第10話 結果発表

 Cafe Boutiqueのケーキセットは、今日も絶品だった。舞音まねが特訓のために専門店で揃えた茶葉や、お気に入りのケーキ屋のタルトも、確かに美味ではある。しかしこのカフェで楽しめる魅惑の味わいには、どちらも遠く及ばない。会計のためにレジ前に立つ舞音は、表示された支払金額に感謝した。


 もし、メニューがこれほど高額でなければ、彼女は今頃、毎日でもCafe Boutiqueに通い詰めていただろう。そんなことになれば、彼女のウエストサイズは瞬く間に大きくなり、無限大への発散を遂げるに違いない。


 舞音は痛む懐を思いながらも、そのささやかな感謝の念によって、ため息はグッとこらえた。



 ◇ ◇ ◇



 さて支払いの済んだタイミングで、またもや柘植つげが姿を現した。


、ごゆっくりお楽しみいただけたようですね」


 彼はこの上なく愛想の良い態度で、舞音にちくりと嫌味を刺す。これは、うっかり出てしまった失言ではない。明らかに故意である。そう判断した彼女の頬が、思わずぴくりと引き攣る。


 二回目にしてようやく、舞音にもこの男の性格が掴めてきた。彼はきっと、ショーウィンドウ席に座りたくて必死になっている舞音を、からかって愉しんでいるのだ。


 しかし彼女とて、こんな安っぽい挑発に乗るほど子供ではない。ケーキを完璧に食べ切ったこともあり、心に余裕があった舞音は、お淑やかに微笑んでみせた。


「はい。とても美味しかったです。おかげさまで、素敵な休日になりました」

「恐縮でございます」

 

 柘植は穏やかに返した。彼の手がそのまま、扉へと伸びる。カランとベルを鳴らしながら、出口が開いた。


「本日はありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 舞音はお辞儀をして、一度は背を向ける。しかし、どうしても気になることがあり、思い切って柘植を振り返った。彼女は期待のこもった視線で尋ねる。


「あの。私、次こそはショーウィンドウ席に、案内していただけますよね?」


 彼女はこのとき、当然のように肯定の返事がもらえると思っていた。だからこそ、その予測を確信に変えるため、わざわざ踏みとどまったのである。


 しかし柘植は、さも申し訳なさそうに目を伏せると、首を振った。


「いいえ。残念ながら、駒井様はまだその段階にいらっしゃらないようにお見受いたしました」

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