「ただいま」

「ん、おかえりー」


 家に帰った俺を出迎えてくれたのは、ラフなもこもこパジャマに見を包んだ妹。ちょうど着替えて降りてきたのだろう、少しだけ疲れた顔をした妹は俺に、少し気だるそうにしつつも言葉を返してくれた。


「疲れることでもあったのか?」

「んっとね、体力テストだよ。別に運動できないわけじゃないけど、流石に疲れた」

「紗耶は俺より動けるしな」


 妹――紗耶は、見た目はインドア派のくせに、かなり動けるのだ。……運動をやればその運動でそこそこ以上の結果を残せただろうに、小さいときから「やだ」の一貫で生まれてこの方まともに運動したことはない。強いて言うなら俺とのキャッチボールくらいか。

 そういう事もあって、運動できるしある程度体力もあるが、特に体力の方は、常日頃運動している運動部よりもかなり低い。久々の運動だろうし、かなり頑張ったんだろうな。


「わかった。じゃあ今日はがっつりしたもの作るか」

「おお! それはありがたいやつだ! こういうときにやっぱりお兄ちゃんだよねえ」


 眠たそうな目をこころなしか大きく開いて、喜びを表現する紗耶。うむ。こうやって喜んでくれる妹がいるからこちらも兄で良かったというものだ。


 うちはあまり親と一緒に食卓を囲むことはない。母が紗耶が生まれた折に死んでしまい、父が男で一つで育ててくれていることもあり、夜遅くに帰ってきて、俺たちが起きる前に出ていくからである。

 

 本人は「こんなんじゃ死なん! お前らを立派な大人になるまではやりきってみせるさ!」と言うのでそれに甘えてしまっているわけだが、それでも心配なので、週に一回は俺たちが寝る前にできれば帰ってきてもらうようになっている。だから、案外家庭環境に比べて家族仲は悪くない。


 何なら、密度の濃い話をすることで父とは他の家より仲が良い気がするし、紗耶とはちょっと危ない関係を疑われた事があるほどだ。二人からも近しい感情を感じるし、うちはうちでうまくやれているということなのだろう。


 さて、そういうわけで、家でご飯を作るのはもっぱら俺だ。たまに紗耶が作ってくれることもあるが、大体俺。お陰で同年代男子高校生の中では結構料理がうまい方である気がする。紗耶も俺のご飯が好きだと言ってくれるので、モチベーションは上がっていく一方。

 ……そういえば、響花もこのご飯を美味しいっていてくれたっけ。あの頃よりもうまくなってるし、また食べてもらいたいな。まあどっかでそんな機会もあるだろう。


「ねー、作らないの?」

「いやごめんごめん。今つくるから」

「何作る予定?」

「何が良い?」

「肉」

「言うと思った」


 俺は一応買っておいたワンポンドステーキを取り出し、それをじっくり焦らしてから紗耶に見せた。


「お、おお! それはワンポンドステーキ!?」

「そうだ……! 我が家のごちそうの鉄板、ステーキだ!」


 そんなに余裕があるわけではないので、安くなっていたときのものだが、ステーキには変わらない。おらたちは時折こうやって贅沢をしているのだ!


「……ねね、私が催促しといて何だけど、これは食べる直前に焼かない?」

「そうしようか」


 紗耶は「やったっ!」と小さくガッツポーズした。


「じゃあ先に風呂入るか?」

「ん、そうする。じゃあ先にもらうね」


 ステーキが待ち遠しいのか、早速と言わんばかりにさっき湧いた風呂に直行する。別にステーキは逃げないってのに。



 ●●●



 あれから風呂に入り、一緒にステーキを食べた。ステーキは肉汁が溢れ、ジューシーに出来上がり、ミルを使って胡椒をかけて食べればもう絶品だった。紗耶はまだ食べているが、それはそれは幸せそうな顔だ。


「あ、そういえば言ってなかったけど、隣に響花が帰ってきてるぞ」

「え!? 響花ちゃんが!?」


 がたりと立ち上がって驚く紗耶。そこまで驚くことか? あとお行儀悪いよ。


「もう! そういう肝心なことはすぐ言って! 私だって会いたい!」

「はいはい。ちゃんと今度会わせるから」

「もう! 今度は絶対忘れたら駄目だから」


 少し拗ねた紗耶は、少し乱暴に残りのステーキを食べた。


 それにしても紗耶もあれだけ響花と会いたいと思ってたんだな。明日にでも響花に聞いていようか。久しぶりに三人でなにかするのも良いかもしれない。

 あ、紗耶はサトと佐奈ともそこそこ仲いいし、四人でいくのも良いな。鹿波ちゃんへのお土産でも買いに行くのもありだ。

 

 久しぶりの響花入りの予定を考えるのは、想像以上に楽しかった。

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