10.犠牲者はぶっ潰したい
「どうかもう許してください」
やけに長い間お風呂に入っていたハルトだったがようやく出てきて用意してもらった服に着替え家の扉に向かった。すると村の入口で何やら人だかりが出来ていた。人だかりに耳を傾けていると謝っている様なセリフなどが聞こえてくる。人だかりの方を見ていると家の前にシノと立っていたアリアが不安そうな表情を浮かべながら何やら語り始めた。
「今あの中心に立っている老人がこの村の村長のロルガルドさんで隣が息子さんのロイドくんなんだけどその先に立っているのが【ロイゼン王国】の神託官のロイエル・リヒルバーンなのよ」
神託官。
名前に神と付けるくらいの者ということは只者ではないということなのだろうとハルトは思う。実際ロイエルと言う神託官はいかにも強者というような服装をしている。
「あの神託官は領内の村にああやってよく突っかかってくるのよ…。それだけならまだ我慢できるんだけれど……」
アリアが暗い表情をした時ロイエルがメガネを触り強い口調で何かを言い始める。気になったハルト達は人だかりに加わった。
「貴方達にこれ以上構っている暇など私にはないと言うのに。早く決断してください。この村を完全に【ロイゼン王国】のものとするかこれからも無駄に足掻いてより多くの犠牲を出すかのどちらかを」
「この村は昔から存在している大切な村なんだ。だからロイゼンのものになるなんて御免だ」
「なら犠牲を選ぶと。良いでしょう。では記念すべき十人目の犠牲者を選んでおいてください」
「そ、それは……」
「どうやら珍しくこの村に客人がいるようなので私は戻らさせていただきます。また明日に結論を聞きに来ます。もし結論が出ていないようなのであれば私が答えを出して差し上げましょう。それではまた」
ロイエルはそう言い放つと村に背を向け立派な馬車の中に乗り込んだ。そして馬車はどこかへ走り出す。神託官がいなくなったことで村民の緊張がほぐれたのか皆揃ってふぅーと息をはいた。そしてそれぞれがいつも通りの日常に戻ろうとした時村長であるロルガルドが話があると言ってみんなを引き止めた。
「今回の犠牲者の件じゃがワシが出よう」
ロルガルドの発言にその場にいた村民は驚きながらも「それはダメだ」とロルガルドが犠牲者になることを認めようとはしなかった。ロルガルドが犠牲者になるのを認めようとはしなかった村民たちだが自分が犠牲者になると名乗り出る者はいなかった。
「ラット…」
ロルガルドはただその一言だけ発する。ざわついていた村民は一斉に静かになりロルガルドの方を向いた。
「本来ワシが犠牲になるはずじゃったのにラットは村の誰にも相談せず走り出し自らの意思で犠牲者になりよった。ラットに救われたこの命を大切にせねばならぬことは理解出来る。じゃがもうワシも歳じゃ。ラットの様にかっこよくはいかんかもしれんが最後くらい村の為になりたいんじゃよ」
「父さん、それでもダメなものはダメだ。父さんがこの村からいなくなったらどうするんだ。犠牲者なら俺がなる。だから父さんはまだ生きるんだ」
「ロイド、何を言うんじゃ。お前の人生はこれからだと言うのに」
「そんなのは関係ない。人生が始まろうが終わろうが村には関係ない。父さん、俺も父さんと同じ気持ちなんだ。わかってくれよ」
村民は二人の掛け合いを真剣に聞いていた。誰しもが他人事ではないと感じていたからである。しかし他人事ではないと感じていながらも何か行動を起こせずにいた。一方話を聞いていたハルトとシノは何かを話し合っているようだった。
「ハルト。行こ」
「事情もわからないのにか?」
「人を助けるのに事情なんて関係ない。ハルトだってそうだった」
「確かにそうだけど」
「だから私達で。二人ならやれる」
「あぁ」
二人は集まっている村民をかき分けてロルガルドとロイドのいるところへ向かう。突如出てきた二人に対してロルガルドとロイドもそうだが周りの村民もこれから何をする気なんだと疑問に思っているようだった。しかしハルト達はそんな村民たちの視線を気にすることなく進んでいく。どんどんと進んでいくとロルガルドがハルト達に気付き声をかける。
「君は確かアリアさんのところのハルトさんだったっけ。悪いね、せっかくの旅の途中にこんなのを見せてしまって」
「いえ。それよりこの村についてもこの国についても何もかも知りませんが俺達が犠牲者とやらになりますよ」
ハルトの発言に周りは村長の時以上に驚いていた。そもそもその発言を聞いて驚かないほうがおかしいまである。なんせ【カーシス村】滞在時間数時間の少年少女が犠牲者に申し出るなど異例中の異例だからである。いやもはや行き過ぎた人助けだろう。しかしハルト達はそんな事を気にもしていなかった。
「ハルトさん、正気ですか? 犠牲者になると言うことは奴隷になると言うことなんですよ。現にこれまで犠牲者になった人達は誰一人としてこの村に戻ってくる事はなかったんです。それでもなると言うんですか」
「私達なら大丈夫。二人でぶっつぶす」
「!?!?!?」
シノの発言にハルトは話違くないか? と心の中で思ったがこの状況でツッコむのは流石にヤバイ奴すぎるのでスルーすることにした。
「だから任せて。この村は守ってあげる」
「ほっほっほっほ。また生かされてしまったようじゃ」
ロルガルドは少し生えた顎髭を触りながら言った。突如笑う姿を見た村民の空気感は一変し和らいだ。村民は笑顔で笑っていたがロルガルドはどことなく本当には笑えていないようにも見える。
「お二人さんの意志は硬そうじゃのう。だがワシも負けてはられん。終わらせるならワシらも協力をしよう」
「……父さん。そうだね。ハルトさんシノさん、本当にありがとうございます……!」
ハルトはロルガルドとロイドと握手をした。その瞬間に村民は歓声をあげる。今ここにもしかしたら村を救うかもしれぬ英雄が誕生した。
「……ハルト、シノ」
歓声をあげる村民の中でただ一人の女性――アリアは暗い表情をしていた。
「ハルト、これは特訓がさらに必要」
「そうかもしれないな。でも今日は一回やったしな。特訓」
「もうすぐで夜だからやる。皆寝てるしそれに魔物は特に夜になるとより活発になる。だから特訓の相手には最適」
「へぇー、魔物って夜行性なのか」
「いいや、魔物はいつでも活発。だけど夜が好きみたいだからより活発になる」
(つまりはヤンキー?)
ハルトの思考回路ではヤンキーは朝昼で暴れたりはしているがそれほどでもない。しかし夜になると異常なまでに活発になる。それがシノが言ってた事とよく似ておりヤンキーという普通に考えたらそうならないであろう結論にたどり着いたのだ。
「それじゃあ夜にやるか。第二回魔法特訓」
「おー」
村民がそれぞれ畑仕事や荷物運び、草取りに洗濯といったことをしている中二人は拳を上に掲げていたのだった。
「てか滝修行はするなよ?」
「ハルト、近くに滝はない」
「どっかに飛ばすぞ」
「暴力反対暴力反対」
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