5.一つ屋根の下で二人、一つベッドの上で二人

 しばらく歩いていたハルトとシノはどうにか宿を見つける事ができ二階の一部屋を借りることができた。転移初日に案内された部屋とは比べ物にならないほどに質素な部屋だが文句を言っていては生きてはいけないと思いハルトは我慢した。


「本当に俺と同じ部屋で良かったのか?」


「うん」


「そ、そうか」


 女の子と同じ部屋で泊まるということに耐性のないハルトはソワソワしながら剣を壁にたてかけベッドに座った。その時小さい音だがハルトのお腹がなった。


「腹減ったな」


「買っといた」


「いつの間に!!?」


 シノはコートの中から袋に入れられた食べ物を取り出し机の上に並べた。どれも元の世界ではないようなものだがどことなく似ているものもあった。


(これどう見ても忙しい人の味方の冷凍食品じゃねぇか)


「これ食べれるのか?」


「見てて」


 シノは机に置いた食品を手に取りそれを上に投げる。落下する食品に向かってシノは指を指した。その瞬間宙で食品は炎に包まれた。そして食品はそのまま落下してきたのでシノがそれを受け止めようとしたが想像以上に熱く弾き返してしまった。しかし奇跡的に食品は机の上に乗っかった。


 机に置かれた食品を見て絶対焦げ焦げになってるだろうと思いながらもシノに「開けてみて」と言われ恐る恐る開封してみると中からモワっと暖かい蒸気が出てくる。そしてその袋の中を見てみると焦げておらずしっかりと料理として完成していた。


「凄いな。これ!」


「食べて食べて」


「わかった」


 しかしここでハルトはある重要なことに気づく。それは箸かスプーンか他の何か。それがなければこの熱々なものを食べる事は出来ない。


「これどうやって……」


 聞こうとした瞬間シノはコートの中から一つのスプーンを取り出しハルトに見せる。


「なんでコートに入ってんだ!?」


 シノのコートの中がどうなってるのか疑問に思いながらもハルトはスプーンを受け取り袋の中に突っ込んだ。そしてスプーンでよそって口に運ぶ。


(これってもしかしてチャーハンか?! 全然元の世界のチャーハンとは似ても似つかないけど味はほぼ一緒だ)


 ハルトは久しぶりに元の世界の食べ物の味を感じて満足そうな顔を浮かべた。それを見てシノは微笑んでいた。


「シノも食べないのか?」


「あーん」


 シノは口を開けてハルトに食べさせてと目で語りかけていた。年頃のハルトに対してはあまりにも刺激的な行動だった為変な気持ちが一瞬通ったがただ妹に飯をあげてやっているという心構えにすぐさま切り替えスプーンをシノの口に近づける。スプーンを口を入れたシノはそのままスーッと唇をスプーンに付けながら後ろに動かした。


「美味しい。ありがとハルト」


「あ、あぁ」


 ハルトはシノの咥えたスプーンを眺めていた。


「どうしたの?」


「あ、い、いやなんでもない」


 妹に飯をあげたあとにそのまま自分がまた食べているだけという設定にしてハルトは再び食べだしたがそれでも耐えきれず頬が赤くなっていた。その様子を見てシノはまたもや微笑んだ。

 


@@



 食事を楽しんだ二人はそろそろ寝ようとしていた。


「ベッドが一つしかないから俺は椅子で寝るよ」


「ベッドは一つに対して二人で寝るのが常識」


「そんな常識あってたまるか!!」


「良いから」


「はいはい。わかったわかった」


 シノとハルトは着ていたコートを脱いで椅子にかけたあと二人でベッドに横になる。その状況にハルトは無でいられるわけがなく再び妹設定を発動する。しかしこれに関しては効果が全くもってないようで心臓がドクンドクンと激しくなっていった。


「ハルト、どうしたの?」


「な、何がだ?」


「だってこれから寝るのにぎゅーしてこないから」


「なんでそんな事するんだ」


「寝る時にぎゅーってするんじゃないの」


「いやまぁ、例外はあるが基本的にはそんな事はしないだろ」


「私達は例外」


「例内」


「例外」


「例内」


 激しい攻防を繰り広げた末にハルトは敗北しシノに抱きつかれた。ハルトは何故か少しばかり腰を引いた。理由はわからないが何かあったのだろう。


「おやすみ」


「あ、あぁ。おやすみ」


 そして二人は目を閉じ眠りにつく。



@@



 ハルトはどこからともなく聞こえてくる喘ぎ声を聞き目を覚ました。何か手に柔らかいぷにぷにとした感覚を感じる事に気づく。


(このスベスベはなんだ)


 気になったハルトは手を動かすと目を覚ました時に聞こえた喘ぎ声が再び聞こえてきた。まさか…!! と思い横を見ると案の定手がシノの胸に乗っかっていた。


「……んっ……んぁっ」


「!?」


「……ん?」


「なんでお前は裸なんだ!!!」


「……ハルトのえっち」


「いや俺なにもしてないだろ。あとそろそろ手を離してくれ」


「わかった。続きはまた今度」


 シノが手を離すとハルトは顔を赤らめて急いでベッドから出た。そして使っていた布団をシノに被せた。これはハルトの理性を守るのに必要な対処である。そして今日もハルトの理性は無事守られたのであった。


(シノ……完全に壁かと思ってたけどちょっとはあるんだなぁ……。いや俺変態か!?)


「……おはよう、ハルト」


 シノは布団を片手で持っていたせいで完全に体が隠れておらず肌が露出していた。しかしシノはそんな事を気にせずもう片方の手で目を擦る。


(布団のせいで完全全裸の時より魅力的になってしまったんだが!!??)


 ハルトは布団をとっさに投げた自分に感謝しながら心の中で叫んだ。


「ん……んん」


 シノは布団をどかしてベッドから出た。それに気づいたハルトはとてつもない速さでコートを取って着ながら窓の方を見た。


「今着替えるから待ってて」


「あ、あぁわかった」


 少しばかりの後悔を残しハルトが窓を見ているとそこにはシノの着替えている姿が映っていた。きっと真の男を貫いたハルトに対しての神からの褒美なのだろう。ハルトはちらちらとその窓を見ていた。するとその時シノがハルトの方を見ているのが窓に映った。それに気づいたハルトは窓ではなく近くにあった椅子を眺め始める。


「す、凄い良い椅子だなー。家に欲しい。うん」


「窓に何か見えた?」


「あ、そ、そうだな。景色がき、綺麗だなー。あはは。あは……。何も見てないぞ」


「そう? 着替え終わったから出よ」


「そうだな」


 バレずに済んだのかはわからないがとりあえずハルトは剣を取って着替え終えたシノと一緒に部屋を出たのだった。



**

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