第2話

結果的に言うと殆ど寝付けなかった…

ただそのお陰(?)で生まれた時間の中で

一つの可能性がある事を思い出したかえで

翌日、その場所の前に立っていた。


楓の実家から徒歩で約5分

6年前まではほぼ毎日の様に行き来した場所

友人、町田花恋まちだかれんの実家である。


チャイムを鳴らす…少し待つとゆっくりと扉が開かれた


「はい、どちら様でしょうか?」

出て来たのは若い男だった、ただその顔には楓が知る面影があった

「やあ…」

そこまで言って言葉に詰まった何と言えばよいのだろうか…?

そもそも彼は本当にトシで合ってるのだろうかと一瞬躊躇ったが

「え?あ…!?」

杞憂だったようだ、彼の名は町田利一まちだとしかず…花恋の実の弟だ。


「…久し振りだねトシ、大きくなったね」

「そうだね6年ぶりくらい?……どうしてまた急に?」

「ちょっと…お仏壇に手を合わせようと思って…ね」

心当たりを尋ねるという名目以外にも

いつかは行かなければならないと思ってはいたのだ

葬式の時は茫然自失としていてちゃんと花恋にお別れが言えたか怪しかったから

ただその為の勇気と切っ掛けが掴めなかっただけで

そういう意味では昨日のアレは楓にとっては良い切っ掛けではあった。


家に上がらせてもらい、御在宅だった小母さんにも挨拶をし仏壇に手を合わせた。

先ずは6年もお参りに来なかった事を心の中で謝罪し、自身の近況を花恋に報告する

地元の近場に就職した事、22歳になった事、その他諸々、そして改めてお別れを…

祈りを終える頃には、心のしこりは幾分か取れていた。


あとは心当たりを確認してお暇する予定だったのだが

何か凄い嬉しそうな小母さんのお誘いを断れず

お昼ご飯を頂いたりした結果、そこそこ長居してしまっていた


今居るのは花恋の部屋…断られるかとも思ったが快く入れていただいた

清掃はされているものの、部屋は学生時代のあの頃のままだった。


懐かしさに浸りつつ、ここに来た目的を果たすべく付いて来させたトシに向き直る

「さて……ところでトシ、私に何か言う事とかあるかな?」

ここでトシが何も知らなかった場合、いよいよ昨日のアレは

6年もお参りに来なかった薄情な楓への花恋からの警告だったという

荒唐無稽な説がまかり通りそうになるので地味に戦々恐々としていたのだが…

「あ、はい…昨日のカレンは俺です」

彼はあっさりと白状した…正直凄いほっとしたのは言うまでもない。

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