9.クラスside きっとまだ…

 これは少し前の出来事である。

 

 森にて魔物が突如現れ【ヒルアール王国】の国民三人が怪我を負った。

 先代国王によって召喚された異世界の者達は独断で討伐に向かったが失敗に終わった。

 死亡者:五人

 負傷者:十一人

 生死不明者:一人


 屋敷に戻った和希達は長老に事の顛末を話していた。それを聞きつけダリアがやってきた。相当急いでやってきたようでダリアの額からは汗が垂れていた。そして息を整えたダリアは和希達に声をかける。


「何を勝手にやってるんだ! どうしてそんな事を……」


「ダリア、落ち着くのじゃ。これから世界を救う者達が自発的に討伐へ向かった事は成長と言えるじゃろ」


「だがそれで若いもんが死んでるんですよ!」


 悲しみと怒りを持つダリアが長老と言い争っていると割って入るようにして結華が話し出す。


「ハルトが! ハルトはまだ生きてます! 足を潰されただけで!!」


「なんだと!! それは本当なのか!」


「ほんとです!」


 結華はダリアが信じてくれた事でホッとしていたがそれを邪魔するように和希がやってくる。


「言ったはずだ。彼はもう生きてはいないって。現実を受け止めきれないのもわかるけれどそれにも限度があるよ」


「和希、お前一回黙れ」


 非人道的な発言をする和希についに怒りの限界を迎えた海斗が一発顔面を殴った。和希の取り巻きが海斗を抑えようとした時ダリアが行くぞ! と言いそれに答えるように海斗は走り出す。二人に続き結華も走る。たまたま起きてきた一条先生はどうして彼らが走っているのか理解できずとりあえず後を追いかけだす。


 駆け出したダリアはもう一度ハルトが本当に生きているのかを聞くと海斗が「気絶してるとは思いますけどきっとまだ……あいつなら生きてると思います」と答える。ダリアは「そうか」とだけ言う。そんな事をしていると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「君達待ってくれ。これは一体何事なんだ」


「先生!?」


 遅れて走ってきていたのは一条先生だった。必死に走り追いついてきた一条先生に一体何があったのかを海斗は森の中を走りながら一条先生に説明する。説明を終えると一条先生はいつもの様に眠そうな顔ではなくなり怒りの様な悲しみの様な複雑な表情をしていた。自分の生徒がそんな目にあっては仕方ないことなのかもしれない。


 しばらく走り四人はあの森のあの場所に到着する。辺りは血まみれで生徒の死体が無造作に転がっている。既に酷い死に方をした生徒の元には得体のしれない虫が群がっている。


「ハルト……」


 どこを見渡せどもハルトの姿はなかった。


「ハルト…ハルト!! ハルト!!!」


 結華は泣きながらふらつきだした。そんな結華を海斗は優しく支え「きっとあいつは大丈夫だ」と言い続けた。生徒の死体周りを調べていると一条先生が不自然な血の跡がある事に気づき皆を呼んだ。その血はまるで誰かが血を垂らしながら進んだことで出来たように思えるものだった。


「ここってハルトが倒れてたところ!」


「てことはこの血をたどれば東雲がいるかもしれないってことか」


「行きましょう! 早く」


 四人はその不自然な血の跡を辿っていく。途中で血は【ヒルアール王国】ではない方に続いていた。


「ハルト、なんでこっちに……」


 なぜ【ヒルアール王国】ではない別の方向に進んでいっているのかわからない一同は最悪のシナリオを頭に思い浮かべる。しかしそのシナリオは一瞬にして覆される。そこには驚くべき光景が広がっていた。


「ト、トロールが!?」


 なんと丸焦げになっているトロールが二体も倒れていたのである。そしてそれまで垂れていた血は途絶えていた。


「ハルトには能力スキルがなかったはずなのにどうして…。一体何があったんだ」


「もしかしたらここで止血をして国に戻ったのかもしれないよ!」


「なら手当たり次第国の人に聞いて回るしかないな」


 もしかしたら【ヒルアール王国】のどこかにハルトがいるかもしれないと思った結華達は森を出て国の人々に話を聞くことにした。例えそれがどれだけかかったとしても結華達はやめる気がないそれくらいの覚悟だった。ダリアは生徒の遺体を処理してから向かうと言い先に三人を向かわせた。早速国に戻った三人は手分けをしてハルトの行方を探すことになった。



@@



 何時間も聞き周り夜になったがハルトは見つかることはなかった。

 だが三人は探すことを諦めなかった。


 捜索二日目。

 クラスメイトの沖田おきだかえで落合おちあい京香きょうか朝稲あさいな麻衣美まいみもハルトの捜索を手伝うと志願した。みんながハルトの行方を探しているのを気に食わない和希は馬車の横で孝汰と何かを話していた。


「孝汰、東雲君は生きてると思うか?」


「俺はなんとも。もし生きていたらどうするんだ?」


「それは決まっているよ。他に見つかる前に見つけ出し消せば良い」


「わかった。他の奴にも伝えておくか」


「いやこっちで人を選ぶよ」


「……どうしたんだ、和希。馬車なんか見つめて。乗りたいのか?」


「いや、なんでもないさ」


 

@@



 二日目も夜を迎え捜索メンバーは屋敷の海斗の部屋に集まって今日得ることのできた情報を共有することになっていた為一同が部屋に集まる。


「誰か何かわかった事はあったか?」


 海斗が皆に質問すると楓が「はいはい!!」と手を挙げた。みんなが楓に視線を向ける。


「私は服屋みたいなところに行ったんだけどどうやらハルトくんと特徴が似てる男の子が銀髪の超絶美少女と来たって店の人が言ってたよ」


「ハルトが女といるってことか???」


「そうみたい。お揃いの白いコートを買ってうふふきゃははしてたって店の人が楽しそうに言ってた」


「おーう、まじかぁ。殴ったろうかな」


 楓の話しが終わった後に海斗が他に情報を得た人がいないかと聞くと「はいはい!!」と言って再び楓が手を挙げる。


「さすが楓」


「京香〜褒めすぎ! これも全部能力スキルのおかげだよ」


 沖田楓の能力スキルは【超嗅覚】である。

 この能力スキルは発動したのちに探したい人の匂いを嗅ぐことで大まかな場所を特定する事ができる。他にも敵意を発している者が近くに接近していると強い匂いを感じ取る事が出来る。


「でもやっぱりハルトくんの制服の匂いを嗅いだ時は変態になった気分だったよ」


「確かに興奮してたけど沖田の場合犬みたいだったけどな」


「こ、興奮だなんて!」


「ほらお前達、話しが進んでないぞ」


 一条先生に怒られた楓は気を取り直して話しを再開する。


「どうやらハルトくんは宿に泊まってたみたい。宿の人に聞いたら可愛い女の子と入っていったぜって言ってたよ。念のためハルトくんが泊まった部屋に言って布団の匂いを嗅いだらばっちりハルトくんだった。それと知らない人の匂いも感じたよ」


「楓、ありがとう。それでハルトはその後どこに行ったかわかる?」


「それが途中までは二種類の匂いを感じて辿ってたんだけど途中で消えちゃって」


「馬車に乗ってどこかへ移動したか第三者によっていきなり拐われた。どちらかだろうな。きっと」


 楓の話しを聞いてダリアはひとまずそういう結論を導き出した。周りの生徒も同様にその結論に異論なく賛成した。第三者によって拐われた場合騒ぎになる可能性があるため消去法で馬車に乗ってどこかへ行ったという考えをした海斗は早速馬車に乗って探しに行こうと提案する。しかしそれはダリアによって却下されてしまった。


 その理由としてはハルトがどこに向かったかなど誰にもわかるわけがないため無謀であるということ。そしてもう一つは海斗達は世界を救う為に召喚されたということである。もしもの時に備えて海斗達は全員揃っていなければならない。だからこそ簡単に別れて行動する事が出来ないのだ。


「すまない……」


 事情を知っているダリアは罪悪感に飲まれながらも精一杯の謝罪をした。だが必死に探して得た情報だったがそれも全て世界を救うという使命によって消されてしまった。そして皆、海斗の部屋で暗い表情を浮かべるのだった。




**

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