4.お買い物しよ
「ハルト、まずはお買い物しよ」
「買い物?」
「ハルト、そのままだと服が変だから私が買ってあげる」
「……変?」
優しさの中に組み込まれた悪口に軽く傷ついてしまうハルト。だがそれが冗談だという事をなんとなく理解しているハルトは会話を続ける。
「シノ、それでどこに買いに行くんだ?」
「この森を抜けた先にある【ヒルアール王国】」
「そ、そうか」
ハルトは【ヒルアール王国】という名を聞いて浮かない顔をした。それもそのはず。【ヒルアール王国】はハルト達が転移してきた国だからである。
「ここ」
「……」
しばらく森を歩き【ヒルアール王国】に到着した。しかしあまり元気のないハルトを見てシノが腕に抱きついて「どうしたの?」と聞いた。
ハルトは張りのない声で答える。
「この国に俺を見放したやつらがいるんだ」
「大丈夫。私が倒すから」
「いやそこまでしなくてもいいんだけど。出来るだけバレたくはないというか……」
「わかった。その為にも早く買いに行こ」
「あぁ。ありがとう」
シノはハルトの腕に抱きついたまま【ヒルアール王国】の街を歩き始める。ハルトは皆がいないかキョロキョロしながら確認していると最初のシノとの会話を思い出し気になる事を聞いてみた。
「そう言えばシノは変なやつに追いかけられてたって言ってたけどどうしてなんだ? やっぱり魔女である事が関係してたりするのか?」
「そう。変な奴らは多分私が最後の魔女だから狙ってきてる」
「なら尚更こんなに堂々と街に出てきて良いのか?」
「大丈夫。もうハルトがいる」
「そ、そうだな。一人より二人の方が安全だもんな」
会話をしているとシノの目当てのお店に辿り着き二人は中に入っていった。
「ハルト、ここで待ってて」
「わかった」
シノはスタスタと小走りに店の奥に走っていった。その間もハルトは店の窓から外を眺め警戒をしていた。
「ハルト、お待たせ。これ着てみて」
シノはハルトのサイズに合う白いコートを持ってきてそう言った。ハルトはその白いコートを受け取ると早速羽織る。
「どう?」
「いい感じだな」
シノが選んだ白いコートをハルトはすっかり気に入ったようだった。買ってくるからと言ってハルトにコートを脱がせシノは店の人がいるところへスタスタと小走りで向かった。
(シノって良い女の子だな……)
「ハルト、買ってきた」
戻ってきたシノの手には明らかにコート以外のものがあったがハルトは買ってくれているのにあれやこれやと文句を言うのは野暮だと思い触れないでおいた。
「着させてあげる」
そう言ってシノはハルトの後ろに行きコートを広げる。右腕左腕と順番に袖を通し羽織らせてくれるのかと思いきやハルトの着ていた服とズボンを脱がせ買ってきたコートに似合う服をハルトに着させる。その時間わずか一秒ほど。
「はやッ!?」
脱がせたハルトの服をコートの中にしまったシノは汗を拭うフリをした。そして新調された服の上からようやくハルトにコートを羽織らせる。
「かっこいい」
「そ、そうか? ありがとな」
「うん」
シノは再びハルトの前に戻ってきて「んっんっ」と言い自分の着ているコートを引っ張って何かをアピールしていた。ハルトはそれに気づき何をしているのかとしばらく考えたあとにひらめいたのか自信満々に
「もしかしてシノのコートは結構高いやつなのか!」
と言った。
「………」
まるで鈍感主人公の様な回答をしたハルトにシノは呆れて喋らなかった。本来なら呆れてどこかに行ってしまうかもしれないが何故かハルト一途のシノは最後にほぼ答えのようなヒントを与える。「これとそれ」と言ってシノは自身のコートを指で指したあとにハルトの白いコートを指した。ようやく答えに気づいたハルトははっとなる。
「もしかしてシノと同じコートってことか?」
「そう。ハルトとお揃い」
シノはハルトが正解してくれたことで満足したのか少しばかり微笑んだ。その頃のハルトはヤベェー間違いをしてしまったと内心焦りながらシノと一緒に店を出た。
「それで次はどうするんだ?」
「ハルトは何か武器を使ってた?」
「まぁ一応、剣は使ってたな。投げて」
それを聞いたシノはハルトの手を握ってどこかへと向かい始めた。一方ハルトは外に出てからも再びクラスメイト警戒モードを発動していた。異様にクラスメイトを警戒しているハルトだが実際のところ実は誰かが探していて見つけてくれる事を期待しているのだ。だがその期待通りになるはずもなく未だにクラスメイトを見かけた回数はゼロである。
「ハルト、ここ」
ハルトを引っ張って連れてきた場所はどうやら武器や収納バッグなどこれから異世界で生きていくハルトにとってうってつけの店だった。だがそろそろハルトは出会って間もないシノに何かを買ってもらう事に申し訳なくなっていた。
「好きなの選んで。私も探す」
シノはそう言って剣が束になってしまわれている樽を漁り始める。ハルトは見慣れないものがたくさんあり少しばかりワクワクしながら店内を見回る。するとハルトはひとつの日記帳の様な物が気になりそれを手に取る。
(手記か。この世界の事を記録するのも暇つぶしになって良いかもしれないな)
ハルトはひたすらペラペラの繰り返しめくっているとシノが一つの剣を持ってやってきた。
「この剣はどう?」
ハルトはその剣を受け取り手記を持ったまま鞘から取り出す。一見普通の剣の様に見えるがハルトには何かを感じたようでこれにしよう! と鞘に戻して即決した。
「買ってくる。それも」
シノはハルトの持っていた手記を見ていった。どうやら先程からハルトが手記ばかりを見ているのに気づいていたようだ。
「いいのか?」
「うん。私とハルトの思い出を書こ」
「そうだな」
ハルトはシノに手記を渡す。そして剣と手記を持ったシノは店の人の元へ向かった。
しばらくしてシノは戻ってきた。
「はい、これ」
「何から何までありがとな」
「お安い御用。困ったら私に言って」
「そうするよ」
「次は宿探しに行こ」
そう言って宿を探しに行くために剣をしまい店を出た。外は少しずつ日が落ち暗くなり始めていた。その頃には見捨てた者達の存在を少しだけ気にしなくなっていた。
そしてハルトはシノに腕に抱きつかれながら夕暮れの道を歩いていったのだった。
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