6.明るい朝

 宿を出た二人はこれからどうするのかを歩きながら話し合っていた。


「どうするハルト?」


「そうだな。魔法の訓練とかやってみたいかな」


「いいね。ハルトが私に追いつけば最強」


「でもこんな所に魔法を練習出来るところなんてないしな」


 歩いているとシノはいきなりハルトの事を引っ張り建物の物陰に隠れた。一体何事かとシノに問うと変なやつらがいると言ったきりそのままハルトに体を寄せ動かなかった。変なやつらがいるというのに気になったハルトは物陰から少し顔を出し周りの様子を確認した。すると奥の建物の上にロングマントを着てフードで顔を隠した者達が三人ほど辺りをキョロキョロしながら移動していた。


(もしかしてあれがシノの言っていた変なやつらなのか? つまり奴らがここに来ているということはシノが居ることがバレているってことか。ならもうこの国にはいられないな)


「シノ、この国って馬車はあるのか?」


「……ある。でも何するの?」


「この国を出よう」


「わかった。ハルトが一緒ならどこまでも」


 奴らが別の場所に行ったのを確認したハルトはシノの手を掴み馬車を探しに走り出した。しばらく走っていると馬車を見つける。あれに乗ろうと言って向かおうとした時、その馬車の近くに和希が現れた。

 

(なんでこんな時にあいつがあそこにいるんだよ。早くどけ)


 だが最悪な事に和希は馬車の近くで取り巻きの孝汰こうたと話し始めた。しかし最悪な出来事はそれだけでは留まらず後ろからハルト達の方に先程の奴らが建物の上を走ってやってきていた。


(もしかしてバレたのか?)


 ハルトはまだバレていないことを信じ再び近くの建物に身を隠した。だが奴らはすぐそこまで迫ってきていた。

 

(こんな所でシノを捕まらせるわけにはいかない。なら……。一か八かだ)


 ハルトは奴らから見えないように体でシノを隠し馬車へ近づいていく。そして和希達のいる反対側から馬車に乗り込んだ。


「ここから一番近い国はどこですか?」


「国だと結構時間かかっちまうけど。【カーシス村】ならそこまで時間がかからんぞ」


「じゃあそこでお願いします」


「んじゃ行くぞ」


 和希が馬車の事を見ていたがなんとかハルト達は【ヒルアール王国】の中心の街から抜け出すことに成功した。いきなり色々の事があり疲れ切ったハルトは馬車の中でぐてっとなる。そんなハルトにシノは休憩を邪魔するようにくっつく。


「どうしたんだ」


「ありがと」


「あれは俺の為にしただけだ。気にするな」


「……好き」


 馬車は想像以上に速いものでもう【ヒルアール王国】を出ていた。移動している間にハルトが御者と会話をしていて分かったのだがどうやら【カーシス村】は【ロイゼン王国】という王国の領地にある村だそうだ。【カーシス村】以外にも【ロイゼン王国】の領内には多くの村があるらしい。


「ハルト寝て」


「なんでだよ」


「寝ないと力戻らないから」


「わかったよ」


 シノがどうしたいのかはわからないがハルトは言われた通りに目を瞑り寝るフリをした。しかしどうやら朝から色々な事で疲れたせいなのかハルトは目を瞑ってからしばらくして本当に眠りについてしまった。



@@



 数時間ほどしてハルトはようやく目を覚ました。


(まさか本当に寝てしまうとは。何やってんだ)


「そう言えば馬車に乗る時随分急いでたけど今も急いだ方がいいのか?」


「あ、大丈夫です」


「そうか。ならこのまま安全運転で行くぞ」


 だが安全運転はあっけなく終わってしまった。馬車はガタガタと揺れ不快な音を鳴らしていた。御者は一度馬車を止め確認をしてみたところどうやら車輪が外れてしまっていたようだ。


「悪いな二人共。でもここからちょっと歩けば【カーシス村】だから行ってくれ。俺はここで車輪を治しとく」


「わかりました。ありがとうございます」


 シノはコートの中から硬貨の入った袋を取り出しその中から銅硬貨を数枚取り男に渡した。


「まいど」


 それじゃあ行くかとなった時いきなり二人の後ろから足音が聞こえてきた。何者かと二人が振り返るとそこには三人のロングマントを着た奴らが立っていたのだ。ハルトはシノを守るために前に立ち姿が見えないようにする。御者の男は慌てて馬車に身を隠した。


「何者だ」


「我々はこの世を支配する九神エニアグラムの仲間だ」


「その魔女を渡せ」


「さもなければお前も殺すぞ」


「渡さない」


 ハルトは三人の脅しに屈することなくそう言い切った。


(フードで顔は見えないが声的に男か。てかなんでまだ明るいのにあんなに黒いの着てるんだ? 意味ないだろ)


「その言葉、後悔させてやろう」


「後悔」


「後悔」


 二人の男が剣を持ちハルトに向かって走っていく。

 

「ハルト任せて」


 シノはハルトの後ろから姿を現すと向かってくる男達に向けて指を指した。その時もう一人の男が能力スキルを発動し始める。


(あいつ能力スキル持ちなのか。ならあっちは俺が…)


 だがハルトが指を指す前にシノが魔法を放つ。大きな火の弾は三人の男達を飲み込みそのまま奥に飛ばされていく。そしてシノが「ばん」というとその大きな火の弾は途中で大爆発を起こした。ハルトと馬車の男の人は爆風に必死に耐えなんとか遥か彼方に飛ばされずに済んだ。


「やりすぎだろ」


「これくらい当たり前」


「ちょっとくらい加減しないと俺達まで巻き込まれるところだったぞ」


 ハルトがシノに強く言うと「その時は」と言ってシノは指で唇を触った。呆れきったハルトはシノの行動を完全に無視して馬車の男に話しかけた。


「今あった事は内密でお願いします」


「あぁ、わかったよ。絶対にバラさない。バラしたら殺されそうだしな。それよりお前達は早く行けよ!」


 二人は馬車の男に礼を言って【カーシス村】へと歩き出した。


「そう言えばシノって炎しか使えないのか?」


「ん? 炎以外も使える」


「でも俺は使えないぞ」


「愛の誓約でどーたらこーたらで結構難しい」


「????」


 シノが言っているどーたらこーたらをまとめるこういうことらしい。

 愛の誓約、それは遥か昔から行われていた儀式的なものでそれを行うと多くの事が可能になるが魔法に関してはかつての男もハルトと同様に一つしか扱う事が出来なかった。それの原因として確かな情報かはわからないが魔女に伝わる話では愛の誓約の本領を発揮するには愛し合う事が条件だそうだ。だがかつての魔女は世界に生きる多くの人間から化け物だ、人間ではないと忌み嫌われ迫害をされてきたがその中で魔女達は子を残すために愛の誓約を人間と行ってきた。しかし嫌われる者を好きになる者は現れるはずがなくどれだけ魔女が愛しても愛し合う事は出来なかったそうだ。


 つまりハルトが完全に力を引き出したいのならシノと愛し合わなければならないということになる。


「俺がシノに愛されてるだけじゃだめってことか」


「そう。愛し合わないと。ハルトは愛してくれてないから使えない」


「あ、いや。物事には順番があるしな」


 シノは愛してくれないハルトに対して軽くパンチをした。しかし高校生のハルトには愛という感情がわからずどうすればいいんだと困惑した様子だった。


「それにまだ愛って段階にたどり着けてないだけで近いかもしれないぞ」


 その言葉でシノは機嫌が治ったのかハルトの手を握りルンルンと歩く。その頃ハルトは愛とは何なのかという人生の大きな壁に激突したのだった。




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