29.正義と悪になるまでの間
「どういう事か説明しろ!!!」
「隠してんじゃねぇーぞ!!」
「私達を支配する気なんでしょ!!」
ハルト達が馬小屋からしばらく走っていると王城に向けて沢山の人が何かに対して罵声を浴びせていた。彼らの言っている事を聞いているとどうやら神託官に関する内容であるという事がわかった。そんな彼らはどんどん王城へと進んでいくがそこを国の兵らしき者達が阻止していた。だが国民は兵に対して樽や槍、斧、酒瓶などありとあらゆる物を投げつけていた。身の危険を感じた兵はジリジリと後退していきそれに合わせて国民は前進していく。
ハルト達はこの混乱に乗じて王城に潜入しようということになったのだがあまりの人の多さで前に進んでいくことが出来ない。どうやって王城まで行けば良いのかと悩んでいると別の場所で大きな音が聞こえ砂埃の様なものが少しばかり見えた。ハルト達はその方へ行きたくてどこかに抜け道の様なものがないかと辺りをキョロキョロしていると聞き覚えのある声がどこからか聞こえてくる。
気になったハルトは声の聞こえた方を見ると一つの建物の上にヴィーネが座っていた。ヴィーネもハルトに気づいたようで軽く手を振っていた。
「本当はこんな事したくはないのだけれど仕方ないのよ。許してね?」
「……!?」
ヴィーネは小さな声で「
「このまま王城に行くべきか? それともあっちを一旦見に行ったほうが良いと思うか?」
「……わからない」
「もしかしたらあの時の筋肉の可能性もあると思いますけどぉ〜」
「なら片付けておいた方が良さそうだな」
「わかった。行こ」
「わったしの剣が異端な技を炸裂しますよぉ〜〜!!!!」
三人は王城に向かって走っていたが途中で先程から爆発が起こっている方に向かい出した。走っているとハルトは人が全然居ないということに気づく。皆どこかに行っているのかそれとも隠れているのだろうか。色々と憶測を立てるがすぐに結果は明らかとなった。
「こ、これは一体……!?」
しばらく走ったハルト達の目に映ったのはざっと二十人ほどの人の死体と崩壊した家々だった。そして死体の先に立っていたのはラムネの言った通りアッシュだった。あまりの衝撃的な光景にハルトが固まっていると存在に気づいたアッシュがその場に立ったまま声をかけてくる。
「ったくまんまとヘレボルスにやられたぜ。これじゃあ愛国心強めのここの国民は暴れだすに決まってるのによ。おかげで俺達の支配が揺らいじまってる。やっぱりあれか、お前らが今回の件に一枚噛んでるだろ。面倒な事してくれるなぁ」
「な、なんでその人達を殺した!! 殺す必要があったのか!!!」
「面白い事言ってくれるなぁ。殺されそうになったから殺したんだよ。それの何が悪い? 正当防衛ってやつだ」
「正当防衛? 限度ってものがあるだろ!」
「お硬い考えだな。そもそもこいつらが暴動なんて起こさなきゃこんな事にはなってないだろ? 自業自得だ自業自得」
その時物陰に隠れていた小さな男の子が死体の方に走っていく。
「ママ? ねぇ? 起きて! もう逃げようよ!! ねぇ、ねぇ!!」
男の子は涙を流しながら女性の体を揺さぶる。しかし起き上がることもなくただ揺さぶられる度に血が体から流れ出ているだけだった。それを見ていたハルトの脳内にどこかのある日の出来事が浮かび上がる。雨が降る道路の真ん中。信号は月と一緒に水たまりに赤色を照らしている。倒れる女性の体を一人の男の子が泣きながら体を揺さぶっている。その後ろで背の高い男性が荷物を地面にボトッと落とし立ち尽くしている。そんな光景が一瞬でハルトの脳内に流れた。
「…………」
「……ハルト?」
「ハルトさん……」
「フンッ。どけくそガキがァァァ!!!!!!」
アッシュは片腕がないため左手を拳にして思いっきり地面を叩いた。すると衝撃で地面が隆起しだしそれは女性の体を泣きながら揺さぶる男の子の方へと向かっていく。ハルトは手を強く握りしめる。
「母親のとこにでも行ってるんだな!!!」
バゴォォォォン!!!!
とてつもない音と砂埃が発生し状況が全く分からなくなっていた。砂埃がおさまりその場にいた全員が男の子の安否を確認するとそこには男の子に覆い被っているハルトの姿があった。
「どうやって!?」
ハルトは男の子の頭を撫でて立ち上がる。そして再び拳を強く握る。
「……ざけるな」
「あ?」
「ふざけるな!!!! この子にだってあの人にだって皆に家族がいるのにそれを簡単に……。どうしてそれの尊さがわからない! なぜ理解が出来ない!! 何の為に生まれたんだァァァァ!!!!」
ハルトはアッシュに対して右手を広げそして火の弾を放つ。気づいたアッシュはとっさに左手で防御の構えをする。そして火の弾がアッシュに衝突した瞬間大爆発を起こしアッシュは後ろに吹き飛ばされた。吹き飛ばされたアッシュは後ろにあった建物に激突して止まる。そして口から大量の血を吐き出した。
「君はあっちに行ってな。お兄さんが絶対敵をとるから。約束だ」
「……うん」
男の子はハルトに言われて死体から離れ安全な場所に移動した。一方ハルトは地面に転がる死体を踏まず跨がないでアッシュに近づく。アッシュは口から出た血を左手で拭ったあと瓦礫の上から立ち上がり降りる。
「この悪が……!!
「ロイエルならきっとこういうぜ? 結果に名を残した者が正義だってな」
「何が言いたい?」
「つまりはまだ正義が誰とか悪が誰とかは決まってないんだよ。そう、決まってないってことはやりたい放題だ。わかったか?」
「お前は悪だ。神から力を得たと称し国民を騙し支配した村からは定期的に村民を奴隷にしたり……。多くの人間を騙してきたんだ。神託官は全員悪だ」
「悪って決めつけるなんてな。やめてくれ。俺はな、悪でも正義でもなんでもないその時が一番楽しいんだよ! こうやって暴れられるからなァァァ!!!!!」
アッシュは左手で再び地面を叩くとハルトに向かって地面が隆起し迫る。しかし案外避けられるようでハルトは簡単にそれを避けた。だがハルトはある事に気づく。目線を一度アッシュから離した隙に姿を消していたのだ。まずいと思ったハルトは急いで体勢を立て直すが時すでに遅し。ハルトのお腹にとてつもない衝撃が走る。思わずハルトは激しくえずく。そしてその次にハルトはそのまま吹き飛んでいった。
ドゴォォォン!!!
ハルトが建物にぶつかると壁を貫通し中へと飛んでいった。
「ハルト!」
「ハルトさぁぁぁん!!!!」
「これで終わりだ!!」
シノとラムネがハルトが飛ばされた建物に向かおうとした瞬間中からとんでもない音が聞こえ反対の建物に誰かが吹き飛ばされていった。
「そんな! ハルトさん、あんなのくらったら!!!!」
「……ハルト」
「…………」
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時は少し遡り昨夜のこと。【カーシス村】に泊まらさせてもらいに向かった結華達だが宿がないと聞かされる。少人数なら行けるとのことだったが結華達はあまりにも人数が多かった為仕方なく【カーシス村】の近くで馬車の中で一夜を過ごすことにした。
そして朝になると【カーシス村】の村民の一人が新聞を持って慌てて馬車へと走ってきた。その村民がダリアや他の生徒にも見せると全員が驚いていた。そしてダリアは生徒達に言葉をかけた。
「お前達は魔の災害を阻止する為に召喚されたが他にも理由がある。それは人を救うためにだ」
「わかってます。奴隷、そんな彼らを助ければいいんですよね!」
「その通りだ。絶対に助けるぞ」
色んな馬車から「おー!!」とやる気に満ち溢れた声が聞こえてきた。
そして今に至る。
現在は【ロイゼン王国】の門に向けて草原を馬車が連なって走っている。しかしもう争いは始まっているようで門の外からでも大きな爆発や火が燃え盛っているのがはっきりと見える。全員はその様子を馬車の中から夢中に見ていた。
「……ハルト、大丈夫かな」
結華はくまのキーホルダーを握りしめ呟いたのだった。
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