20.ラムネ、剣を練習する

「では神託官がいる城へ乗り込んでやりましょう!!!」


 これから何をするかを決める話し合いでラムネは初っ端からとんでもない発言をする。もちろんハルトが馬鹿なのかと指摘すると「私のこの剣の感触を確かめたいんですよ〜!」と柄にもなく必要性のありそうな事を言った。ただやはり感触を確かめる為だけに神託官のいる城にいきなり乗り込むのは自殺行為そのもの。ハルトは考えた結果あの草原で練習でもやれば良いんじゃないかと提案した。


 草原と聞きラムネは一瞬固まったが「そこにしましょぉぉぉ!!」といきなり気合を入れ剣を持って立ち上がった。


「それじゃあ行くぞ」


「うん」


「れっつごーですよぉぉぉぉ!!!!!!!」


 

@@



 ハルト達は宿の外に出た後街の中をてきとうにふらふらと歩いていた。何をしているのかと言うとどうやらハルトがもう歩きであそこまで行きたくないと言い出し馬車で行くことになったようでそれの為に今は馬車を探しているのだ。しかし異世界というのは想像していたよりもあまり馬車がなくどうにか見つける為に目に全集中を送り込んだハルトだったが見つからなかった。


「馬車がないんだが」


「なら徒歩です! こっからあの草原まで十五分とかそのくらいですから徒歩で! ね? ね? ねぇぇ!!!」


「十五分? 俺らはそんな早くつかなかったぞ」


「それは知りませ〜ん。とりあえず早く行きましょう!! 一番最後の人は私が殴りましょうかぁ!!」


「変な罰ゲームをつけんな!」


 そしてラムネは我先にと門がある方に走り出した。それに続いてハルトも走り出すが後ろでシノが全くついてきていないことに気づく。どうしたのかとハルトが声をかけるがシノは後ろのどこかを見つめており反応がなかった。しかしハルトがしつこく「シノシノシノシノシノ」と連呼しているとようやく反応しシノはハルトを見る。


「どうしたんだよ」


「いや。なんでも。それより、んっ」


 シノはそう言いながら両手を広げて何かをアピールする。


「それをしろと?」


「うん」


 ハルトは一度後ろを向きラムネの事を確認する。既にラムネは中々に距離が離れていた。そして再びシノを見たハルトは「お前が罰ゲームな」と言ってシノをおんぶする。おんぶををされたシノは思わず「んっ……」と声をあげ顔を少しばかり赤らめハルトの背中に顔くっつける。


 準備が出来たハルトは「待ってこらァァァァ!!!」と叫びながら見たこともない速さでラムネの元へ走り出した。


「ハルト、速い速い。ファイト、ハルト」


「むむむッ!!! ハルトさん、やりますなぁ! 私に追いつくとはぁぁ!! しかし勝負はここから、トップスピードで行くぅぅぅ〜〜!!!」


「ハルト、がんばって」


 なんとかラムネに追いついたハルトだったがラムネの心をより熱く燃やしてしまいさらに加速しだし再び引き離される。門の人に驚かせながらも門を通過し長い道を走り出したがもうハルトの体力の限界は近づいていた。


(まずい、このままだと負けてしまう……。それだと俺もシノもおしまいだ。だが俺はこんな所では諦めない! 鬼畜な異世界を乗り越えるんだぁぁぁあああ!!!!!)


 異世界人生での今後の運命を左右する決断をしたハルトは体に残っている力をできるだけ絞り出す。


 そして駆ける。


 駆ける。


 片足足を一秒ほど過去に置き去りにする。それと同時に体はやや前のめりに。


 体は地面に進むが気持ちは前に一直線に進んでいく。


 そしてこける。


(……うん。これは異世界が鬼畜なせい)


 この後ハルトは大人しくシノをおんぶしたまま歩いて遥か先にいるラムネの元へ向かったのだった。



@@



「ちょっとぉ! 遅いですよ! 遅すぎてちょっと寝ましたよ私!!!」


「この詐欺師」


「私はそんな事しませんけどぉぉ! なになに負け惜しみですか??」


「結局一時間くらいかかったぞ。多分」


「それは歩いてるからですよ〜。私はしっかりきっちり十五分でしたから」


「お前基準の時間なのかよ」


「えへへへ」


「えへへ事じゃないぞ。あーもういいから剣の練習早くやってくれ」


「任せてください! それ得意です」


 ラムネは鞘から剣を抜き構える。そしてハッ、ハッと何度も剣を振り続ける。


「おぉ〜!! これ凄いですよ。まるで既に私のものだったような感覚です〜!!」


「合ったようでよかったよ。俺達はここで座って休んでるから終わったら言ってくれ」


「わかりましたぁ〜。おらおらおらぁあああああ。空気よ滅べぇぇぇ!!」


 練習なのかわからない事を始めるラムネを無視してハルトは地面に座り込んだ。しかしシノが未だに立っていたのでハルトが座らないのかと尋ねるがシノは【ロイゼン王国】の門の方を見つめ止まっていた。おーいと何度か声をかけても反応しないので仕方なくシノの足に触れると「んっっ……」と言ってようやくハルトを見つめる。


「どうしたんだ? 座らないのか」


「座る。でもハルトなんだか嫌な気配がする」


「嫌な気配?」


「うん。宿を出てからしばらくした頃から誰かがつけてきてる」


「早速神託官が俺達を狙ってきてるってことか」


「うん」


 ハルトは座ろうとするシノの手に触れ支える。そしてシノはハルトにくっつく形で地面に座った。

 座ったあと先程の話しの続きを始めシノは【ロイゼン王国】の門の方を見る。それに合わせてハルトも同じ様にその方角を見る。


「近づいてきてる」


「どうやらそうみたいだな」


 こちらに走ってくる馬車。あれは明らかにこの間ロイエルが乗っていた王城の馬車である。


「おい、ラムネ」


「はい〜」


「ちょうど良いところに練習台が来たみたいだ」


「それは誠のほんとですかぁ」


「もちろんだ。期待してるぞ」


「……期待。やってやりますよ。ドッカーン、シャキーン、ズバババーンって!!」


「全部剣では成せないような擬音だな」


 ハルトとシノは立ち上がり横に並んでその馬車を出迎える準備をする。ラムネもシノと同じ様にハルトの隣に立った。


(今まで異世界なんて鬼畜だと思っていたが今のところは最初ほど鬼畜な事はなく順調に物事が進んでいる。ふっ、異世界楽勝かもしれんな)



@@



 一方【ヒルアール王国】では動きがあった。

 昨日の【ロイゼン王国】領内で発生した原因不明の爆発が九神エニアグラムの魔の災害の予兆なのではないかと半日刊世界情報誌のヘレボルスが主張した事により世界中では騒ぎになっていた。そこで【ヒルアール王国】に召喚されていた者達を【ロイゼン王国】へ調査として送り込む事が決定した。


 そして彼は既に向かってきていた。









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