22.死す

「死んでくれ。死んでくれ。死んでくれ」


 ロイエルの頭上に滞空していた数多の武器は一斉にかつ不規則に接近してくる。ラムネは接近してくる武器を剣で防ぎ避けていくがその度に別の角度から武器が勢いよく迫ってくる。一方ハルトとシノは近づいてくる武器に対して魔法を放っていた。ハルトは使える炎を全力で使用し迫る武器を爆破し弾き返す。シノは氷魔法を使用し広範囲の武器を連鎖して氷漬けにしていく。それでもなお武器はさらに迫ってくる。


「これじゃキリがないな」


「体力が削られていくだけ。どうにかしないと」


 ハルトとシノは武器をどうにか避けたり魔法で撃ち落としたりしていると前で武器からの攻撃を防いでいたラムネが大声でハルト達に叫ぶ。


「ハルトさん、上!!!!」


「え?」


 ロイエルはニヤリと微笑む。ハルトとシノがラムネの言葉を聞き上を見上げるとそこには大きな聖剣が地面めがけて落ちてきていた。二人は急いで避けようとするが大きな聖剣は一気に地面に落ち姿が見えなくなるほどの砂埃がたった。


「ハルトさん! シノさん!!」


 ラムネは武器を躱し防ぎながら何度も呼びかけるが砂埃の中にいる二人からの返事は全くなかった。それを見ていたロイエルは一層笑顔になる。


「どうやらようやく死んだようですね。手間がかかる人たちでしたが面白かったです」


 ロイエルはメガネに触れたあと最後に残っていたラムネに向かってさらに攻撃をしようとしたその時徐々に消えかけていた砂埃の中に一つの人影が現れる。


「ま、まさか!?」


「……フラグを綺麗に立ててくれてありがとなぁ」


「!?」


「ハルトさん!!!」


 砂埃が完全に消えるとそこには頭、腕、足から血を流しながらもどうにか立っているハルトの姿があった。その後ろでは起き上がったシノがハルトに近づいていた。


「……ハルト。ありがと」


「あぁ、守れたならよかった」


「聖剣を完全に喰らっていたはずだというのに一体なぜなのですか」


 ロイエルはメガネをより頻繁に触りながらハルトに問う。するとハルトは鼻で笑ったあとに答えた。


「この炎で燃やしただけだ」


「ど、どういうことなんですか。ありえない。聖剣を……」


 実は聖剣が落下したあの時ハルトはシノに駆け寄り守るために覆いかぶさっていた。そして聖剣がハルト達に届く直前にほぼ自爆の様な事をして聖剣の威力を弱め消滅させていたのだ。しかしシノを守った代償はデカく体の様々な所から流血している上に立っているのもやっとのような状態だった。


「…で、でもその様子ではもう無理でしょう。さらにここからです!!」


 ロイエルはそう言うと頭上に聖剣七本に武器が五十七本ほど現れた。それを見たシノは何を思ったのかハルトの前に立った。


「シノ、前に出たら危ないぞ」


「大丈夫。私に任せて」


「……わかった。ラムネこっちに来い」


「今行きます〜!!」


 ラムネがハルトのもとに戻ってきたのを確認するとシノはコートの中から一冊の本の様な物を取り出す。そしてそれをパラパラとめくりとあるページで止まり書かれている文字を見つめる。何かに気づいたハルトは顔を赤くして「なんでお前俺の手記持ってんだよ!! しまえ、返せ!!」とシノに言う。しかし「まだ嫌だ」と言ってまた手記に書かれている事を見て微笑む。後ろではハルトが恥ずかしさのあまりおかしくなってしまいそうだった。


「……ようやくハルトが私を見始めてくれた。なのにそれを邪魔するロエロ、無駄な胸を持ってる勘違い馬鹿水色髪」


「えぇ!!? 私の扱い酷すぎません?! それよりなんで私がその中に入ってるんですかぁ」


「……だから私達を邪魔する人、ハルトを傷つける人は許さない」


「そうですか。ならどうにかしてみせなさい」


 すると七本の聖剣と五十七本の武器がとてつもない速さでハルト達に向かって接近していく。それに対してシノは両手を上空に向けて広げる。


「邪魔。【ラブラックホール】」


 その時上空に小規模なブラックホールが現れる。そして接近してきていた武器、聖剣は尽くブラックホールの中に吸い込まれていき消滅していった。武器を吸い込んだブラックホールは次にロイエルを吸い込もうとしていた。ロイエルは吸い込まれないよう必死に持っている剣を地面に刺し耐えていたが次第に剣が地面から抜け始めていく。


「こんな事が人間に出来て言い訳がない……!!!!」


 剣が地面から抜けた瞬間ロイエルはとてつもない速さでシノに向かって一本の鋭い槍を放った。しかしブラックホールを生成しているシノは両手が塞がっており迫ってきている槍を防ぐ術がなかった。だがその時ハルトがシノの前に走り出し止まる。


(俺が魔法を……今度こそ俺が……)


 火魔法を槍に向かって放ったがその槍の軌道を完全に変える事は出来ずハルトの左足に突き刺さった。あまりの痛みに大きな声で叫びそうになったハルトだが片膝を地面につきながら痛みに耐えていた。


 ハルトに槍が刺さってしまった事に動揺したシノはブラックホールを解除してしまいロイエルは地面に降り立った。服についた汚れを払ったロイエルは頭上にハルト達に放った大きな聖剣を出現させる。


「結果とは最初に定めた未来。やはり過程などいらなかったようですね。残念です」


 ロイエルが聖剣を放とうとした時ハルトが徐々に立ち上がり始める。


「……最初に定めた未来が結果? そんなわけあるか」


「私が定めた未来は勝つ事だけです。そしてその未来はもうすぐ結果となって現れるのです」


(この世界に来た時、俺は死ぬってすぐ死ぬって思ってた。でも思っていた未来は一人の女の子が捻じ曲げてしまった。その瞬間に俺の人生の結果が変わったんだ)


「……ならよぉ。お前の未来曲げてやるよ」


「出来るものなら是非」


 完全に立ち上がったハルトはシノとラムネを呼ぶ。


「ラムネ、お前が最後を決める」


「了解致しましたぁー!!」


「シノ、頼む」


「うん」


 ハルト達が何かを企んでいる事に気づいたロイエルはすぐに腕を振り聖剣を放つ。放たれた瞬間ハルトがラムネに対して「行け!!!」と指示を出す。走り出したラムネを見たハルトは次にシノに指示を出す。「うん」とだけ答えたシノはラムネに対して風魔法を放つ。風魔法を受けたラムネはさらに速いスピードで進んでいく。


「一体何を!? 聖剣をなぜ狙わないのですか!」


 ラムネは聖剣を通り過ぎて行きとてつもない速さでロイエルの目の前までやってくると「おらぁああああああああ!!!!!」と言い全力で剣を振る。ロイエルはとっさに剣をラムネに向けて突き刺そうとしたがもう手遅れだった。ラムネの剣は斜めにロイエルの体を斬り裂いた。そしてロイエルは口から血を吹き出したながら後ろに倒れた。


 ロイエルを倒したが聖剣は消滅しなかった。聖剣は軌道を変え上空から迫ってきていた。しかしその時ハルトが聖剣に対して火魔法を放つ。


「どっか行けぇぇぇぇ!!! せいけぇぇええええええん!!!!」


 ハルトより放たれた火の光線は、


 ドゴォォォン!!


 という音を轟かせながら聖剣に向かって一直線に伸びていく。そして直撃すると聖剣はいとも簡単に溶けてしまった。火の光線は止まらずそのまま伸びていき終いには雲を消し去り遥か上空で爆発し眩い火の様に赤い光が【ロイゼン王国】領内を照らす。


「やっと終わった……」


「ハルトさんぁああ!!!!」


 疲れ切っているうえに怪我をしているハルトは全てが終わった事を確認にしたあと地面に倒れた。そんなハルトにシノは近づきしゃがみ込む。


「……随分見覚えのある構図だな」


「ハルト、お疲れ様。好き」


「……そうか」


「ハルトさん! 大丈夫ですか? とりあえず最期に私とキスでもしますかぁ?」


「それは絶対断る。てか勝手に最期って決めつけんな」


 倒れるハルトに二人が寄り添う。


 そこに走ってくる女の子が一人。


 走る女の子の後ろにはそれを追う五人の男女。


 そして一人走る女の子は心の中で決意する。


(今度こそ私がハルトを







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