28.お腹が空いたら隠し飯

「私が一生懸命布団を洗っていたというのにお二人はどこかにしかもこんな遅くまで行くなんてほんっと酷いですよぉ!」


「すいませんでした」


 ゆっくり馬小屋に戻ったハルト達だったが座って待っていたラムネに怒られてしまい二人は謝罪をした。なんとか今回の件について許してくれたラムネは「寒いので早く入ってください」と言ってハルト達を馬小屋の中に誘導した。


 ハルト達が馬小屋の中に入ると洗われたであろう布団が敷かれている藁の上にポンっと置かれていた。ハルトとシノが藁の上に座り込むとあとから馬小屋に入ってきたラムネが二人の前に仁王立ちをして何か言いたそうにしていた。


 ラムネの様子に気付いたハルトは見上げてどうしたのかと尋ねるとラムネは二人に指をさして大きな声で主張し始める。


「お二人がイチャラブチュッチュしていた詳細を聞こうとは思いませんが何していたんですかぁ! おかげで外は真っ暗でこっから店探してご飯食べてたらとんでもない真夜中になってしまうじゃないですかぁ」


 前半部分について気になる部分があったハルトだが弁明をする前にラムネが布団を洗っている間何をしにいっていたのかを伝えた。そのあとに得ることの出来た情報も伝える。それを聞いたラムネはすんなり納得してくれたようで布団に飛び込んだ。


 飛び込んだラムネは布団に包まりながら足をバタバタさせて「お腹が空きましたぁ!」とひたすら連呼していた。一向にそのお腹空いた抗議を止めないラムネに対してついにハルトが我慢できなくなり布団を引っ張ろうと立ち上がろうとした時シノがコートの中から「てってれー、隠し飯」と言って取り出した。


 それを聞いたラムネは布団を回転させ姿を現しシノに近づく。シノは性格がいきなり悪くなったようでラムネに隠し飯を近づけては遠のけてを繰り返しラムネの反応を楽しんでいた。


「隠し飯って何なんだ?」


「コートに隠しておいたご飯」


「同じコートなのになんでそこまで性能に差があるんだ……?」


「これも魔法だよ、ハルト」


「そ、それも魔法なのか……。魔法ってすげぇ」


「だからハルトも早く使えるようになるといいね。他のも」


「あ、はい。精進します」


「シノさん! そろそろそれを開けてもらってもいいでしょうかぁ? もうよだれが!」


「よだれダム決壊寸前!!!」


 シノは焦らしに焦らした末に隠し飯の袋を開ける。すると中からとても美味しそうな香ばしい匂いが馬小屋中に漂い始める。


 果たして隠し飯とはどんなものなのかと気になったハルトはシノに近づき袋の中を覗いてみる。すると中には肉の塊、いやまるでジャーキーと思えるようなものが入っていた。これは一体何なんだとシノに聞くとシノよりも先にラムネが「これは干し肉じゃないですかぁ!!」とよだれを垂らしながら言う。


 シノはハルトに「どうぞ」と言って干し肉の入った袋をハルトの方に傾ける。ハルトは「ありがとう」と礼を言い袋の中に手を入れ干し肉をひとつ取る。見た目は本当にジャーキーそっくりである。それをハルトは恐る恐る口に運ぶ。干し肉に噛み付くが中々噛み切れず苦戦をしたが少し強く引っ張るとちぎれようやく食べる事ができた。噛めば噛むほど干し肉から味が溢れ出す。


 思わずハルトは「うまっ」と声をこぼす。それを聞いたシノが「まだあるから食べて?」と言ってハルトに再び袋を傾ける。その隣ではおやつをもらうためにしつけられている犬のようにラムネがよだれを垂らしながら干し肉を見つめいていた。


「先にシノも食べてみろよ。美味いから! それと隣のあれにもあげてやってくれ」


「わかった」


「あぁ!!! ハルト様ぁあああ!!!」


 まずシノは干し肉の袋に手を入れ何本か掴み取る。その時ハルトが「そう言えばそれいつどこで手に入れたんだ?」と聞くとシノはそれに対して「ロエロの馬車の籠みたいなとこに入ってた」と言った。ハルトは落ち着いた声で「それ泥棒じゃねぇか」とツッコむ。その間にもラムネはよだれを垂らしながら干し肉を貰えるのを待っていた。


 シノが干し肉をいくつか取った内のひとつを取り口に食われたあとその袋をラムネに渡そうとしたその時どこからともなく「ワンッ!!」という犬の声が聞こえてきた。ハルトは最初ラムネがついに犬に本格的になり始めたのかと思ったが実際はそうではなく馬小屋の入口からおしっこをする犬が入り込んできた。


 入ってきた犬はシノの持っている干し肉のは言った袋に一直線に走ると袋に噛み付く。シノはあっさりと袋を離してしまい犬はそれを口に咥えて馬小屋を出ていった。あと少しで干し肉が食べれそうだったというのに目の前で犬に奪われたことでラムネは固まってしまっていた。


 ハルトがラムネの目の前で手を振りながら呼びかけるがそれでも反応しなかった。しかしシノが持っていたいくつかの干し肉をラムネの鼻まで持っていくと正気が戻ったかのように反応した。そしてシノはその干し肉を「あげる」と言ってラムネに受け渡した。ラムネはシノを女神のように称えたのち干し肉にかぶりつく。


 ようやく干し肉を食べることが出来たラムネは非常に嬉しそうにしていた。


「そう言えば犠牲者? っていうのについて調査してたんですよね?」


「そうだな」


「それでいい感じの情報が見つかってぇ」


「そうだ」


「ということは明日王城に突っ込むってことですかぁ!?」


「いやいや何も考え無しに王城に行くのはさすがにやばいだろ」


「二人共、それは明日考えよっ。もうねむい」


 シノがハルトとラムネに言うと二人は素直に話を聞き入れ眠ることにした。急いで干し肉を口に入れ込んでラムネが布団を皆の元に持ってくる。その間にハルトとシノは藁の上で横になっていた。


「布団かけます〜!」


「ありがとう」


 ラムネは横になりながら二人に布団をかけようとする。だがしかしここで問題が発生する。それはまさかの布団が三人という人数に対応していなかったのである。その為ラムネ、シノの体の上には布団が行き渡っているがハルトは指先しか布団に入っていなかった。


 シノはハルトが横になっているのとは反対の方を向いていてラムネはハルトの方を向いてはいるがシノで隠れて見えていなかった。誰もハルトの様子を見ることが出来ずついにはおやすみと言い二人は眠りについてしまった。


(……寒い寒いぞ。いや案外寒くはないかもしれない。そんな事思ってたら寒くなってきたぞ。せめて腕だけでも布団の中に入れさせてくれ。このままだと俺ボロ馬小屋エンドになるって!!)


 ハルトはそーっとシノの体に触れないように布団の中に腕を入れ込んだが寒さの解決には至らなかった。仕方なくハルトは腕を布団から出しコートを脱いだ。そしてハルトは体をできるだけ丸めてその上に先程脱いだコートを被せた。布団より暖かいとは言えないが何もしていないよりかは随分過ごしやすくなった。


 ハルトは次第に自分のぬくもりを感じながら眠りについていくのだった。



@@



 馬小屋の至る所の隙間から強い太陽の光が差し込む。その光はピンポイントにハルト達の顔を照らしていた。あまりの眩しさに目を覚ましたハルトはあくびをしながら上体を起こす。そして目を擦りながらシノとラムネの方を見る。どうやら二人は仲良く眠っているようだ。ハルトは二人を起こさないように静かに立ち上がり布団代わりにしていたコートを羽織る。


(やっぱ朝はどこでも寒いな)


 二人よりも早く起きてしまったハルトはなんだか暇になり散歩でもしてみることにした。藁の上で動く度に音がするのだがそれでさえ鳴らないように慎重に歩きついに馬小屋を出ることが出来たハルトは一歩前に足を進みだした瞬間どこからともなく大きな声が聞こえてきた。声の数的に団体で何かをしているのだろうか。


 二人を起こさないように慎重に行動していたハルトだったが先程の何者かの大声でシノとラムネが目を覚ましてしまった。とっさにハルトは姿を隠そうとしたが完全にシノとハルトは目が合ってしまい隠れることは出来なかった。


 立ち止まっているハルトにシノが「どこか行くの?」と尋ねるとハルトは散歩に行くだけのはずなのに何やらおどおどした様子で「さ、散歩にいっこかなぁ〜って……。そ、それだけだぞ?」という。その時のシノは寝起きということもあって何も疑わずに「いってらっしゃあい」とハルトに言った。


 しかし完全に目を覚ましていたラムネはとんでもない発言をシノにする。


「そう言えば昨日布団を洗いに行ってたら近くに一日中空いてる少しえっちぃなお店がありましたよ〜!」


 歩き出したハルトはその場で塊、シノは完全に目を覚ました。ハルトは背後でとてつもない殺気を感じていた。


「散歩、行くの?」


「あ、いやぁ、皆起きたみたいだしやめておこうかな。アハハ、アハ」


「ハルトさんもちゃんと男の子なんですねぇ!!!」


「お前はうるさい黙ってろ! ほんでもういっぺん寝てろォォ!!!!」


「……え、私の扱い酷くないですか」


 に行くことが出来なかったハルトは少しばかり元気がなさそうにして馬小屋へと引き返した。


(異世界は、容易ではない、何もかも…………)


 その時どこかで大きな音と悲鳴が聞こえてくる。シノとラムネは布団をどかし立ち上がりハルトの顔を見つめる。少しの間があってから三人は頷き馬小屋を出た。


「これは嫌な予感がしますよぉ……なんだか」


「あぁ、俺もだ」


 走り出そうとした時ハルトの足元に汚れた新聞が飛んできた。それに気付いたハルトは手を伸ばし新聞を手に取る。ついている汚れは簡単に払ったあとそれを他の二人にも見れるようにしながら新聞を開いた。


 そして新聞の内容を見てハルトとラムネは驚いた。


 ハルト達が見た新聞には【ロイゼン王国】の第三神託官であるロイエル・リヒルバーンの死が取り上げられていた。それともうひとつこの様なことが書かれていた。



 半日刊世界情報誌ヘレボルスは【ロイゼン王国】についての独自調査でいくつかの情報を手に入れた。

 一つ、第三神託官であるロイエル・リヒルバーンは何者かに殺された。

 二つ、神託官同士での喧嘩が度々起こっていた。

 三つ、国王であるハンデル国王は監禁されている可能性がある。

 四つ、領内に存在する七の村の村民を奴隷として強制的に労働させ殺害している。



 そしてまたどこかで大きな爆発音が【ロイゼン王国】に鳴り響く。







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