第17話 魔法少女と調査結果
「そう......やっぱりそっちの調査でも駄目なのね......」
『力になれなくてごめんなさい』
「ううん、調べてくれてありがと」
『何かわかったら連絡します』
「ん。じゃあまた」
と、一連のやり取りを終えた後、海美は通話を終了した。
平日の昼休憩にて、仲間たちとランチを囲んでいた非番ブルーは、その通話の相手、<チホーレンジャー>のピンク担当であるチホーピンクと話し合っていた。
内容は例の件、怪人タイツゴッドの情報についてだ。
同所にて、咲良が真海に結果を聞く。
「どう? 感じからして、あまり芳しくないようだけど......」
「かんば......え?」
「あ、えっと、あまり調査の進捗具合は良くないのかなって」
真海と会話するときは、できるだけ真海のわかるように話さないといけない。
「ええ。<チホーレンジャー>が本部に相談しても、特にこれと言ったことは情報は掴んでないみたい。あとはチホーグリーンが調査してくれるらしいわ」
「そう......」
「まぁ、ダメ元だったんだし、仕方ないよ」
「そうね。それにしても怪人タイツゴッド......気になるわね」
魔法少女たちは先日から各々、全身タイツ野郎こと説教おじさんの正体を突き止めようと調査していた。
現状、わかっていることは、怪人タイツゴッドという正式名称で、ありえないくらい強いという点だけであった。
そして何よりも気になるのは、その肩書。“七天王”という今は存在しない肩書。
咲良がぐったりとした様子で、机の上に突っ伏す。
「七天王......ってなんだろうね?」
「さぁ? 今は四天王というのが広く知れ渡っているのだから、単純に三人減ったんじゃないかしら?」
「三人減るって?」
「えっと......降格とか殉職的な?」
「「......。」」
真海のストレートな物言いに、他二人の少女は黙り込んでしまった。
「なんにせよ、三人減ったうちの一人があの説教タイツだと思うよ。もしかしたら他二人もまだ組織に居るかもしれないんだよね。あんな化け物が他に居るって無理ゲーじゃん」
「あ、あはは。たしかにこの前戦ったスザクさんもすごく強かったよね」
「パワーバランスがどうかしているわ......」
「私たちももっと強くならないと行けないのかなー」
学業と魔法少女の両立に悩む少女たちであった。
*****
「全力で行くわよ! マジカル――」
「「「ビーム!!」」」
「ぎゃあぁあぁぁぁああ!!」
午後の授業の最中、突然出現した悪の気配を敏感に察知した魔法少女たちは、すぐに変身して例の公園に向かった。
律儀にも魔法少女<マジカラーズ>の参上を待っていた敵は、十数分後に戦闘を開始。
この十数分間が何だったのかは言わずもがな。
やれ授業中に呼び出さないでほしいだ、やれ悪事を働くならアポ入れろだの、魔法少女として如何なものか問われる発言が横行していた。
いつものぐだぐだタイムである。
んなの、悪の組織からしたら知ったこっちゃない。
よって本日も例の公園にて善と悪の戦いが繰り広げられていた。
が、本日の天気は曇り気味。まだ日が出ていてもおかしくない時間帯だが、分厚い雲によってそれは阻まれていた。故に春という季節の今、そんな天候が手伝って若干の肌寒さがある。
ちなみに本日の敵は怪人カマキリ女帝と全身タイツの雑魚戦闘員二人だ。
「ちょ、開始早々に必殺技使うの禁止って先輩に言われなかった?!」
怪人カマキリ女帝から文句の声が上がる。
彼女の全身はマジカルビームを食らってぷすぷすと煙を発していた。ろくに防ぐこともできなかったため、魔法少女たちによる光線が直撃してしまったのである。
また怪人カマキリ女帝が言う“先輩”とは、言うまでもなく“歩くタイツ”である。二人の上下関係は確からしい。
「知るか! こっちはテスト中だったんだぞ! マジカルブルーが留年したらどうする!」
「そうよ! って、ちょっと。マジカルイエロー、その言い方はどうなのかしら」
「ま、まぁまぁ。今日はこれくらいにしましょう。私たちは暇じゃないので......」
「私たちが暇だから悪事を働いているみたいに言わないでくれる?!」
怪人カマキリ女帝の会心のツッコミは、虚しくも魔法少女たちから共感を得られなかった。
実際、悪の組織のお仕事はこれがメインなのだ。それを社会に飛び立ってすらいないひよっ子どもに、暇人かよと言われては黙ってられない。
しかしマジカルピンクも謝る気は毛頭無い。
こっちだって今を必死に生きる花の女子中学生である。学校の試験だって真面目に受けなきゃいけない。なんでこういう時に限って、と不満が出てくるのも致し方なかった。
言い争いが白熱しそうになる前に止めようと、下っ端戦闘員である全身タイツ二名がしゃしゃり出た。もはや「イッーイッー」言ってる場合じゃない。
「お、落ち着いてくださいよ、姉御」
「黙っていられないわ! 悪の組織が正義の味方に暇人扱いされているのよ?! なによ、悪事のアポを入れるって! ナメてる?!」
アポを入れ始めたのは、カマキリ女帝の先輩である全身タイツ野郎だ。
しかし全身タイツ野郎がそれを行うに当たっての経緯を知らないから、カマキリ女帝は怒りを覚える他なかった。
組織内の連携が不十分である一端が垣間見えた瞬間であった。
「そもそも今日はこの公園に人が居ないでしょ! 観客も居ないのに、なんで悪事を働こうとするの?!」
「そ、それは今日は天気が悪いから、子どもたちは公園で遊ぶ気分じゃないってだけでしょう? 仕方ないじゃない」
「無駄じゃん! めっちゃ無駄な時間じゃん! ただ公園で私たちが来るのを待って、戦って負けてるだけじゃん!」
「うっ」
「もうちょっとこう、臨機応変にやってくれないかな? 魔法少女が留年したら、どう責任取ってくれるの」
「ねぇ、さっきから私のこと言ってる? マジカルイエロー、こっち見て」
などと、例の如く言い争っていると、
「ぬっる~。なにこの戦い(笑)」
「......。」
どこからか、見知らぬ二名の怪人がこの場に乱入してきた。
その二人の登場に、この場に居る全員が驚く。
前者は肩パッドが特徴で、まるで一昔前に流行したファッションセンスを思わせる男だ。
ただその肩幅は当時の流行を遥かに上回っている。
なんせ一メートルを優に越えているのだから、道を歩くだけで周りの人の邪魔である。
後者は全身外套に身を包んでいる巨体の持ち主だ。その上からもわかるほど筋骨隆々としている。全身の筋肉がまるで鋼の鎧のようだ。
両者共に圧倒的強者感を漂わせる雰囲気で登場。
この場に居た魔法少女と悪の組織の戦闘員たちに戦慄が走った。
肩パッドの怪人が再び口を開く。
「本当はこの町でひと暴れしようかと思ってたけど......はは、居るじゃん。美味しそうなヒーローさんが」
邪悪な笑みを浮かべて。
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