増えた友達、変わらぬ心

「おはよう」

「おう、おはよう」


 朝のにぎやかな靴箱に、友達の姿があったので声を掛ける。


「なんか、俺が休んでた間に随分面白い事になってたみたいじゃねえか」

「ああ……俺の幼なじみが転校してきてさ」

「幼なじみって言うと、蒼真がよく話してた子だろ?」

「サトに話してたことあったか?」

「何回か聞いた気がする」


 小里智志。略して皆はサトと呼ぶ。俺とサトは中学……つまり、すでに響花と別れてから出会った。佐奈と一緒で、中学一年生の時からクラスが一緒の縁で仲良くなった。

 運動もでき、見た目も平均以上。学力はそうでもないが、性格も親しみやすい。そういったわけで、サトはクラスでも人望厚い。俺は普通なのになあ。

 佐奈といい、サトといい、なんだか俺の周りにはクラスやら学校やらを引っ張っていくやつばかりが集まって来る。きっと響花もそうなっていくだろうしな……。


「ちなみに、サトはなんで昨日休んでたんだ?」

「妹がちょっと入院しててな、その関係で来れなくなったんだ。最近は元気だったのになあ……また突然体調を悪くしちまって」

「妹……鹿波ちゃんか」


 鹿波ちゃんはサトの妹で、俺達から見て二つ下の後輩だ。初めて会ったときは小学校の高学年のときで、そのときは何度も入院していたほどひどい喘息を患っていた。

 中学校に入学してしばらくすると、俺、サト、佐奈、鹿波ちゃんでよく飯を食べたり、出かけたりしていたほど、鹿波ちゃんの体調は良くなっていたはず。


「そりゃあ、大変だったな。全然知らなかった」

「まあ、突然発作が起きたものだから、鹿波も報告できなかったんだろ。俺もいろいろてんやわんやだったしな。つい忘れてた。あとでメッセージでも送ってやってくれ。あ、ついでに佐奈にも一応伝えといてくれ」


 あとで、というが今送っとくか。『聞いたぞ。大丈夫か? 安静にしないとだめだからな』……ちょっとお節介かもしれないけどいいか。送信っと。


「なんだ、もう送ったのか? 多分すぐ返ってくるぞ。さっき電話したらもう起きてたから」


 サトが言うと、たしかにその数秒後に返信が帰ってきた。


『お兄ちゃんみたいなこといいますね……! まあ、ありがとうございます。しっかり治ったらまたお出かけしましょうね!』


「おう、もう帰ってきたぞ」

「あはは、だろうな。あいつはお前にだいぶ懐いてるならなあ……そりゃあ嬉々として返すだろうよ」


 それにしても早い返信に少しおかしくなったのか、サトは笑いながら言った。


「まあでも良かったよ。こんなに早く返ってくるなら、もう普通にスマホをいじれるくらいにはなってんだな」

「ああ。まだ様子見でもうちょっと入院してるらしいが、長くてもあと数週間らしいからな」


「なーんの話?」


 突然後ろから衝撃を感じるとともに腹に手が回された。声と雰囲気でわかる。佐奈だ。飛びついてくるのはいいが、突然は危ないからやめてほしい。


「おはよう佐奈。鹿波ちゃんが入院してるらしいって言う話をしてたんだ」

「え? ほんと? 最近は元気そうだったのにねえ」

「菜折は鹿波が体調悪くしてたときを知ってたっけ?」

「ぎりぎり知ってるよ。喘息だったっけ?」

「そうだ。できれば後でお見舞いのメッセージ送っといてくれるか?」

「りょうかーい。たまにはまたお出かけしたいしねえ」


 佐奈はスマホを取り出すと、ポチポチとメッセージを入力しだした。


 立ち止まった佐奈を待つように、サトと俺は立ち止まる。すると、教室から視線を感じた。めちゃくちゃ見つめられている。佐奈に告白して破れた奴ら――裏組織からの視線はもう慣れたものだが、これはなんだかそれとは別質に感じた。というか、何度かこれは感じたことがある。

 ちら、とそちらの方を伺ってみると、案の定、響花だった。

 とりあえず挨拶代わりに手を振ってみると、響花は顔をぱああ! っと輝かせ、ニコニコしながら手を振りかえしてくれた。


「あれが幼なじみか?」

「ああ。響花って言うんだ」

「へえ……随分可愛いなあ。クラスで大人気になりそうだ。だからあんなにすぐ、うちのクラスにかわいい子が転入してきたっていう噂が広まるわけだ」


「ふふ……またみんなでお出かけしよう、か。よし! じゃあ私も鹿波ちゃんとのメッセージ終わったよ! 待っててもらってありがとね」

「ああ……って、どうせ佐奈とは別のクラスだし、ここで別れないといけないけどな」

「ま、暇ならちょっかいかけにいくから、どうせすぐまた会うけどね」


 バイバイ、と手をふる佐奈と別れ、サトと一緒に教室に入る。

 荷物を自分の机に置くと、響花が近づいてきた。そうして机の前に立つと


「おはようっ!」


 と挨拶をしてきた。


「……おはよう。なんだか機嫌が良さそうだな」


 明らかに機嫌良さそうな雰囲気に、逆に不審さを感じる。でも、その理由はどうも、こっちが恥ずかしくなるくらい素直で、嬉しいものだった。


「だって、今日から毎日蒼真と学校で話せると思うと嬉しくて!」

「ほう、鹿波くらい懐いてるな」

「……鹿波ちゃんはここまでないよ」

「……そうか? ああ、挨拶が遅れたな。俺は小里智志。サトなんて呼ばれることもあるこれからよろしくな」

「あ、昨日休んでた……蒼真のお友達なんだね! よろしく!」


 二人は出会ってすぐなのに、滞りなく、それでいて自然に話していた。その話しているときの響花の表情は、身長や外見が少し変わっても、やっぱり響花そのものだった。


「……響花は変わらないな」

「……ん? それは、蒼真もでしょ」


 俺たちは、自然と笑みを浮かべていた。

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