19.不敬! 死刑! 極刑!

 ラムネのせいでより良くない展開になっていたがハルトはなんとか訂正してシノに何があったのかをすべて説明した。説明を終えると多少納得してなさそうな表情を見せたシノだが「わかった」と言った。色々とあって気疲れしたハルトははぁーとため息をつく。そして気持ちを入れ替えて「自己紹介でもしとくか」と提案した。それに対して他二人は賛成したようだ。


 ハルトはシノがいるベッドに座りラムネはもう片方のベッドに座った。ハルトがベッドに座るとシノは布団と一緒にハルトに近づくために少しずつ移動する。そしてハルトの隣に来たところで止まった。


「まず俺からな。俺はハルトだ。よろしく」


「改めて」


「よろーしくございます〜!!」


 ハルトが自己紹介を終えると次にシノの番になる。するとシノはいきなり両手でハルトの片腕に触れる。


「……私はシノ。ハルトの恋人にしていずれ正妻」


「勝手に恋人にすんな。あとしれっと昇格を考えるな」


「ぬえぇぇぇぇぇぇええ!!! やっぱりそうだったんですかぁ! いやぁ私なんとなく気づいてましたよ。奥さんから漂う愛の威圧をッ!!」


「何言ってんだ」


 そして最後にふざけたおしているラムネが自己紹介をする。


 ラムネはベッドの上で立ち上がり「私は私こそがぁあああ!!!」と言ってベッドから飛び降りると特に滑ってしまう要素など床になかったのだが勢いよく滑った。その時シノがベッドに置かれていた枕をぶん投げラムネの後頭部を守りはしたが完全に衝撃を吸収する事は出来ず悶絶していた。


「こ、こんな災難続きなんてぇ! まさかこれも九神エニアグラムが原因かぁ!! って災難といえばハルトさん私の剣どうしてくれるんですか!」


「は?」


「あの時の爆発のせいであえて肌身から離していた剣がふっとんで消えたんですよ! 大切にしていた剣だったというのに! 不敬! 死刑! 極刑!!」


「大切な剣なら肌身離さず持っとけよ」


「ぬはぁああああ! 私に剣をどうかくださいぃぃ!」


 ラムネが泣いているとシノがハルトの袖を引っ張る。「どうしたんだ?」とハルトが声をかけるとシノは壁に立てかけていた剣を見つめて「ハルト、あれあげていーよ」と言ったがハルトには持っていても使えないからという意味に勝手に変換されていた。


 ハルトは壁に立てかけている剣を取りにベッドから立ち上がる。ラムネはハルトが何をしようとしているのかわからず地面に座ったままだった。


「これやるよ」


 ハルトはラムネの元まで行きずっと持っていた使わない剣を手渡した。剣を受け取ったラムネは「ありがとう」と満面の笑みを浮かべて言った。


(普通にしてればこんなに可愛いのか)


 シノに心を読まれたら殺されそうな事を平然と思ったハルト。しかしシノは心を読むことなど出来ないのでただひたすらラムネに愛の威圧をッ送りつけていた。


「ハルトさん、これからはこれを大切にします!」


「切り替え早すぎないか」


「大切なものはいずれ消えますから古き大切にいつまでも固執せず日々生まれる大切を私は拾っていきたいんです」


「え、いきなりなんだこいつ」


「気持ち悪い。お腹露出狂」


「ちょぉぉぉぉっと! 何かを語っただけでそんな事言われるなんて国外追放だけでは済みませんけど!! それとぉ露出狂じゃないです!!」


 ラムネの服装はお腹を隠す気がない服にショートパンツ。これで戦闘に挑むというのならば正真正銘の馬鹿である。


「てか自己紹介しろよ」


「あぁ〜!! 私はラムネ・シュワーシュールです! これから何卒よろしくお願いしまーす」


「ということで自己紹介は終わり。こいつの事はさっき説明した通りだ。それで俺達がする事もさっき言った通り。以上。寝る」


 ハルトは自己紹介前の説明でラムネについては聞いたことはシノにすべて話したがラムネにはハルトが転移者でシノが魔女だということは一応隠した。一見馬鹿そうだがそれは偽りの可能性もある為完全に信用出来ると判断するまでは隠すつもりのようだ。


「ハルト、一緒に寝よ?」


「あ、あぁ」


「いいですねぇ〜。私もまぜてくださいぃ!!」


「お前はそっちのベッドで寝ろ」


「ど、どうしてですかぁ!! もうそれなりの関係だと、これは私の勘違い……なのですかぁ?!」


「そうだな。勘違いだな。お前がこっちに来たら狭いしうるさいし馬鹿だし変人だし」


「最初以外全部無関係じゃないですかぁああ!!」


「いいや、だ」


 ラムネはしょぼんとした顔でベッドに登り布団にくるまった。一方ハルトとシノは一つしかない枕をハルトが使いシノは腕枕をしてもらって眠ろうとしていた。しかしようやく訪れた静寂を破壊するようにラムネが大声を出す。


「あぁぁ!!! 私そう言えば漏れそうなんですよぉ!」


「何がだよ」


「い、いやぁ、そ、そんな事言わせないでくださいよ。言いますけど〜。おしっこです。ちなみに決壊寸前です」


「いや、早く出しに行けぇぇぇぇ!!!」


 ラムネはハルトに怒鳴られベッドから急いで降り扉の鍵を開けて走っていった。ハルトは頭を抱えてはぁとため息をつく。


(あんな奴と今後一緒って本当に大丈夫なのか?)



@@



 翌日。

 

 窓から差し込む光がまぶたに当たり目を覚ましたハルトは体を起こすまえにシノの頭からそーっと腕を抜く。腕を開放する事が出来たハルトは腕に感じる痺れに戸惑いつつも体を起こそうとする。しかしどうも起き上がることが出来ない。まるでお腹らへんに何か重りの様な物が置かれている感覚になるハルト。起き上がれない原因は何かと思いハルトが布団をめくってみるとそこには体の上でスヤスヤと眠っているラムネがいた。


(何やってんだこいつ。あっちで寝ろって言ったのに)


 ハルトは布団をめくりシノに優しくかける。そしてシノを起こさない程度にラムネの頭にげんこつを喰らわす。するとラムネは頭部に感じた痛みで涙目になりながら目を覚ました。


「何するんですかぁ、朝から美少女を殴るなんて。とんだご趣味をお持ちなんですねッッ!!!」


 ラムネはそう言うとハルトのお腹にグーパンチをかます。あまりにも痛かったためハルトは一人お腹を抑えて悶絶していた。


「お前……やったな。ついにやったな」


「元はと言えばそっちが先に殴ったんじゃないですかぁ!!」


「俺のは優しさ純度百パーセントだがお前のはゼロだゼロ!」


「先に殴った方が悪いんですぅ。美少女を殴るのは極刑ですぅ〜!!」


 ハルトはすぅーと息を吸ってふぅーと吐いたあとラムネを一度体の上からどかす。そしてベッドから降りてラムネの背後に周り服を強く握る。そして引きずりだし扉の方へ向かい始める。


「よし決めた今から引きずって追い出す」


「現在進行系、現在進行系!! 現在進行系で引きずられてますよぉ!! すいませんすいません! 多分きっと絶対とは言えないけど約束は守りますから」


「今日から一人減るから宿泊代もまた変わってくるか」


「良いんですね? 良いんですか! このまま行けば私の最終奥義を炸裂しますけどもぉ!!」


「知らん、好きにしろ」


「私の奥義〜〜!!!」


 ラムネはそう言って悪い顔をする。しかしそれにハルトが気づくことはなかった。そして今ここでラムネの最終奥義が発動する。


「シノさぁああん! ハルトさんに二人っきりの密室に連れて行かれそうです〜! これは未曾有の危機だぁ〜!!!」


「おま、やめろ」


 するとラムネの声ですっかり目を覚ましたシノがハルトの事を見つめる。そしてラムネが言っていた事と状況を見て理解したようで「わかった」と言った。ハルトはシノが嘘に騙されずちゃんと理解してくれた事に安心していたのも束の間、シノはハルトに対して指を向ける。


「おいおい! 放とうとするな。これは誤解だ。シノもこいつが馬鹿なのはなんとなくわかってるだろ」


「うん。でもハルト、その状況だとあまり誤解だと思えない」


「すいません。ほんとすいません」


 ハルトはラムネから手を離しお辞儀を繰り返し行う。一方開放されたラムネはお辞儀するハルトの顔を見るために地面に横になっていた。そしてハルトは顔を下げたままシノに聞こえない声で会話をする。


「何やってんだ」


「これは私の勝ち〜ですねぇ」


「お前、覚えとけよ」


「私はいつでも相手になりますよぉ〜! 暇なので!!」


 会話をしているとシノが「もういーよ。それより今日どうするか決めよ」と言ってくれハルトは顔をあげる。その時のラムネの顔は腹立つほどにニッコニコしていた。


(こいつのお願いフル無視したろうかな)


 こうしてハルトはラムネの最終奥義によって敗北したのだった。







**

「面白い」「続きが気になる」など何かしら思って頂けたらハートやフォロー、レビューお願いします!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る