25.創造
ハルト達が気付いた時、視界には草原など広がっておらずそこはまるで城の中のようだった。
天井に吊るされる九つの大きなシャンデリア、ヴィーネが座っている玉座の前にある段差まで一直線に伸びる赤い絨毯、両サイドには何十本にも及ぶ柱が天井へと伸びている。その柱の前には何者かを元にして作られたと思われる九つの大きな像が置かれている。高い位置に付けられた窓からは光が差し込んでいる。しかし外の様子は見えず真っ白だった。
そんな異空間とも呼べる場所の真ん中にハルト達は立っていた。不安がっているのかわからないがシノはハルトに近づく。それに便乗してラムネもハルトに近づいた。そんな様子を海斗は後ろから見ていた。
しばらくハルト達が真ん中で止まっているとヴィーネは足を組み話し始める。
「アッシュ、今回は退散するのよ。それが今後に繋がるわ」
「何ふざけた事言ってるんだ!! この二人を今ここで殺らねぇともっとややこしい事になるんだぞ!!」
「知らないわ」
「知らないって、お前! おかしくなったのか!?」
「だって私に関係ないもの。でも言える事は一つ今回は指示に従って早く退散することね」
「だから! 人の話聞いてたのか!!」
アッシュはヴィーネの言っている事に納得が出来ずひたすら抗議をする。しかしヴィーネは退散することの一点張りで埒が明かない。とうとうしびれを切らしたアッシュがヴィーネに拳を握り近づき出す。
「そう言えばお前、非戦闘系だったよな。昔から非戦闘系は戦闘系の使いっぱしりでしかないからな。抗うなんて出来ないんだぜ? 知ってたか、ヴィーネ」
「ふふふっ。もし私が非戦闘系と偽っていたとしたら?」
「あ?」
「例え話よ。偽っていたとしたら油断をしている貴方はもうとっくに死んでるわ。偽ってなかったとしても同じだけれどね」
「ッ!? 俺はロイエルみてぇに簡単には死なねぇ!! なんせ俺は第二神託官だぞ!!」
どんどんとヴィーネに近づいていくアッシュはついに拳に力を溜め始める。それと同時に駆け出す。しかしそれを前にしてもヴィーネは何もする事はなかった。
「世の中は広い事を知るべきね」
「消えろォォォォ!!!!!」
ヴィーネの目の前まで来たアッシュは明確な殺意を持って殴りかかる。その瞬間ヴィーネは呟いた。
「私みたいに、ね」
アッシュの拳はヴィーネの顔の目の前まで来ていた。それを見ていた誰しもが当たる!! と思ったその瞬間柱の前に立っている剣を持った像がアッシュに向かって剣を振る。剣が振り下ろされてから一秒も経っていないのだが気づけばアッシュの腕は宙を舞っていた。
何が起こったのかわからずアッシュは焦りと恐怖で小さな段差を降りヴィーネから離れる。それを見ていたハルト達も同様に何が起こったのかわからず呆然としていた。
アッシュの腕は宙を舞いながら血を地面に垂らし最終的にヴィーネの近くにグチャっと落ちた。ヴィーネはアッシュの腕を見たあと組んでいた足を戻し玉座から立ち上がる。立ち上がったヴィーネはゆっくり歩き出す。
カツン
という音が異空間内に広がっていく。徐々に近づいてくるヴィーネに対してハルト達は全力で警戒をする。後ろでは海斗が剣を握っていた。反撃する準備は万端なようだ。
胸の下で腕を組みながらヴィーネは一直線に歩きアッシュを通り過ぎハルトの目の前までやってきた。ヴィーネは一度ラムネを見たあとシノを見つめる。ラムネは見つめ返していたがシノは見つめられて少し経つと視線をそらした。そして次にヴィーネはハルトを見つめる。
「貴方……がハルトくんね」
ヴィーネは片手を胸の下に残しもう片方の手でハルトの前髪に触れる。いきなり触られたハルトは一瞬ビクッとした。さらには目の前にはヴィーネの立派なものがあり思春期のハルトにとって少々刺激が強かったようで色んな意味が混ざった汗をかいていた。
「貴方はきっと願いを叶えてくれると信じてるわ」
「……願い、ですか?」
「えぇ、願いよ。貴方の内に秘められた力で創造するの」
(秘められた力で……? もしかして魔力のことを言っているのか? でもなぜそれを?)
「時が来れば全てを知る事が出来るわ。それまでに貴方が死ななければね」
そう言ってヴィーネは後ろを向き玉座の方へと歩いていく。その道中でヴィーネは草原の時と同じ様に指パッチンをした。するとハルト達の視界は強い光に包まれた。
@@
「ハルト!!!!」
「東雲くん!」
ハルトの名を呼ぶクラスメイトの声が聞こえる。ハルト達が目を開くとそこは草原だった。どうやらあの異空間から戻ってきたようだ。周りを見渡すとシノとラムネ、海斗も戻ってきていたようだったがアッシュとヴィーネの姿はどこにも見当たらなかった。ひとまずなんとかなってよかったとハルトは安心する。
「それじゃあ戻るか」
「うん」
「今日は私の奢りなので好き勝手に選びますよぉ〜!!」
ハルト達はまるでそれまで何もなかったかのように【ロイゼン王国】の門の方へと歩き出した。しかしそんなハルト達の事を結華が叫び呼び止める。
「待って! ハルト!! 行かないで……なんで……私達……もう一緒になれないの?」
結華達が見捨てていった理由を全く知らないハルトにとって結華やそのほかの皆の発言は到底理解することの出来ない言葉であった。それ故、心に微塵も響きはしない。今のハルトのとって慰めや励ましの言葉は刃物で傷をえぐられているようなものである。だからハルトの答えは変わることはない……。
「そうかもな」
ハルトの言葉を聞いた結華は悲しい表情を浮かべる。
「ラムネ、門まで競争するか」
「おっとぉ? リベンジマッチですか! いいですねいいですよ、受けて立ちます!!」
その場からとにかく離れたいハルトはラムネに競争を申し出る。ラムネはその誘いに簡単に乗っかてきた。それを隣で聞いていたシノはハルトのコートを引っ張り「んっんっ」と何かをして欲しそうにしていた。ハルトはシノのその行動が何を示しているのかをなんとなく理解していた。
「ちょっとは自分で走れよ」
「私低燃費」
「どんな言い訳だよ」
と言いつつもハルトはシノを腕で抱きかかえた。抱きかかえられたシノはハルトに対して「ゆけー」と指示を出す。
「俺は馬なんかじゃねーぞーーー!!!」
「ちょっとぉ!! ハルトさんいきなり走り出すとかズル過ぎの極みですよぉ!!!」
「そんなん知らん!!!」
ハルト達は元クラスメイトをその場に残し門へと走り出したのだった。
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