第2話




どこからか泣き声がする。イェルバは黒髪をなびかせて、声のするほうへ駆けていく。

声は、祭壇からしていた。何百代も前の長の、代替わりの灰が祀られている。

遠目から見る石の祭壇は変わらずに、炎の膜で覆われている。

ただ、祭壇の上でなにか動いた。

前長の代替わりだ。イェルバは確信する。父だ。ついに会えると思った。

春だった。芽吹いた森を飛ぶように駆けていき、すぐに祭壇に辿り着く。光る炎の膜に触れると、頂点から消えていく。

赤子がいる。ただ、肌の色がずいぶん薄い。

閉じていたまぶたが開かれる。瞳は、彼らの黄金ではなく、薄い新緑の色だった。

イェルバはつい赤子に触る。ふくよかな手のひらに触れた。途端、赤子は目を見開いて、黙る。イェルバは手を赤子の腹のあたりににかざす。子は、微笑む。

人の子だ。イェルバは驚き、後退りをし、木の根につまづき尻餅をつく。

起き上がり、また恐る恐る近づき、右の指先から炎を灯す。子は、声を上げて笑う。

涙が出るなら、このような日なのだろう。イェルバはそう思う。

肩から掛けた生布をほどいて、イェルバは赤子を包む。祭壇にまた膜をかけた。灰はまだ、残っていた。

彼らの神は、まだ眠っている。






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焔の民 フカ @ivyivory

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