23.帰る場所

「ハルトさぁ〜ん。ハルトさぁ〜ん」


「……おい馬鹿揺らすなよ」


「なら早く立ってくださいよぉ!」


「それ怪我人に言うことじゃないだろ。とりあえずどうにかして俺を宿まで運んでくれ」


「それは必要ない」


「え?」


 シノに必要ないと言われまた見捨てられるのかと思ったハルトだがよくよく考えてみればこの状況前にもあったようなと気付き嫌な予感を感じる。ハルトの嫌な予感は見事的中した。シノはハルトの顔を抑えて自身の顔を近づける。


「おいおいこんな所でする気なのか!?」


 どうにかしてその場から逃げようとするハルトに対してシノは人差し指でハルトの唇に触れ「しー」と言った。しかししーしてられるかと思ったハルトはラムネに助けを求めるが顔を赤らめてまるで壊れたロボットの様になってしまっていた。


(ちょっと待ってくれぇぇぇぇぇええ!!!!)


 心の中で叫んだ瞬間ハルトの耳に聞き慣れた声が聞こえてきた。


「ハルト……!!」


 声が聞こえた方を見ようとするがシノの乱れた髪が邪魔をしてよく見ることができなくなっていた。そしてその間にシノの唇とハルトの唇が触れ合う。それと同時に眩い光に包まれハルトは目を閉じる。次に目を開けた時にはすっかり体の傷が消えていた。だがシノはなぜかまだキスをしたままだった。


「んん!!! んんんっ!!!」


 少し時間が経つとシノは満足したようで「んっっ」と言ってハルトの顔から離れた。あまりにも長い事キスをされていたハルトは息苦しいのと同時に鼓動が早くなっていた。


「おい! また舌を入れてこようとしただろ!!」


「ハルト、あのロエロが乗ってきた馬車に乗って帰ろ」


「話しを変えるなァァ!!!」


「そうですよ、ハルトさん。私もそろそろお腹が空いてきたので早く帰りたいです〜!!」


「はぁ、もうわかったよ。帰ろう」


 立ち上がったハルトはシノとラムネと共にロイエルが乗ってきた馬車に歩いていく。その時ハルト達の後ろから声が聞こえてくる。


「……ハルト、ハルトだよね?」


「ハルト! お前の事俺たちはずっと探してたんだ」


「ハルトくん……」


(やっぱり先一瞬だけ聞こえた声は結華の声だったのか。でもどうして……)


 ハルトとシノが後ろに振り向く事はなかった、ラムネはハルトと結華達を交互に見つめ頭にはてなマークを浮かべていた。


 長い沈黙が続いた後にハルトは「行こう」と言い再び馬車に向かって歩き出す。しかしそれを止めるために海斗が「待てよ!」と言って近づいてくる。だがハルトはそれに対して「近づかないでくれ……」と一言。その言葉に驚いた海斗の足は止まった。


「ハルト、今キス……。違う……ねぇ、ハルト帰ろう。皆の所に」


 結華は最初に何か言いかけたがそれを止め話しを続けた。ハルトは最後の帰ろうという結華の言葉に疑問を持った。果たして本当に帰ってくるのを待っている人がいるのだろうか、そこが帰る場所なのかと。


「皆? 見捨てたくせに……。誰が待ってるんだよ」


「…私も海斗も待ってる。それにねダリアさんや先生、楓、京香、麻衣美もハルトを探すのを手伝ってくれたんだよ! そうそれと楓が凄くてハルトの匂いを辿って居た場所を見つけたんだ。途中までだけどね」


「ちょっと、結華ぁ。それはハルトくんに言わないでよ!」


 話しを聞いたハルトはため息をする。


「無責任だよ。無責任すぎる。見捨てといて探してた? 馬鹿言うなよ。友達想いだって言う大義名分が欲しかっただけなんだろ。見捨てたならほっとけよ……」


「東雲くん、私達はそんな事の為に探してたわけじゃない! 皆東雲くんが友達だから、かけがえのない大切な仲間だから……!!」


「……落合。もう無理なんだよ。見捨てた人達がいる所に戻るなんて俺には怖くて無理だよ。こんな鬼畜な世界で死なない為に生きていくうえでもう信用出来ないんだよ……」


 ハルトは少しばかり涙を零す。それを見ていたラムネもなぜか涙を流していた。


「なぁ、ハルト!! また昔みたいに三人で馬鹿やって笑って怒られてそんな日常に戻ろうぜ。俺達を信用出来ないならそれでいい。これから信用を取り戻せる様になんとかするからさ! だからハルト、昔に戻ろう」


「海斗……ごめん。変える場所はあんな所じゃない」


 そしてハルトはシノとラムネを引き連れて馬車へと歩いていく。後ろでは海斗達がハルトの名前を連呼する。そのまた後ろには和希や他の生徒が何事かと馬車から降りて走ってきていた。


「なぁ、シノ、ラムネ。今日はどんな店で飯食うか」


「私が支払うから決定権は私にあり」


「そ、それはずるですよぉ!! だったら私が全額払いますからぁ!!」


「「あ、ごちそうさま(です)」」


「ふ、二人共!! この私を罠にはめましたねぇ! なんて策士なんだ!」


 ハルト達はさっきとの雰囲気とは真逆で笑顔だった。そしてそのまま馬車に乗り込む。それを見ていた海斗達は気づく。


 あれがハルトの新しい居場所だと。


 三人はようやく馬車に乗れたのは良いものの謎の違和感を感じた。それは御者がいないということだ。ロイエルが中から出てきた事を考えると少なくともロイエルは操縦をしていない。だとすれば一体誰が操縦をしていたのだろうか。


 ハルトはもしかしたらあの戦いを見て逃げたのではないかと考えたが思い返せば最初から誰もいなかった。やはり何かがおかしいと感じたハルトは二人に一旦馬車を降りようと言う。しかしその時本来御者がいる所から声が聞こえてくる。


「お客さん、どこまで行きますか?」


「あ、えーと宿屋の……」


「わかりました。ではお客さん、いや犠牲者の皆さんを遥か彼方の地獄へご案内してやるぜ!!」


「二人とも馬車から降りろ!!!!!!」


 ハルトがそう言った瞬間馬車は大爆発を起こした。外にいた海斗達は一体何が起こったのかと驚いていた。


 爆発の煙が収まるとそこにはどうにか耐えきったハルトとシノとラムネの姿があったがそれ以外に人の姿はなかった。


(一体今の声は何だったんだ?)


 ハルトがそんな事を思っているとどこからか苦しそうな声が聞こえてくる。どこから聞こえるのかと周りを見ているとラムネが空中に浮き自分の首に対して手で何かをしようとしていた。


「ラムネ! 何してるんだ!!」


「……ハ、ハルトさん。く、くる……しい」


「ッ!!!」


 ハルトはとっさにラムネに向かって火魔法を放つとラムネは地面に落ちた。そして苦しそうに激しく咳をしていた。


(一体何が起こってるんだ……)


 辺りを見回しているとまたもやどこからか声が聞こえてくる。


「こんなに人が居るなんてな! それにしてもロイエル、中々酷い有り様だぜ」


「お前は! 誰だ!!」


 するとハルトの目の前にその男は突如として現れる。驚いたハルトは反射的に離れた。


「よぉ! 犠牲者さんよ。俺は第二神託官のアッシュ・ドルレアンだ。よろしくな!」


 第二神託官のアッシュと名乗った男はかなり短い黄色髪でおまけにがっちりとした筋肉を持ち合わせているザ・肉体系といった見た目だった。


「第二神託官……。ロイエルもさらに上位の存在」


「そろそろ始めようぜ。第二ラウンドを!!!」





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