第5話:結成―今更オンライン―

エクセレントリビアにはゲーム内で稼げる通貨を用いて

プレイヤーの拠点―正確に言うと専用エリアにある土地―を購入する事が出来る。


これが中々に凝れるモノで、外見から家具の配置

果てはやろうと思えば庭園まで造れるという

無駄に(褒め言葉)拘りのあるシステムであった。


まあ楓と花恋が購入した拠点は少し広い程度の土地であり

二人とも途中で拠点の装飾に飽きたのもあって

最終的には無料宿屋と倉庫に成り果てたモノであるが…


―それでも一定期間ログインしないと引退したとみなされて土地を買った代金を払い戻しの上で没収される為に半ば諦めていたものの、トシが定期的にログインしていたお陰で払い戻しの対象にならなかったのは楓にとっては嬉しい誤算であった―


そんな思い出の詰まったと辛うじて言えなくも無い拠点に

KIYOSHIと凪を招いたモミジ利一カレン

早速今後の冒険遊びの打ち合わせを始める事にした。


…とはいえ決める事などログインの日付と時間を合わせるくらいなので

割と―文字を打ち込む手間を除いて―その辺はスムーズに決まったのだが…


▶モミジ:という事でフレンド登録をしてもらおうと思いますが


▶モミジ:このままグループにも入りませんか?


エクセレントリビアにおいて特定メンバーで快適なオンラインプレイをする為に

フレンド登録をするのは必須と言っても良いものであるが


―フレンドがログインした若しくはしていたら通知が来る機能がある為、因みにグループというのは拠点を中心としたプレイヤーコミュニティを指す言葉である―


ではグループの利点とは何かと言うと

にある。

…より正確に言うなればグループ内拠点に存在する倉庫ストレージから

武器防具含むアイテムを取り出して装備、使用する事が可能という事である。


―フレンドであるだけでは武器防具等の装備品の受け渡しは不可である為、なおリアルマネートレード対策として取り出したアイテムは消費アイテム等の一部を除いて同グループ内メンバー以外への売却と受け渡しが不可になる仕様である―


つまり何がやりたいのかというと普通に見れるプレイヤーの情報プロフィールを見る限り

ベテランのサブアカウントでもなさそうなKIYOSHIと凪に

使わずに死蔵していた装備群を使わせて戦力の底上げを図るつもりなのだ


―とはいえ本人達の気持ちは聞かないとならないし、そういう下駄を履かせる事を嫌う人も居るので恐る恐る提案した事をここに追記しておく―


結果、グループに入る事には割と快く了承の意を得られた訳で……


▶KIYOSHI:本当に良いんですかこれ?


▶モミジ:そこにあるという事は使ってないという事なので大丈夫です


そもそもレアで強い装備だったとしても半年後にはサ終で消えて無くなるのだ

ならば日の目を見させるのも悪くは無いだろう

……レアだからという理由で勿体無い精神を患い店に売れず

倉庫に突っ込んで忘れ去った物が大半で本当に使ってなかった物でもあるし。


------------------------------------------------------------------------------------------


しばしの時間を経て二人の装備の新調が完了した。


KIYOSHIはまた金属兜フルフェイス全身鎧フルプレートを選んだので印象はさほど変わらないが

凪の方は割と化けた…茶髪のショートボブなデフォ子は元から可愛い方であり

どんな装備しても映えるというのを差し引いても凪は中々にセンスがあると思う。


地味な皮鎧一式ほぼ初期装備だった姿は一変、オシャレな服とスカートに身を包み

それを要所要所を守る部分鎧ポイントアーマーが良いアクセントとなり引き立てている

その調和を決定的にするのは背負った煌びやかな実は店売りであろう…

公式NPCヒロインですと言っても通じるくらいの美少女狩人がそこに居た。


「…あの服って確か可愛いと噂で聞いたとかでドロップ粘って入手したけど、ローブ貫通するわ武者鎧には合わないわでキレて倉庫に叩き込んだって愚痴ってたヤツじゃ……」


「あーあー聞こえなーい」


エクセレントリビアというゲームの装備枠は7個+アクセサリー2個でそこそこ多い

内訳としては頭(非表示可能)、胴上、胴下、手、足の5部位に加えて

その上からアーマー上下(上下一体ローブ等も含む)を装着するスタイルである。


装備の外見と色を変える事も出来る為、コーディネートの選択肢は多い…が。

流石に何度かアップデートされているとはいえ10年前に発売されたゲーム

技術的な問題で装備によっては干渉して突き抜けて台無しになったりする。

凪が選んだ服とスカートもまた、凝っているが故に干渉しまくる逸品であった。


閑話休題


さて準備は(恐らく)整った、後はである。

少し深呼吸をし…意を決して文字を書き込む。


▶モミジ:では、お二人のどちらかにパーティのリーダーをお願いします


少し間が空いて、返信が来る


▶KIYOSHI:理由を伺っても?


ちょっと警戒させてしまっただろうか?ただこれは必要な事なのだ…

何故かというと……


▶モミジ:これはメインストーリーを進める為に必要な事でして


▶モミジ:私とカレンは既にメインストーリーをクリアしてしまっているので


▶モミジ:私達二人のどちらかがリーダーだとメインストーリーが出来ないのです


これこそ私達が新規PCを作ってメインストーリーをやろうとしていた最大の理由

メインストーリークリア済だったモミジとカレンのデータでは

メインストーリーを再び最初から始める事が出来なかったからなのだ。


―実はイベントシーンだけなら拠点で買える家具で何度も見れたりもするが、いかんせん本当にイベントシーンしか見れない故に目的は果たせないのでその辺は割愛する…その時装備しているものがダイレクトに反映される為、一時期動画サイトで珍妙装備でイベントを台無しにする大喜利が流行った事も長くなるので割愛する―


そしてエクセレントリビアの仕様としてパーティを組んでいる場合、

プレイヤー間の齟齬を無くす為

つまりパーティリーダーがメインストーリーをクリアしていなければ

パーティメンバーが既にメインストーリークリア済であったとしても

リーダーと共にメインストーリーを進める事が出来るのだ。


因みにリーダーの他にメインストーリーをクリアしてないメンバーが居たとして、

そいつを次のリーダーにして同じメンバーでもう一度…とかは出来ない。

パーティに参加していたらちゃんとクリア済になるからである。


…とそういった感じの内容を事細かに打ち込んで、

何とか理解してもらう事が出来た。


▶KIYOSHI:成程、理解しましたありがとうございます


▶KIYOSHI:少し相談したいので時間をいただきます


▶モミジ:了解しました


そして待つ事しばし……


▶KIYOSHI:お待たせしました


▶凪:わたしがやります


それまで一切文字のやり取りをしていなかった凪がリーダーをやる…

という事に少し驚いたが、どちらにしろ支えるだけなので問題は無い。

…文字でのやり取りをしてないのはトシもだしね。


▶モミジ:了解しました


▶モミジ:それでは皆様、ストーリークリア目指して頑張りましょう!


四人がアバターのモーションで右手を突き上げ各々に了承の意を示す


さあ始めよう


サ終まであと半年の今更始める交流オンラインを…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る