハルトはその言葉に反応し何かと訪ねた。そして京香はその問いに対して答える。
「麻衣美の
ハルトは自分と結華、海斗、和希以外の
「麻衣美の
京香が言っている事をまとめると、まず麻衣美の
しかし京香にはこの作戦にひとつ懸念点があった。それはハルトの攻撃威力に防御結界が耐えれるかどうかということ。麻衣美のこの
「ハルトの力はまだ弱いから大丈夫」
「おい!」
「ふふ、そうか。なら麻衣美に伝えてくるとするよ」
京香は急いで馬車の方にいる麻衣美の元へと走り出した。
「行かなくてもいいのか? 朝稲のとこに」
「俺はハルトの所に残るぜ。あ、でも嫌がらせで攻撃当ててくるなよ?」
「それは保証できん」
「この世界じゃ今から入れる保険ないんだからやめてくれ」
「何言ってるんだ」
「……いきなり冷た」
一方麻衣美の所に戻った京香はハルトとした話しを詳しく説明する。しかし麻衣美はその案に対して中々頷くことができなかった。
「私にそんな重役なんて……荷が重すぎるよ。ハルトくんのお願いでも私には……」
「はぁ、そんなに弱気になってたらダメ。そんなんだとライバルに負けることになっちゃうけど?」
「そ、それは!! でも……私が耐えれなかった時には皆が痛い思いをしちゃうし」
「そん時はそん時。それに耐えられないのは麻衣美のせいじゃない。東雲くんが相手が女の子なのに力加減出来ないのが悪いから」
「そ、そうです! わ、私は被害者。だからやります! ハルトくんの為に皆の為に世界の為に。そして私の為に」
京香は氷の鎧と戦闘しているみんなを麻衣美の元に集める。最初はなんだよと文句も飛び交ってはいたが京香が事情を説明するとひとまずは理解してくれ協力の姿勢を見せた。別のところにいたダリアも合流し麻衣美のところにようやく全員が揃った。
「行きます!! 【フィールド】!!!」
麻衣美を中心として余裕を持って生徒を囲むドーム型の防御結界が現れる。防御結界が完全に完成したことを確認した京香はハルトに大きく手を振り準備が出来た事を知らせる。それを見ていたハルトは魔法を放つ準備は始めた。シノは火の障壁を生成し上、左右を囲む。その中には海斗、ラムネ、ハルトも入っていた。
「行くぞ」
「うん」
ハルトは最初やろうとしていた一面に炎を敷くという作戦をもう一度実行しようかと考えていたがここでよくない事を考えてしまう。それは守りがあるならもっと派手なのでも大丈夫なのではというものである。ハルトのそんな考えに気づくものはおらずとうとう魔法が放たれる。
メルリルの頭上にはまるで太陽の様に燃え盛るとてつもなく大きな火の球が現れた。ここで異変に気づいたシノとラムネだがもう遅い。ハルトは止められない。
「落ちろ」
火の球はメルリルに対して勢いよく落ちていく。物静かさに気付き異変を察知したメルリルだったが既にすぐそこには火の球が落下してきている。急いでメルリルは翼を広げてその場を離れようとした瞬間に火の球が地面に当たり大爆発を起こす。
「麻衣美!!!! 耐えて!!!!!」
「はいーーー!!!!!!」
ハルトの魔法の爆発の衝撃波で今にも壊れそうな防御結界だが麻衣美は必死に耐えなんとか持ちこたえていた。
「もう! 許さないですから! ハルトくん!!!!!!」
「おい、これはどうなってるんだ。台風か?」
吹き飛ばされた馬車から飛び降りてきた一条先生は麻衣美が展開している防御結界にノックし聞いた。中に居た生徒はあまりの衝撃的なことすぎて一条先生の幽霊が出たと思い込んでいる者もいた。それも仕方ないことだろう。なんせ外は爆発の衝撃波や熱波など色々なものがあるというのに平然と一条先生は外に立ち目を擦っているのだ。
「一条先生、何してるんですか!!」
「何って、目覚めの体操だ」
一条先生は結界の外で前に拳を突き出したり戻したりと本当に体操なのかと思える事をしていた。上から爆発でダメージを受けた飛ばされていたメルリルがふらーと落ちてくる。そして一条先生がちょうど前に拳を突き出した時その拳にメルリルの顔が当たる。
「ヌグッ!!」
聞いたこともない声を出したメルリルはそのまま地面にバタっと倒れた。
「ん? 誰かこいつ保健室連れて行ってやれ」
「俺の活躍を返せぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!!!!!!!!」
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