24.玉座

「最強というものを教えてやるぜ」


「なっ!!!?」


 アッシュが地面に勢いよく手を叩きつけた瞬間ハルト達は立っているのもやっとな程の揺れが起こる。後ろにいた生徒達の中には悲鳴をあげながら地面に倒れ込む者もいた。


「まだだ!!!」


 揺れが収まり体勢を整え直したハルト達がアッシュがいた所を見た時にはもういなくなっていた。もしかして逃げたのかと思いハルトが辺りを見回しているとお腹にまるで強烈なパンチを喰らったかのような痛みを感じるのと同時に吹き飛んでいった。


 地面に何度かぶつかりようやく止まったハルトは一体何が起こったのかわからず困惑していた。しかし少ししてハルトは状況を理解する。これはあいつの能力スキルだと。


 ひとまず立ち上がろうとしたハルトだが顔に衝撃を感じ倒れ込む。倒れ込んだハルトは次に連続してお腹に打撃を感じしばらくして口から血を吹き出した。


(透明になれるのはずるだろ!! こんなんじゃ勝てるわけが……!!)


 その時「ハルト!!」という声と共にとてつもない速さで剣を持ち走ってくる海斗。そしてハルトの近くに来たところで何もない所に剣を振る。すると多少の血が何もない所から現れた。


「ハルト、大丈夫か?」


「あ、あぁ」


「あっちで結華に治療してもらってこい」


「いや、それは大丈夫だ」


 ハルトと海斗が会話をしていると突然ハルトは海斗の視界から消える。


 グハッ!


 横腹に強烈な痛みを感じるハルト。口からさらに血を吐き出す。何度も地面にぶつかりながら転がっているためせっかく治ったのに再びいたるところから血が流れていた。


「ハルトさん!! 死にました!!?」


「……勝手に殺すな!」


「生きてましたぁ!!!」


「……どういうテンションだよ」


 立ち上がったハルトはもしかしたらまた攻撃してくるかもしれないと考えあえて若干の間をあけた後に自身の周りに炎を出現させた。案の定アッシュはハルトに近づいてきていたようで炎に触れてしまったアッシュが思わず「あっつ!!」と言った声が聞こえた。


 ハルトは声を頼りに聞こえた方に火の弾を連続して放つ。最初の何発かはアッシュに当たったようで途中で消えていたがそれ以降は消えずに遠くまで飛んでいった。


(どこに行きやがったんだ)


 ハルトがキョロキョロとしていると後ろから楓が「ハルトくん、目の前!!」と言った。ハルトはそれがどういう意味なのかを瞬時に理解し前に火の弾を放つとやはりそこにはアッシュが居たようで攻撃が命中した。攻撃を受けたアッシュは再び声を出して痛がった。それを聞いていたラムネはなんとなくでアッシュの居場所を特定しそこへと走っていく。


 剣を持って走るラムネはハルトの近くまで来ると、


 シュバッ!!


 と何かを斬る。するとなにもないはずの所から再び血が溢れ出した。ラムネはさらにこれでもかと言うほどに剣を振っていたが最初の一回だけが当たっただけでそれ以外は全て外れていた。


 それから謎の静寂が訪れる。足音もしないただ風の音だけが聞こえる時間。ハルトはついにアッシュが逃げていったのかと思ったがそうではなかった。少し離れた所にいた海斗が吹き飛ばされ地面を転がっていた。ハルトは海斗が立っていた場所にすぐに火の弾を放つが当たらなかった。どうやらもう違う所に移動しているようだ。


 一方、結華達よりも後ろにいる生徒の中である作戦を立てようとしていたのだが……


「ねぇ、大智。あんたのであの筋肉拘束したら?」


「わかった。やれるだけやってみるよ」


「それはやめておこう。東雲君の成長を邪魔してしまう事になるよ。僕はそんな事をしてあげたくはないな」


 と和希によって阻止されてしまう。周りにいた生徒は反論する事はなくただ表情を曇らせ黙っていた。まるで独裁者に怯える者達の様な姿で。


「おいおいこれじゃあ一方的過ぎてつまらないぞ。もっと本気でやろうぜ。俺も本気で行くからよぉ!!」


 するとアッシュは何を思ったのかわざわざ透明状態ではなくなり姿を現した。海斗とラムネは剣を構えハルトとシノは万が一に備えて魔法を放つ準備をする。


「そんな警戒すんなって。ただちょっくら力を出すだけだからよ。んじゃ行くぞ」


 アッシュはとてつもないオーラに包まれていた。それを見たハルトはこれは本当にやばいやつだと感じ唾を飲み込む。今までに見たことのない圧倒的力の格差を前にその場にいたほとんどが驚愕していた。


「これが【ロイゼン王国】最高峰戦力にして第二神託官、アッシュ・ドルレアンか」


 ダリアはポツリと呟く。


(はぁ……序盤に戦って良いような相手じゃないだろ、これ。やっぱこの世界は鬼畜だ)


「ハッハッハ!! お前ら行くぞォォォ!!!!」


 先程よりも明らかに力が増していた。それも恐ろしいほどに。


 どうする事も出来ないハルト達が焦っていた時どこからともなく「ふふ」という女性の笑い声が聞こえてくる。


「!?」


 するといきなり見知らぬ女性が現れる。その女性はサラサラとした黒髪が腰より少し上のところまで伸びており赤い目が特徴的だった。さらに服装は全体的に黒で統一されおり豊かな胸元にはレースがついていた。


「なんでお前がここに来てんだ!!」


「あ、あれは!!」


 アッシュは怒っていたがダリアはとんでもなく驚いていた。他の生徒達は一体何者なのかわからずポカンとしていた。一人の生徒が一体誰なのかと問うとダリアは少し興奮気味に言った。


「あれは非戦闘系能力スキルなのにも関わらず第四神託官になったヴィーネ・ウィンテールだ。非戦闘系能力スキルという事もあって今まで一度も能力スキルの使用が確認されていないことでも有名だ」


「それくらいにしておきましょう、アッシュ」


 ヴィーネは胸の下で腕を組みながらアッシュにそう語りかける。しかしアッシュはその言葉に従うはずもなく無視をする。だがヴィーネはよりしつこくアッシュに語りかける。


「貴方では無理よ」


「これがどれだけ危機的状況かわかってんのか。このままだとこの国の秘密が口外されるかもしれねぇんだ! そうなったらこの国は終わりだ!!」


「はぁ〜。ちょっとお喋りが過ぎるわね」


「そもそも最初からお前がロイエルに協力していればもっと簡単に解決出来たはずだろ!!」


「あら、もう忘れてしまったの? 私はきまぐれなのよ」


「チッ、ふざけんな!!!」


 アッシュはヴィーネの方に向かって走っていく。一方ヴィーネは冷静で動く気配すらもなかった。しかしヴィーネはアッシュがより近くなると組んでいた腕を解いた。


 そして、


「アッシュ、貴方には失望したわ。頭を少し冷やしたほうが良いわ」


 そう言うとヴィーネは「」と小さな声で呟く。そして軽く指パッチンをする。すると突如として立派な玉座が現れヴィーネはそれに座り込む。


「!!?」


 結華達が気づいた時にはもう海斗、ハルト、ラムネ、シノ、アッシュ、ヴィーネの姿はどこにもなかった。








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