第14話 駒井舞音の過剰労力 その2
ここまで情報収集に徹していた
きちんと探せば、リーズナブルかつ自身に似合う洋服は、いくらでも見つけることができた。その事実に気づいた途端、脳裏に蘇るのは
『私は何も、高級な服を着ろと申し上げているわけではございません』
まさに、彼の助言通りというわけである。何だか彼にいいように踊らされている気がしなくもない舞音だったが、たとえ自分があの男の手のひらの上であろうが構わないとも思っていた。それは、彼女の異常とも言えるほどのショーウィンドウ席に対する執着心も理由の一つだったが、それだけではない。
舞音は、鏡に映る自分が日に日に可憐になるのを見て、外見を磨くことが楽しくなってきたのである。
よって舞音がこのタイミングで、あまり力を入れてこなったメイク道具も揃え始めたのは自然な流れであった。パーソナルカラーに合わせて、ピンク系やブルー系の色合いのアイテムを中心に購入していく。こちらも狙ったのはプチプラブランドの商品だ。いきなりデパートのコスメは敷居が高い。
購入したさまざまなコスメを使って、舞音は化粧を付けては落とし、付けては落とし、夜な夜なメイクの練習を積んだ。初めの頃は、アイラインなど難しくて引けるかと苛立っていた彼女も、二ヶ月も経過する頃には、自然なメイクができるようになっていた。
さらに、舞音は髪色にも興味を持ち始めた。今さら驚くことではないかもしれないが、一度興味を持ったときの彼女の行動力は凄まじい。舞音は美容院に足繁く通い、さまざまな髪色を試した。髪が少々傷むのにも構わず、何度も染め直しを要求する彼女は、美容師たちを戦慄させた。
しかし、染毛剤でパサついた髪を放置するのは、舞音にとっても本意ではない。彼女は件のファッションアプリで話題沸騰中の、髪質改善用ヘアミルクを購入した。届いたその日から、彼女は付属の説明冊子を丸暗記するほど読み込み、手順通りにミルクを髪に塗りこんでいく。数日後、その効果がよほど気に入ったのか、彼女の手元には同じブランドの洗顔料、化粧水、乳液も並んでいた。
・・・・・・とまあ、このように、彼女は己の外見を磨き上げるために、全精力を傾けた。当然、出費がかさんでくるので、バイトのシフトも長くなる。結果、出勤するたびに垢抜けていく舞音を見て、バイト仲間の間では「気になる人でもできたのでは?」とあらぬ噂が立つこととなった。
◇ ◇ ◇
そして、半年後。
舞音は再びCafe Boutiqueの扉を開けた。
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