7.カーシス村で魔法特訓

「結構広いんだな」


 あれからしばらく歩いていた二人はようやく【カーシス村】についた。ハルトの想像していたひっそりとした村とは違い立派な畑もあればそれなりの家がいくつも建っていた。立地も何もかもが不便な位置にある【カーシス村】がこれほどなのはやはり王国の領内だからなのだろう。


「見ない顔の子達ね。どうしたの?」


 無計画で村に入ったハルト達がここからどうするかと考えるために止まっていると女性の村民が声をかけてきた。


「あ、実は旅? みたいな事をしててそれでここに来たんですけど」


「旅でここに来る人なんて珍しいわね」


 ハルトは【カーシス村】が【ロイゼン王国】との距離もそれほど近いとは言えない上に村の隣には魔物が生息すると言われている森も存在するためあまり人が来る事がないと馬車の男が独り言で話していた事を思い出す。

 

 そして旅人や冒険者が来ない最大の理由が……


「宿がない!?!?」


 人が来る事がないため必然的に宿がないのだ。なら宿を作れば人が来るんじゃないかと思われるが魔物の森がある村に来る馬鹿はそうそういないので宿を作るメリットがない。


「どうするか」


「野宿? ハルトと一緒ならいいよ」


「いや野宿はなぁ……」


 するとハルトの言葉を遮って村民の女性が話しかける。


「お熱い二人、気に入った。うちで泊まっていくといいよ」


(お熱い二人ってのが気になるけど)


「いいんですか? ありがとうございます」


「私はアリア。よろしくね」


「俺はハルトです。それでこっちがシノです」


「よろしくね。ハルト、シノ。それで家には馬鹿の荷物があったりするけど気にしないでね。邪魔だと思うけど」


(馬鹿……???)


 ハルトはアリアの最後の言葉が気になったがそこから余計な事に発展しそうな気がしたのでひとまず聞かないでおくことにした。そしてアリアが「ついてきて」と手で合図をしてハルト達を家まで案内をする。二階建ての木造の家に着き「どうぞどうぞ。入って」と言われハルトは軽く会釈しながら入る。荷物があって邪魔になるかもしれないと言っていたがそういう事もなく逆に平均よりも家具が整理されていた。


「寝るとこは一部屋なら空いてるけどそういう関係の二人ならそこで大丈夫よね」


「あ、いや俺達は別にそういう関係じゃなくて」


「もう夫婦」


「まだ違うだろ。変な事を言うなシノ」


「ふふ。仲がいいわね。それじゃあ部屋は二階上がって一番奥の部屋だから」 


 ハルトは礼を言って二階の奥の部屋へ向かうがシノは後ろで「まだ…まだ…まだ……うへ」とニヤニヤしながら呟いていた。きっと何かに目覚めたのだろう。チラっと後ろを見てしまったハルトはそんな事を思い見なかったことにする。


 部屋の扉を開けるとやはりここも空き部屋とは思えないほどに綺麗にされておりしっかりとベッドや家具まで置かれていた。一体どこに荷物があるというのだろうか。


(アリアさんは綺麗好きなのかな)


 ハルトは扉を開けたまま入口で部屋を見渡していると後ろからシノがぶつかってきた。シノは「痛っ」と言ってハルトの背中に抱きつく。


「痛いって言ったのになんで抱きつくんだよ」


「ぎゅーの誓約」


「どんな誓約だよ」


 抱きついているシノをなんとか剥がしたあと一通り部屋を見たハルトは部屋を出て一階に降りた。遅れてシノも階段をスタスタと駆け降りてくる。


「ハルト、特訓する?」


「あぁ! 頼む!」


 ハルトは少し外を見てきますとアリアに告げシノと一緒に家を出た。どこで特訓をするのかとハルトが疑問に思っているとシノは森の方へと向かい出した。


「なんか気味悪くないか? この森」


「魔物がいっぱい居る森だから」


「魔物で特訓するってことか」


「そう」


 少し歩いた所でシノは止まりハルトの顔を見る。


「ハルトはまだ炎の魔法しか使えない。愛してくれないから愛してくれないから」


「それはごめん」


「でも魔法は魔法ってだけで強い。多分能力スキルより強い」


「そんなになのか」


「うん。魔法は可能性が無限大だから。それでハルトが愛してくれるまでは炎を特訓する」


「ありがとう」


「まずは見てて」


 シノがそう言うと奥の方にいるゴブリンの集団に対して指を向ける。


「行くよ。スーパーファイアレーザー」


 スーパーレーザーファイアーはスーパーでファイアなレーザーである。それを放つとゴブリンの集団に対してとてつもない速さで炎の光線が一直線に飛んでいき大爆発を起こした。ゴブリンの姿はもうなかった。


「なんだ今の名前は」


「てきとう。ハルトもやってみるといいよ」


「わかった」


「じゃあ今の魔法を打ってみて」


 ハルトは別のゴブリンの集団に指を向ける。


「スーパーファイアレーザー!」


 するとシノよりは威力が劣ってはいたがそれなりの速さで炎の光線が一直線に進んでいきゴブリンの集団がいるところで大爆発を起こした。


「魔法は創造。愛の誓約が本気を出せばもっと凄い事が出来る」


「これだけでも十分な気がしてきたな」


「全然。十分じゃない。全然。十分じゃない」


「二回言う必要あったか?」


「大事な事だから二回言った」


 二人は他愛もないやりとりをしながらゴブリンの死体があるところに歩いていった。ゴブリンは炎によってこんがり焼かれている。匂いはそこまで良くないが食べれなくはなさそうだ。だがゴブリンは基本的に不衛生な生き物なので食べれはきっとお腹を壊すだろう。


「てかおい。木が燃えてるぞ」


「当たり前。森で炎使ったから」


「なんで使わしたんだよ」


「消えるから大丈夫」


 ゆったりしている二人だが火は少しずつ他の木へと広がっていた。このまま放置していれば木造建築の建物ばかりの【カーシス村】に到達することになる。そうなればとんでもない大惨事になってしまう。広がってしまっている火をどうやって消すべきかとハルトが疑問に思っているとシノは空に対して指を向ける。ハルトは何をしているんだとポカンとしているとシノが何かを言い出した。


「特大水かけ」


「????」


 その瞬間上空から大量の水が一気に落ちてくる。水は途中で広範囲に拡散しながら下に落ちた事で広がっていた火を完全に消すことに成功した。


「おい。なんで俺にまでかけた」


「滝修行?」


「何が滝修行だァァァ!!!!」


 火を消す代償に二人はびしょびしょになってしまった。




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