30.重なる少年の日の思い出

「…………」


 瓦礫が地面に落ち砂埃が舞う。そしてその中に一人の誰かが落ちる。


「ハルトさん……! やっぱ死んでしまったんですか!」


 すると建物の中から足音が聞こえてくる。


「死んだのを確認してから言え」


「……ハルト!」


「ハルトさぁぁん! なんか生きてる!!」


「どーも」


 そして砂埃が消え去ると瓦礫に埋もれたアッシュの姿があった。どうやらまだ意識はあるようで手がピクピクと何度か動いていた。そんなアッシュにハルトは近づいていく。それに気づいたアッシュもどうにか体を動かそうとするが中々動きはしなかった。そしてハルトはアッシュの手を掴み瓦礫から引っ張り出す。


「一回頭を冷やしてこい」


 ハルトはアッシュを前に突き飛ばし若干宙に浮く。その瞬間にハルトはアッシュに対して火の弾を放つ。アッシュは火の弾に押されたのち爆発を起こし吹き飛ばされ建物に突っ込んだ。明らかなオーバーキルにシノとラムネは少しひいていたがハルトは楽しそうだった。


 ゆっくり歩きながらハルトはアッシュに近づいていく。そしてようやくアッシュは体を動かせるようになったようで瓦礫に手をつきながらどうにか立ち上がろうとしていた。しかし不安定な瓦礫はすぐにずれ体のバランスを失い立ち上がれないでいた。ハルトが徐々に近づいてくることに焦りを覚えたアッシュは力を振り絞りなんとか立ち上がる。


「……まさかこんな事になるなんてな。ヴィーネ、お前は何を見てきたんだ……。でも俺はな、ロイエルみたいにはなんねぇ。まだ逃げることすら出来る。この透明でな!!!!」


 そしてアッシュは再び透明になった。しかしハルトは迷わずアッシュが居た場所に歩いていく。その様子を見ていたシノとラムネはあることに気付きハルトが何をしようとしているのかを理解する。だがアッシュはそれを理解することはできなかった。


「透明とか卑怯すぎんだろォォォ!!!!」


 アッシュが本来居た場所に殴りかかる。すると何もいないはずの場所から「グハッ」という声が聞こえてくる。その後もハルトは何度も何度も空間を殴り続ける。その度に血がいきなり飛び出てきたり苦しそうな声がどこからか聞こえてくる。


「……!! なぜ透明な俺の位置がそれほどまでにわかるんだ!!」


「すまんな。さっきの建物の中に赤いソースがあったもんで、ついお前の服に溢しちまった」


「!?」


 アッシュの服には大量の赤いソースがついていた。そしてその赤いソースは透明化で透明にすることは出来ずアッシュがたとえ透明になったとしてもその赤いソースは残るためどこにいるかが一目瞭然なのだ。トリックを知ったアッシュは怒り狂う。


「赤いソースとか卑怯すぎんだろォォォ!!!」


「うっかりなんだよ。すまん」


「は??」


 ハルトはそう言うとアッシュのお腹をぶん殴り吹き飛ばす。ハルトは拳で殴る際同時に火の魔法で爆発を発生させているため威力は絶大だ。


「……でもな、そんなんじゃ簡単に逃げれるぜ」


 アッシュは地面を叩く。何度も叩く。その度に地面は乱れ暴れだす。ハルト達は立っているのもやっとな状況だった。そしてアッシュは透明化のまま高く跳躍し建物の上に登る。


「ちょっくら回復でもしてくるぜ。またどっかでな」


「逃がすわけがないだろ!! このクソ筋肉がァァァァ!!!!」


 地面が不安定な中ハルトはアッシュに手を広げる。そして火の魔法を放つ。その魔法は炎が太いビーム状になりぐんぐんとアッシュに向けて伸びていく。


「!!!!?」


 そしてアッシュが地面に降りようとした瞬間その魔法は建物もアッシュも巻き込んだ。気づけば建物を焼き払ってしまっていた。崩れる建物の中には焦げたアッシュの姿があった。


「じゃあな。アッシュ」


 アッシュの上に大きな尖った建物の瓦礫が落ちる。その瓦礫は大きな音を立ててアッシュを下敷きにしたのだった。


「はぁ……」


 激しい戦闘をしたハルトは体の至る所から血が出ているうえに疲れていた。それが原因で少しばかりハルトはふらついた。その様子を見ていたシノとラムネが急いでハルトの元へ駆け寄る。駆け寄った二人はハルトの体を支え褒め称える。


「ハルト、さすが」


「ハルトさん、中々に卑怯な事を思いつきましたね! 私ならそんな事思いつきませんでしたよぉ!」


「たまたまだよ。それよりちょっと疲れたから座っていいか?」


「あ、はい! どうぞどうぞ! 膝枕でもしましょうか! 今ならお安くさせていただきますよぉ!」


「一生遠慮しておく」


「どーしてですかぁ! 美少女の膝枕なんて貴族が生涯生きて出来るかどうかだというのに」


「膝枕ってそんなにハードル高かったのかよ」


 シノとラムネはハルトを支えながら地面に座らせる。ハルトは支えてくれた二人に礼を言った。さてこれからどうするかとハルトが考えていると後ろから先程の男の子が近づいてくる。その男の子は「これ……」と言って小さなパンダのキーホルダーを見せてきた。それを見たハルトは「ありがとう」と言い受け取る。


 それを見ていたラムネがそれは何かとハルトに聞くと話し始めた。


「これはだな。昔二人の友達と沢山種類のあるくまのキーホルダー買ってさそれを交換したんだよ。他二人はちゃんとしたくまのキーホルダーだったんだけど俺のはまさかのくまじゃなくてパンダだったんだよ。あん時はめっちゃ笑ったなぁ。あいつらもまだ持ってんのかなこれ」


「僕も持ってる。ママとパパと一緒に買ったこのペンダント!」


 ハルトは昔の事を思い出し涙を流しそうになっていたが男の子は笑顔で首にかかっていたペンダントを見せる。そしてたまたまペンダントが開くとその中には女性と男性そして男の子が笑顔で笑い合っている写真が入っていた。


「……。大切にするんだぞ。無くしたらダメだ。後悔するからな」


「うん。でもお兄ちゃんも泣かないで? 僕はもう大丈夫だから」


「……え?」


 ハルトの目からは自然に涙がこぼれていた。止めようと手で目を触るが涙は止まらない。


「これがある限りママはいなくならない。これがある限り僕達はまたひとつになれる。もう僕は行くよ。パパの元に! ママに会えてよかった。次はパパと一緒に会いに来るから」


「……あぁ。それまでに、それまでにはこの国を自由に変えておくから。元気にな」


 男の子は無邪気に奥へと走っていった。しかしハルトは知っている。家族を失った子供は泣く事を我慢することなんて出来ないということを。


 ハルトはパンダのキーホルダーをコートの内ポケットにしまったのちに深い溜息を吐く。


「大丈夫……?」


「あぁ、大丈夫だ。先を急ごう」


「待って」


 立ち上がろうとするハルトの肩をシノは抑えて立ち上がれないようにする。ハルトが「どうしたんだ?」と聞くとシノは無言でハルトの顔に近づく。この時点でハルトはなんとなく察していた。シノが何をしようとしているのかを。


「流石に待て。怪我なんて大丈夫だから! おい、おい、聞いてるか! おーーい!!!」


 そしてハルトとシノの唇は優しく深く触れ合ったのだった。


「こ、公開エッチですかぁぁぁぁああああ!!!!!?」









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