27.犠牲者は一体どこに?
「あ、あのぉ〜、まさかとは思いますけどここだったりします?」
「……落ち着いて聞いてくれ。そのまさかだ」
「ナァ〜〜!! こんなとこに住めませんよぉ!」
「ラムネ、お前の金で馬小屋を買おう」
「いくらすると思ってるんですかぁ!」
ハルトとラムネのあまりにも酷すぎる状況を目の当たりにして絶望しているとシノが二人に声をかける。
「大丈夫。あのニャンは中でおしっこしてないみたいだから。お利口さん」
「ワンだろ。それに勝手に柱におしっこしてる時点でお利口じゃないけどな」
「良いから行こ」
シノはハルト達にそう言うと馬小屋の方に歩いていく。ハルトとラムネが歩き出した時にちょうど犬はおしっこを終え座って近づいてくるハルト達の事を見つめていた。犬は口を開けべろを出ししっぽを振りながらへぇへぇと呼吸をしていた。
犬の元にたどり着いたシノは座り込んで犬を見つめる。シノが犬に触ろうとするとワンっと吠えそれに驚いて触るのをやめた。しかしシノは諦めない。「ニャンころーニャンころー」と言い寄りながら頭を撫でようとする。だがまたしても犬に吠えられてしまう。終いには手をパクっと噛まれてしまった。
シノは噛まれた事がよほどショックだったようで噛まれた手をもう片方の手で撫でたあと犬に向かって人差し指をさす。近くで見るとさらにボロいことがはっきりし落ち込んでいるハルトだったが隣で犬に向かって指をさして今にも何かをしようとしていたシノに気付き急いで「シノ!」と声をかける。
それにシノはびっくりしたようで体が一瞬ビクッとしていた。ハルトが何をしていたんだ? と聞くとシノは「犬には制裁を」と愛護団体に目を付けられそうな発言をした。そんなシノをハルトはなだめこっちに来るように言う。シノはハルトの言うことに素直に従い立ち上がり隣に立った。
「こんなとこに住むの?」
「結局嫌だったのかよ」
「これなら野宿でもいいけど」
「さすがに野宿はきついだろ」
「そうです〜! 野宿なんて冒険者がやることなんですよぉ!」
「俺達も冒険者みたいになりかけてるとこはあるけどな」
「えッッ!?」
このボロすぎる馬小屋に泊まるかそれとも野宿をするかどちらが安全かつ地獄を見ないかと考えていたハルトは足を進め一旦馬小屋の中を見てみる。馬小屋の中は思ったより狭くはなく三人くらいなら余裕で入れる様な広さだった。地面には沢山の敷き詰められた藁があった。おまけに謎の布団までも置かれていた。もしかして誰かがここで寝ていたのだろうか。
軽く見て判断する予定だったがさらに馬小屋の中に入って状況を確認する。外から見た馬小屋は今にも崩壊寸前のボロ馬小屋だったが中はそこまでボロさを感じるというわけでもなければ気になる匂いなどもほとんどなかった。ただやはり隙間があるため風が入ってきてはハルトの髪を揺らす。
馬小屋の中を一通り見終えたハルトは出てきてシノとラムネに声をかける。
「馬小屋で泊まろう」
「ハ、ハルトさん! 正気ですかぁ!? これ嫌がらせかなにかなんですか。お二人がここに泊まると決めることで必然的に私に拒否権がなくなるという巧妙な策ですかぁ!!?」
「何言ってんだ。中を見てもらえばわかるが外見と犬以外は特に気になる要素はない。中の布団は洗う必要があるかもしれんがな」
「なるほど。ハルトさんがそんなに言うなら大丈夫なんでしょぉ! 早速布団をどっかで洗ってきます〜!」
ラムネは馬小屋に入ると置かれている一枚の布団を持ち上げる。そして馬小屋から出てくるとハルトの前に止まり「これ臭いです〜」といらん情報を教えてからどこかへと走っていった。残されたハルトとシノは互いにどうするかと考えていると両者何かにひらめいたようで横を向く。
同時に横を振り向いた二人はさらに同時にひらめいた事を口にする。
「初めてのデート」
「犠牲者の居場所を探しに行くか」
ハルトが今なんて言ったんだ? と聞き返すとなんでもないとシノは答え「探しに行こ」と言う。その時のシノの表情は少し悲しそうにも見えた。しかしそんな事には全く気付かないハルトはシノと一緒に歩き出す。
いつもなら何かと手を繋いだり腕に抱きついたりするシノだが今回に限ってはその様な行動をする気配もなくハルトは少し違和感を感じていた。だがそれを気のせいかという言葉で片付けてしまう。
「なぁ、シノ。そもそもここの人達が犠牲者の行き先なんて知ってると思うか?」
「知らない。まずはてきとうに聞いてみれば」
「え、あぁ、そうだな。まずあそこのおじさんに聞いてみるか」
普段とは違う冷たい対応をされたハルトは少しびっくりしたが話しを聞くため気を取り直しておじさんがいるところに歩いていく。
おじさんの元についたハルトはまず犠牲者という存在について聞こうとしたが以前ロイエルが言っていた事を思い出す。犠牲者という制度を知っているのはこの国のトップだけであって他国や国民すら知らないということは犠牲者についても意味がない。そこでハルトは怪しい王城の馬車を見かけたことはないかと尋ねる。するとおじさんは答えだした。
「そうだな〜ちょっと前に村の方から走ってきた馬車を見たことならあるぞ。最初はなんで王城の馬車が村に? とは思ったけど通り過ぎる時に一瞬だけ中に神託官様らしき人が見えたから何かあったんだろうな」
「神託官以外に何か見えませんでした?」
「悪いけどそれはわからないな」
「そうですか、教えて頂きありがとうございます」
ハルトは丁寧に礼を言ったあと再び特に行き先も決めずふらふらとシノと歩き出した。
「神託官が村に行ってたってことはわかったけど肝心の犠牲者が乗っていたかがわからないな。それとその馬車の行き先もだけど」
ハルトが喋っているがシノはそれに全く返事をしようとはしなかった。どうしてそんなにシノの態度が急変してしまったのかわからないハルトは戸惑っていたが今は犠牲者の方をどうにかしなきゃと思いひたすら聞き込みを続けた。
@@
聞き込みを始めてから約一時間ほど経ったが未だ有益な情報を得ることが出来ていなかった。しかし聞き込みをしているなかで犠牲者の居場所をつきとめる決定的な証言ではないがいくつかの情報を得ることもできた。一つ目が神託官が乗っている馬車に見たこともない人物が乗っていたということ。二つ目は稀に村の住民が門前まで来てわけのわからない事を言っていることがあったということ。三つ目は服がボロボロな者が兵と歩いていたということ。この三つが聞き込みの中でも特に良い手がかりである。だがその三つでさえ居場所を特定出来るほどの情報ではない。
既に日が暮れていた。もう今日は聞き込みをやめておくかとハルトが思った時に一人の少女がハルトに向かって歩いてくる。シノはその少女をずっと見つめていた。警戒でもしているのだろうか。少女はハルトの前に来ると何かを話し出す。
「お兄さんが犠牲者を探している人?」
ハルトは思わす驚いてしまった。こんな少女がなぜ犠牲者について知っているのかと。ひとまず他の人には聞かれまいと辺りを見回したその時建物の間に入っていく見覚えのある者がいた。そっちも気になったがハルトの服を少女が引っ張って再び「犠牲者を探している人?」と訪ねてくるのでどこかに行った者については諦め少女に事情を聞いてみることにした。
ハルトが少女にどうして犠牲者について知っているのかと聞くと「この前ラットお兄さんに助けてもらった時に聞いたの」と答える。ハルトはラットという言葉を聞き固まる。ラットは何を隠そうアリアの大切な人の名前だからである。
そしてハルトは少女にラットがどこに行ったのか覚えているかと聞くとそれに対しても少女は迷うことなく答えた。
「おっきなお城の中に入っていった。お兄さん、ラットお兄さんを助けてあげて! すごくボロボロだったの」
やはり神託官は犠牲者を奴隷のようにして扱っているということなのだろう。ハルトは思わず拳に力を入れて感情を抑える。そして少女に礼を言う。少女は笑顔で頷きどこかへ走っていく。その後ろ姿を見ていると少女は謎の人物が入っていった建物の間に向かっていった。
気になり跡を追いかけようとしたハルトだが横からとてつもない圧を感じ行くことを諦め馬小屋に戻ることにした。ハルトはこれからどうするかを考えた言った以降全くシノと会話していないことを思い出し声をかける。
「なぁ、シノ。ラムネ戻ってきてると思うか? あいつ変なとこにいそうじゃないか?」
「……」
「なんで無視するんだ? 言ってくれないとわからないぞ」
「……」
「……俺が無意識に嫌な事をしてたら言ってくれ。そしたらなんでもするから。だから俺と話してくれ。じゃないと……」
その時シノが顔を地面に向けたままその場に止まった。それに気付いたハルトも止まり振り向く。どうしたのかと思っているとシノが顔をあげる。少し微笑んでいるようにも思える。怒ってるのか、怒っていないのかどちらかわからずハルトが焦っているついにシノが口をひらいた。
「なんでも?」
「え、あぁ、出来る範囲ならなんでも」
「……なら謝罪のぎゅー」
「え?」
シノは両腕を広げて言った。シノを抱きしめるということに恥ずかしさを感じたハルトは顔を赤らめていたがシノが早くと急かすように腕を動かしていた。ハルトは男としてやるときはやるという覚悟でシノに近づく。
シノに近づく度にドクンドクンという音が耳に響く。自分からシノに何かをするということが初めてなハルトにとってハグというのはゲームの鬼畜難易度をいきなりやるようなものである。だがハルトはそれでも足を進める。
そしてシノの腕の中に入った瞬間にシノはハルトを思いっきり抱きしめる。ハルトもシノの事を軽く抱きしめる。しばらく抱き合っていたハルトは徐々に余裕が出来てきて無意識にシノの頭を撫でる。それに気付いたシノが上目遣いでハルトを見つめる。その時のシノはほのかに顔が赤くなっていた。
上目遣いをされたハルトは思わず謝り手を頭から離す。そんなハルトに対してシノは「ハルト、好き」と言いハルトの頬をさらに赤くさせた。耐えられなくなったハルトはシノの腕をどかし離れる。そしてシノに背を向けて「も、もう帰るぞ」と言う。それに対してシノは笑顔で「うん」と答えハルトの横に並ぶ。
どうにかいつも通り……いや少し進歩したように思える二人は馬小屋に帰るために月明かりに照らされながら歩いていくのだった。
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馬小屋の外で一人の女の子が座っていた。
「ハルトさん、シノさん……私を置いていくなんて酷いですよぉぉ!!!!!!」
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