幕間:町田利一少年の回顧録―もう一人の姉について―

物心ついた頃の話ではあるが

当時の俺は自分には姉が二人居ると思っていた。


そのもう一人の…髪が長い方の姉は

夕方頃に現れて日が落ちると居なくなるので

その頃は俺と姉にしか見えない何かだと本気で思っていた気がする。


髪が長い方の姉が実姉である花恋かれんの親友であり

近所に住んでる照山楓てるやまかえでちゃんであると知るのは

もう少し大きくなってからだった。


楓ちゃんは何というか…幼い頃の俺から見ても大人しい子で

ガキ大将というか戦隊モノの主人公みたいな性格の花恋

どうやって仲良くなれたのか解らんくらいには正反対な人だった。


姉と一緒に居ると多少テンションは上がる感じがするものの

基本的には物静かな…隅っこで本を読んでいる様な人という印象で

姉も楓ちゃんと居る時は大人しい(当社比)ので

母からも好かれていた事を覚えている。


そんな楓ちゃんだが別に姉の完全賛同者イエスマンでもないので

意見が違えたりなんかあったりしたら―主に口でだが―喧嘩する事もあった

その時の言葉の応酬

―姉をマシンガンとするならば楓ちゃんはスナイパーライフル―

は傍から見ればじゃれ合ってる様にも見えて

この二人は本当に対等な友達なんだなと幼心に思ったものだ。


…まあ対等故か楓ちゃんも俺に対して姉の如く振る舞うので

俺が小学校に上がる頃には二人の姉にすっかり頭が上がらなくなってしまったが。


―そこまでの無茶振りはされた事は無いものの、姉とタッグを組んで花恋でやる気を出させる手口はちょっと卑怯だったと思います。―


まあそんな感じで、この関係は大きくなってもなんだかんだ続いて行くんだろうなと

漠然と考えていた10歳の春頃の事だ



姉、花恋が死んだ


姉に過失などは一切無い、


居眠り運転の車が信号待ちの姉に突っ込んで来た事故死だった…らしい。



父と母の憔悴した顔は覚えてるものの俺が当時どんな感じだったのかは覚えていない

唯々泣いていた事だけは覚えているし、何より


無言の帰宅をした姉の前で取り乱し泣き叫ぶ楓ちゃんの姿が脳裏に焼き付いている


俺は恐らく一生忘れないだろう、あの日の楓ちゃんの姿を…



姉の葬式が終わった後、楓ちゃんはうちに来なくなった

当然だろう来た所で姉はもう居ないのだ

その時になって、俺は近所にあるという楓ちゃんの家も知らないのだと気づいた。

姉と一緒に繋がりが消えてしまったのだと、気づいた。


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それから6年程が経過して高校生になった頃、あるニュースが飛び込んで来た


『MMORPG「エクセレントリビア」10年の歴史に幕』


まあそういう噂は聞いていたし

ログインした時に見かけるプレイヤーの数が

明らかに減っているのも認識していた為

そろそろだとは思っていた。


あの日以来、姉達がやっていたゲームに定期的にログインするのが日課になっていた

姉達の姿でも無意識に探していたのだろうか?我ながら女々しい事この上ない。


そんな事をしようがカレンは勝手に動き出したりしないし

操作を明け渡したのに口出ししてくる姉も隣に居ないし

携帯端末から聞こえて来るもう一人の姉の声もしないというのに。


この数年で何度も反芻した事を考えながら日課のログインをした時だ


▶モミジがログインしています


「へ?」


居る居た

黒髪のポニーテールの長身の女性アバター

装備しているのは武者鎧と言い張ってはいるが

それが色を変えただけの騎士鎧だと俺は知っている

それが楓ちゃんのアバターだと俺は覚えている。


▶カレン:楓ちゃん…?


無意識に打ち込んだ文字個別チャットが相手に届いたかどうかのタイミングで

モミジが消えた、実にあっさりと消えた…ただ


▶モミジがログアウトしました


残った通知が、彼女がここに居た事を如実に物語っていた。


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翌朝、昨日の事はひょっとして夢だったのではと思いつつだらけていると

家のチャイムが鳴った、母は手が離せないという事で俺が出る


「はい、どちら様でしょうか?」


居たのは小柄な女性だった

ただ、どこかで見た様な気がする誰だったか…


「やあ…」


その言葉と声で記憶の中にある姿と結び付いた

記憶の中にあるよりは大人びていて

髪も短くはなっているが、その声と眼差しは

昔と一切変わっていなかった…彼女は……


「え?あ…!?」


楓ちゃんだった。


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その日の夜、俺の携帯端末には楓ちゃんのアドレスが映っていた。

それを見てにやついてる俺は相当に気持ち悪かったに違いない。


一緒にゲームをやる約束をした

やるゲームは当然「エクセレントリビア」

あと半年でサ終する思い出のゲームで楓ちゃんとまた遊べるのだ


俺は降ってわいたような奇跡に感謝しつつ

これから歩む前途に思いを馳せていた。

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