8.こういうのもいい
消火という名の滝修行によってびしょびしょになった二人はとりあえずアリアの家に戻る事にしたのだがその道中でハルトはある事に気がついてしまう。それは水によって濡れたシノの服が体のラインが分かるほどにぴっちりとひっついていたのである。
(こいつ……もしかして中に何も着けてないのか?)
「ハルト、寒い」
「そ、それは濡れてるからな」
シノの方を見ないようにずっと前を向いているハルトだが時々どうしても気になってしまい横をチラッとだけ見るがコートが邪魔をしていた今はあまり見えない。早く歩けばちょっとくらい……と年頃の男子の感情が発動しシノより少し早く歩こうとするが「速い」と言われ手を掴まれてしまう。
「そう言えば着替えないけどどうするか?」
「裸でも抱き合えば暖かい」
「却下」
「冷たい」
ハルトのシノのコートの中を見るという作戦は全てが尽く失敗しついに終わりを告げる声が聞こえてくる。つまりは村についたということだ。
「ハルト、ついた」
「そうだな」
村に戻ってくると外にいた何人かの男の村民がなぜかこちらを見ていた。俺達に何かあるのか? と思っていたハルトだが何かがおかしいと感じ脳をフル回転させ考え出す。そしてある一つの事に気づく。それは村民の全ての視線の終着地点がシノでしかも服を見ていたのである。
(お前らには見せるか!!)
謎の独占欲を見出したハルトは自身のコートを脱ぐ。そしてシノのコートの中が見えない様に前からコートをかける。コートをかけたあと厭らしい視線をシノに向けていた男たちにハルトは睨みつける。
「ハルト、なんか手使いにくい」
「アリアさんの家に戻るまでは我慢してくれ」
風邪を引く前に急いでハルト達はアリアの家に向かった。一方男の村民達は明らかに残念そうな表情をしていたがハルトは不思議な気持ちを感じていた。
(なんで俺はあんな事したんだ? 他の人に見られたくなかったからか…?)
何がどうあれ今日も世界の平和は守られたのだった。
「そんなに濡れてどうしたのよ」
家に戻るとアリアはびしょ濡れのハルト達を見てそう言った。二人は体をぶるぶると震わせて扉の前にそのまま立っていた。
「滝修行」
「え?」
シノのよくわからない発言にアリアが困惑してしまっていたのでハルトがシノの発言を訂正した。話しを聞いたアリアは本当に何してるのよと少し笑いながら言った。ハルトもアリアと同意見である。
「とりあえずそうね。まだ少し明るいけど家の裏に小さい小屋みたいのがあるんだけどその中に樽風呂があるから温まってくると良いわよ。着替えはこっちで用意して入口前においておくから。それと脱いだ服はそのまま小屋に置いておいて」
「わかりました。ありがとうございます」
「ありがと」
そしてハルトは家の裏にあるという小屋に向かう。家の裏に回ると意外と大きい小屋があった。ハルトは寒さのあまり震えながら小屋の扉を開けた。
(樽風呂だったけ? こういう初めて使うからなんだかワクワクしてくる)
樽はギリギリ二人ほど入れそうな大きさで中にはいっぱいの湯が張られていた。ハルトは早速服を脱ぎ湯に浸かる。
(はぁー。屋敷の大浴場も良かったけどこういうのもやっぱいいよなぁ)
完全にリラックスしていると小屋の前に誰か来ている気配がしてそれが服を持ってきてくれたアリアだとわかったハルトは風呂の中から礼を言う。しかし礼を言ったのにも関わらずアリアは何も返事をしなかったことに疑問を感じた。
(どうしたんだろう?)
小屋は上の方と扉の下には隙間があるのだがそこを見ているとまだ足がある。異世界にも霊とかそういうのがいるのかと焦ったハルトだが次の瞬間扉の下に二着の白コート、シャツ、白スカート、縁の部分に水色のラインが入った純白のニーソックスが落ち最終的には女性物のパンツが落ちたところでん? となり固まる。
(おいおいまさか……)
ハルトの嫌な予感は的中した。扉が開くとそこには裸のシノが立っていた。
「あ、ハルト。いたんだ」
「絶対わかってただろ。てかなんで外で服脱いでるんだよ。せめて中にしまえ!」
「うん」
シノはハルトの言われた通りに脱いだものを持ち上げハルトの服の上にポイッと投げ置いた。その後シノはハルトが入っている樽風呂の中に入ろうとし始める。
「何してるんだ」
「寒いハルト。風邪引く。寒い。寒い」
「あ、いやなんかごめん」
拒んでいたハルトだがシノが風邪になってしまうのは良くないと思い素直に受け入れることにした。
(いや…これどういう状況。なんでこんな事に)
「暖かい」
「そ、そうだな」
「そう言えばハルトの事、私あまり知らないから教えて」
シノは背中を近づける。そしてハルトの方を見て言った。
「あんまりこれは他の人に言わないでくれよ」
「うん」
「実は俺はこの世界の人間じゃないんだ。異世界から召喚されてここに来たんだ」
「なんで召喚されたの?」
「【ヒルアール王国】の偉い人が言ってたのは近いうちに来るかもしれない
「魔の災害……」
「魔の災害が何か知ってるのか?」
「うん」
シノはハルトの目を見てコクリと頷いた。
「魔の災害は
「
「そう」
「神なのに魔の災害って言われてるんだな」
「神なんて魔みたいなもの。それでハルト、続き」
「その後は特にないけどトロールに襲われて目を覚ましたらクラスのみんながいなくて……きっと見捨てられたんだ。そして戻っている途中にシノに出逢った」
「私登場」
「でも結果的にシノに出逢えて俺は救われた。ほんとにありがとう」
「……うん」
シノが下を向いているとハルトがシノの肩に手を置いて声をかける。
「シノ、耳とほっぺが赤いけどのぼせたか?」
「そ、そうかも」
「もうあがるか」
「……うん」
ハルトが先に上がろうとするとシノがそれより先に樽風呂から出た。タオルとかをつけていなかったので出た瞬間にシノの体が再びハルトの目に映る。
「せめて隠せ!!」
「わかった」
ハルトに言われてシノは手を使って隠す。
「両手使ってなんで顔を隠してるんだよ!! もっと違うところを隠せ!!!」
いつの間にか扉の下にタオルと着替えの服が置かれていた。シノとハルトが風呂でいちゃついている時にこっそりアリアが持ってきていたのである。それを使って体の水を拭き取ったシノは服を着て先に家の中へ戻っていった。
(好きな人を前にこんな事普通するもんなのか? もうよくわからん。体は大切にするもんじゃないのか…?)
その後ハルトはしばらく風呂から出てこなかった。
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