34.三人の罰

「シノ! ラムネを手伝ってやってくれ」


「うん」


 ハルトにそう言われたシノは急いで交戦中のラムネの所に走っていった。その場に残ったハルトは結華達の様子も見ながらメルリルにどう攻撃するかと悩んでいた。そんな時ハルトの後ろから足音が聞こえてくる。誰なのか気になりハルトが後ろを振り向くとそこには和希、大智、孝汰が立っていた。危機感を覚えたハルトはすかさずいつでも魔法が放つことが出来るように手を少しだけ前に出す。


「東雲君、本当に君が生きていてくれて嬉しいよ。凄く心配していたんだ」


「……ならなんで見捨てたんだ」


「見捨てた? あーそれは誤解だよ。あの時の僕は色々な事に焦っていてどうかしていたんだ。君が死んだとすら思っていたんだ」


「ふざけるなよ。どうせ結華関係の嫌がらせなんだろ。わかりやす過ぎるんだよ。前から」


「随分言うようになったね。東雲君。でもまだ立場を理解していないのかな? 僕は聖剣に選ばれし者、対して君はハズレ神にでも愛された者なんだよ」


「もう前の俺とは違う……」


 ハルトは拳を握る。


「ハハ、知っているよ。その〜何ていうのかな。魔法みたいな力の事でしょ? そうだ、気になったんだけどそれ腕を切り落としても使えるのかな?」


「……何を言ってるんだ?」


「僕はね、結華と好きなおもちゃにしか興味がないんだ。だから試させてよ?」


 その時大智がハルトに対して指を向ける。魔法を放とうとしたハルトだが大智の【拘束】により手も体も動かすことが出来なくなってしまった。そして和希は聖剣を鞘から抜きハルトに向ける。


「おい!! やめろ!!!」


 その場から逃げようとするハルトの体を大智と孝汰が掴み移動することすら許されなくなってしまった。周りの生徒も異変に気づく。海斗は能力スキルを使用し高速で走り出しシノはとっさに和希に対して魔法を放つ。京香も剣を強く握りしめやめろと叫びながら走る。


 しかしそれらは決して間に合うことはない。


「東雲君の腕も結華も後ろの銀髪の子も水色の子も全部全部……僕が貰うから」


 全員が一斉にやめろと叫ぶがついに和希は聖剣を横に振り縛られたハルトの腕を斬ろうとした。その時どこからか「テンプル」と囁く女性の声が聞こえてきた。


「は?」


 その瞬間和希、大智、孝汰の姿は消えてしまった。それを見ていた全員が理解できず思考が停止していた。



@@



 赤いカーペットが続く先に玉座が一つ。そこに座るは謎の女性。


「なぁ……和希ここどこだよ」


「僕に聞かれても知るわけがないだろ」


「とりあえず二人共落ち着け。あそこの女に話を聞いてみれば良いんじゃないか」


 三人が玉座に座る女性に近づこうとした時女性の方から歩いてきた。胸の下で腕を組んでいる女性はカツンカツンと近づいてくる。大智と孝汰はこれから何が始まるんだとソワソワしていたが和希は聖剣を握りしめ今にもその女性に斬りかかりそうな様子だった。


 女性は和希の間合いまで来ると止まる。三人はゴクリと唾を飲み込んだ。


「この中でこれ以上殺意を持つのはおすすめしないわ」


「何なんだ! ここは! 俺達を今すぐ戻してくれ」


 和希はいつもの様な口調ではなく怒りに満ちた様に言った。


「それは無理なお願いね」


「なぜだ!!」


「私……きまぐれなのよ」


「……は?? ふざけるな、ふざけんじゃねぇぞ!! 二人とも行け!!」


「あ、え、あぁ」

「……あぁ」


 大智は女性を【拘束】する。そして孝汰は非戦闘系能力スキルなので和希に対して攻撃威力上昇を施した。それでもなお女性は焦る様子はなくただされるがままだった。


「見知らぬ女を手にかけるのは心に来るものがあるけど……いや別の事に利用するのもいいかもしれない」


「和希……?」

「……何を?」


「ふふ、残念だけれど貴方とどこかに行く気なんてないわ。もう私にはお気に入りがいるのよ」


「そんなのは関係ない。わからないようなら東雲にやろうとしてたみたいにするぞ」


「好きにするといいわ。ただし出来るならの話だけれど」


「なめるなよ!!!!」


 和希は聖剣を強く握り拘束されている女性に剣を振った。しかしその時横から強風が和希を襲い飛ばされてしまい太い柱に激突した。グハッと血を吹き出した和希だがさらなる脅威が迫る。今度は反対側に建っている一つの像が剣を和希に向かって投げ飛ばした。その剣は像が持っていると言うだけあってとても大きく硬い。命中すれば確実に死ぬレベルである。


 和希は恐怖のあまり立ち上がれなかったがどうにか聖剣を持ったまままるで赤ちゃんの様に横に避ける。飛んできた剣は柱に激突し柱の大きな破片が和希に降り注ぐ。死を感じ必死に暴れ立ち上がる事が出来た和希だったが飛んできた瓦礫に右足にぶつかりその場にこける。


「ギャアアアアアアアア!!!!! 俺の足がァァァァァァ!!!!!」


 こけた和希の右足は瓦礫によって押しつぶされ完全に折れていた。あまりの痛さに和希は叫ぶ。その叫び声は柱に瓦礫が地面に落ちた時の衝撃音よりも大きく異空間内に響き渡っていた。


 それを見ていた大智と孝汰はこれから自分達にもあのようなことが起こるかもしれないと考えただけで恐ろしくなり腰が抜ける。そして二人共尋常ではない汗をかいていた。


「この拘束は……誰のものなの?」


「あッ! いや、ちがっ! 俺ではありません」

「お、俺でもないですッ!!」


「ならあそこで喚いている彼の力ってことなのね」


「そ、そうです!」


 大智はバレていないこの隙に拘束を解除した。


「解けたみたいね。ねぇ、貴方は知ってるかしら?」


 拘束の解けた女性は大智の目を見て話し出す。大智はバレてしまったのかと思いより怪しい雰囲気を醸し出してしまう。


「な、な、ななななにをですか?」


「私に嘘は通用しないのよ」


「お、おおれは、ち、ちちちがうんです!!!!」


 大智は恐怖のあまり立ち上がり後ろへと叫びながら走り出した。そんな大智の姿を見て女性はふふと笑っていた。必死に後ろに走った大智だがそこには外に出る扉などなかったためただひたすら壁を叩いて「出してくれ」と叫んでいた。


「ちゃんと後ろ見ないと危ないわよ?」


「……!!?」


 大智が後ろを向いた瞬間そこには大きなトロールの様な魔物が現れていた。大智は急いでそのトロールの様なものから逃げようとするが体がどうにも動かない。なぜかと思い自身の体を見てみると体には輪っかが巻き付いており拘束されていた。必死にそれを壊そうとするが何をしても壊れない。その頃にはトロールが拳を振り上げていた。


 それに気づいた大智は急いで逃げるがこけてしまう。そしてそこにトロールの拳が振り下ろされる。


「ギャアアア!!!!!!!!!!!!!」


 トロールの拳によって大智の右足は完全にぐちゃぐちゃになり白いタイルに赤い血が溢れていた。


 そして残されたのは孝汰のみとなってしまう。孝汰は俺は何もしていないと言い張り罰を免れようとする。


「ふふ。大丈夫。貴方が一番マシよ」


 女性はそう言うと和希の方に歩き出す。悶える和希を無視して近くに転がっている聖剣を拾った女性は孝汰の元へ戻る。孝汰はこれから何をされるのか理解し逃げようとするが首元に聖剣を突きつけられ逃げることが出来なかった。


「やめ、やめてくれ。本当に俺は俺は何もしていない」


「それは本当なのね?」


「あぁ! 本当だ! 信じてくれ」


「まだ何もしていない事は知ってるわ。でもほら、私きまぐれなのよ。だからまだ付き合ってもらうわ」


「ふざけるな! な、なんで俺まで!!」


 女性は首からゆっくり聖剣を下に這わせながら移動させ孝汰の右足の部分まで来た時に手を止める。止めた手を今度はゆっくり足に向かって押し出す。すると聖剣はゆっくり孝汰の足に突き刺さり始める。


「ギャアアアアアアアアア!!!!! や、やああああめてくれぇぇえええ!!!」


 孝汰は突き刺さった状態で痛みに耐えられず暴れてしまうためさらに聖剣が足の中を掻き乱す。しばらく叫んだところで女性は聖剣を勢いよく押し出す。すると聖剣は足を大きく斬り裂き血が溢れ出した。その時にはもう孝汰は気絶し地面に倒れてしまった。


 そして女性は聖剣を投げ捨て玉座の方へとカツンカツンと戻っていく。玉座に座り込んだ女性は右手で頬を触る。


「邪魔なんてさせないわ。あの二人がやり遂げるまでは、ね?」


 異空間は急速に収縮し姿を消したのだった。










**

「面白い」「続きが気になる」など何かしら思って頂けたらハートやフォロー、レビューお願いします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る