21.全てを奪われ全てを与えられた者

「また会えましたね。ハルトさん、シノさん」


「え、私は!??」


 馬車から降りてきたのはやはり第三神託官のロイエルだった。そしてハルトはこれまでロイエルが他人ということでそれなりの常識を持って対応していたが今ではもう全貌を知りその様な対応をする気がなくなってしまっていた。


「んで、何の様ですかね。俺達今大事な練習中なんですけど。もしかして『私も一緒に混ぜてほしい』みたいなやつですか。すいません正直そういうのいいのでごめんなさい遠慮させて頂きます」


「どうやら調子に乗っているようですがほどほどに。負けた後にあの世で後悔する事になりますから」


「忠告どーも。それで用はなんだ?」


「犠牲者。それは国民も他国も知らない制度です。知っているのは【ロイゼン王国】アーレン国王、私達四人の神託官、【ロイゼン王国】領内に存在する村民、そして貴方達。村民に関しては今では裏切る気力もないですが貴方達は違う。このまま生かしていればいつしか貴方達はこの国の真実を世界に告げてしまう。それは非常に困るのですよ。だから貴方達には今ここで真実を持ったまま死んでもらいます」


 そういうとロイエルは空に手を掲げる。


「今度は最初から全力で行かさせていただきます」


 ロイエルの頭上に計七本の同じ聖剣が出現する。それを見たラムネは「聖剣ですよ聖剣。じゅるり」とよだれを垂らしては吸い込みを繰り返していた。


「貴方は誰か知りませんが」


「私はラムネ! しっかり覚えておいてくださいよぉ!!!」


「そ、そうですか。ふざけた名前だ。きっと彼ら二人と一緒にいるということは貴方もまた真実を知っている可能性があると見ていいでしょう」


「ひみつ? あぁ!! ハルトさんが昨日の夜、寝ているシノさんの頭を撫でていた事ですかぁ!!」


「ちょっっ。お前なんで知ってんだよ!!」


「てへへ」


 ロイエルはメガネを取りレンズを布で拭き始める。そして「それではあの世へ」とロイエルが言うと頭上にいた七つの聖剣が一斉にハルト達の方へと接近する。


(やっぱ伊達だなあれは)


「ハルトさん、まずは任せてください!!」


「わかった」


 ラムネは迫りくる聖剣に対して突っ込み出す。「ウラぁぁぁぁぁぁああ!!!!」と声を出しながら剣を上から下に振り剣先が地面に触れる。

 すると……


 ドッカーン!!


 と爆発の様な大きな音が鳴ると爆風で五本の聖剣が吹き飛び少しして消滅した。


「ドッカーンだ」


 有言実行したラムネに感心しているハルトだが撃ち落とし損ねた二本の聖剣が接近してきていた。


「ハルト、行くよ」


「あぁ」


 まずハルトが一本の聖剣に対して火の弾を放つ。それは見事命中すると同時に過度な爆発を起こした。一方シノは氷の魔法で完全に聖剣を氷漬けにし動きを止めた。そうして撃ち落とし損ねた二本の聖剣は消滅した。


「やはり貴方達はどこかおかしいようです。どちらも能力スキルなしだというのにその力。素晴らしい程に脅威」


 ロイエルが再び空に手を掲げると今度は聖剣が二倍に増え十四本も現れた。さすがにどんどん聖剣を生み出せるのはチートすぎないかとハルトは思ったが異世界はそういう鬼畜なとこだと改めて認識をしいつでも魔法を放てる状態に入った。


「二倍聖剣。聖剣を相手にしている時点で貴方達は化け物なのです」


 そして十四本の聖剣がハルト達の元に接近する。


「これほどまでに結果ではない過程を楽しんでいるのは初めてです。感謝しますよ、犠牲者の皆さん」


 ハルトとシノの前に立っているラムネさらに前に進み聖剣をどうにかしようとしていた。少し近づいた所でラムネは剣を斜め上に斬り上げる。すると剣は一本の聖剣に……


 シャキーン!!


 という音を鳴らしながら当たり当たった聖剣はさらに別の聖剣に当たるというのを繰り返しどんどん聖剣は地面に落ちては消滅していった。


「シャキーンだ」


「こ、これはまさかこんな事になろうとは。ではこれならどうしょう!!!」


 ロイエルが再び空に手を掲げると聖剣はさらに二倍に増え二十四本も現れた。さすがにこの量には迫力を感じハルトは目を輝かせていた。


(聖剣、かっけぇ)


 一斉に放たれる聖剣。やはりこれもラムネが前に走り出しどうにかしようとする。しかし今回に限ってはこれまでとは規模感が異なり到底一人で片付けられるようなものではなかった。だがそれでもラムネは諦める様子などは見られずむしろニコニコしていた。


「こんな楽しい戦いは初めてです〜!! いっそこのまま永遠に戦っていたいくらい。でもこれはハルトさんとの約束。これで終わらせます」


 ラムネは悲しい顔をしながら剣を高速で振り回し次々に斬り落としていく。落としては消滅落としては消滅それをただ繰り返す。そして残る聖剣は四本。ラムネはさらにロイエルへと走って近づいていく。その道中で剣を……


 ズバババーン!!


 と四本斬り落とすとラムネはロイエルの目の前まで来ていた。


「ズバババーンだ……」


 あの本数の聖剣を落とした事にロイエルは驚いて顔が変な事になっていたがハルトとシノは若干ひいてた。


「これで終わりですーー!!」


 ラムネの剣はロイエルの首にめがけて近づいていく。剣がロイエルの首に触れそうになる。その瞬間ロイエルの手には剣が現れ首ギリギリのところで止められてしまう。そしてロイエルは剣を思っていない片方の手でメガネを外し草原に投げ捨てた。


「そう言えば貴方の能力スキルは……」


「おらぁあああああ!!!」


 ラムネはロイエルによって止められている剣を力強く押す。だがそれはロイエルによって弾き返され少し後退した。ラムネは息を整える。


「ん? これは……血ですか」


 一切傷を与える事が出来なかったと思われていたがどうやらロイエルの首に少し剣がかすれており血が垂れていた。ロイエルは血を指で拭き取りそれを舐めた。


「狩られるのは私でもあるということですか。はぁ、もっと力を力を……」


 ロイエルの周りには無数の武器が現れる。これに気づいたラムネはさらに後ろに下がった。


「ここからが本当の殺し合いです。生きるのはどちらかだけ。明日をかけた戦いを。結果ではない過程を。それだけに集中して」


 無数に現れた武器はさらに増え出す。


「シノ、これどうするんだ」


「やるしかない。一人ひとりがやる」


「一人ひとりが……」


(前の世界でもこの世界でも一人でやり遂げるなんて考えた事もなかった。なぜなら俺には力がなかったからだ。何かを乗り越える、何かを解決する、誰かを救える、そんな力が。でも今の俺にはそれがある。今の俺なら信じられる)


「俺達ならやり遂げれる」


 ハルトは手を前に出して魔法を放つ準備をする。それを見たシノが「うん」と頷き同じ様に手を前に向ける。ラムネもハルト達を見たあと剣を強く握り構える。


「私の名は第三神託官ロイエル・リヒルバーン。この世界を平和にするべき神よりすべてを奪われすべてを与えられた者の一人。そしていつしかはすべてを皆で取り返す。それを成し遂げるまで私は進み続ける。これからどうなろうともその先の未来、結果が良いものならどうでもいい。だから未来の私の為にここで死んでくれ。……頼む」


 ロイエルの目からは涙がこぼれていた。そして内ポケットから予備のメガネを取り出しまるで涙を隠すようにかけた。


「ロイエル、かかってこい。俺達が最後まで相手をしてやる!!!」



@@



 【カーシス村】の近くにやってきていた召喚された者達は一度爆発があったとされる現場を見ておこうということで馬車で向かっていた。しかし馬車で進んでいると少し離れたところにとんでもない光景が広がっており馬車で来ていた全員が驚いた。それは無数の武器が空中に浮遊しておりその近くには三人の者がいたのである。


 ダリアと同じ馬車に乗っていた海斗があの浮遊しているのは一体何なのかと聞くと「神託官ロイエルの能力スキルだ」と答える。それに海斗が「この間言っていたあの怪しい事をしている神託官ですか?」と聞くとダリアは頷いた。実は【ロイゼン王国】に行く事が決まる前に【ロイゼン王国】が最近何かをしているのではないかという憶測が国のトップの者達の中で話し合われていたそうでそれをダリアはこっそり生徒に話していたのだ。


「なら神託官の近くにいる三人は……」


「恐らく何かあり戦っているのだろう」


「なら助けないと!!」


「やめておけ。神託官と戦うのはお前達には早すぎる。一瞬で首が飛ぶぞ」


 ダリアにそう言われ立ち上がっていた海斗は渋々座った。その時ずっと戦いの様子を見つめていた結華と何かに気づいた楓が同時にある事を言う。


「「……ハルト(くん)」」







**

「面白い」「続きが気になる」など何かしら思って頂けたらハートやフォロー、レビューお願いします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る