1章 Ⅱ
TRPG(テーブルトークRPG)それは100年にもなる歴史を持つアナログ型のゲームで、俺が知っている範囲であれば、そのゲームにはルールは存在しない。進行役がそれらをすべて決めることができる。そして残りのプレイヤーはクラスを自分の好きなように選び戦いに臨むことになる。進行役が決めたルール内であればプレイヤーは基本何をしてもかまわない。型を取ったルールもないため、進行役が決めたゴールに行きつくことがこのゲームの醍醐味であり目的だ。
だが、それをするには道具がいくつか必要なのだが、それを彼女は当然持ち合わせてない。俺は今できない勝負なら却下すべきだと言ったのだが。
「面白いじゃない! 結構興味あったのよね。こう自分たちで決めたルールで縛られずにゲームできる感じのやつ! テーブルって感じ!」
いかにも頭が悪そうな発言をするアズサ。こいつと幼馴染という事実を俺は一生背負っていかないといけないとは、この業はとてつもなく深いと痛感する。そもそもお前TRPGのこと全く知らないだろ。
「そうと決まればさっそく準備しましょう!」
生徒会長殿はそう高らかに叫びテーブルの上に体を乗り出した。そんなに乗り出したらせっかくTRPGしようって言うのに肝心のテーブルが壊れちまうぞ。まぁテーブルが壊れたら床ででもやればいいか。そうなるとなんだ、フロアRPGとかになるのか?
しょうもな! というかやるの決定なの?
「待て待て! 確かに俺も興味はあるがそんなのやってたら昼休みが終わっちまうだろ! じゃんけんにしとけって」
「そもそも道具もないだろ。よくわかんねぇけどそういうのって専用のやつがあんじゃねぇの?」
俺の指摘に竜峰も賛同してくれる。こいつとは高校からの中だがこう言ったときにアシストしてくれるのは助かる。
「今即興で作ればいいんじゃない?! そうすればきっと道具もいらないはずよ」
「なるほどな! 流石生徒会長、臨機応変なアイディア。ナイスだ!」
こいつも馬鹿なの忘れてた!!
「即興でそんなもの作れるわけないだろうが・・・! 俺も詳しくはないけどルールブック作ったり役決めたりで時間かかるものだろ。そうだよね? 音無さん」
「はい。言い出しておいて申し訳ないですが準備も結構大変なんです。なので今日は無理かと」
「んだよそうなのかよぉ。じゃあ意味ねぇな」
音無さんの言葉には耳を貸してくれたようで竜峰は納得してくれた。だがアズサに関してはまだあきらめきれてないようでスマホを使って何か調べているようだ。
「何調べてんだ」
「準備にどれだけ時間かかるのかってちょっとね」
俺はそう尋ねてこいつが調べている画面を見る。検索エンジンアプリを使っているようでそこにTRPG 準備と打っているのが見える。
「おい、今【TRPG 準備 大変】って検索欄に見えたぞ」
「気のせいよ」
「なんならお前が今開いてるページに今すぐ始めることはできないって文言あったぞ」
「うるさいわね! ちょっと黙っててよアホ翔太」
阿保に阿保と言われた屈辱は置いておいて俺は怒りを懸命に堪えてそのまま席に戻る。
もうこいつらは放っておいて飯にしよう。そう思い俺は買っておいた焼きそばパンに噛り付く。
問答をそのあともアズサを中心に続けていたみたいだが、俺は完全に興味を失って机に突っ伏した。せっかくの昼休み、こいつらに付き合って疲れるのはあっぴらごめんだ。喧騒の中眠られるかと心配だったが、案外目を閉じてみればすぐに睡魔がやってきて俺はそのまま眠ってしまった。
今思えば俺は寝るべきじゃなかったのかもしれない。こいつらに付き合うことなんて、なかったのだ。
「わかった? 翔太。アホじゃないんだから一回でわかったわよね?」
「いやまったくわからないんですけど」
「結構かみ砕いて言ってあげたんだけど・・・。あなたって結構バカだったのね」
寝て起きたときに言われたことを飲み込めずに俺は困惑状態になっていた。
こいつが今言っていたことは理解できる。要約すると、TRPGをやってみたいということになったので、作家志望の姫川が進行役としてルールブックを作って今度の休みにみんなでやろうということらしい。
だがルールブックの作成に俺も携われということだった。
「つまり俺は姫川の助手になれとそういうことか?」
「なんだちゃんとわかってるじゃない。そう、助手ね!」
なんでこうもこいつは人の意見を聞かずに物事を決めてしまうのか。昔から思っていたがこいつは思いやりのかけらもない。中学の修学旅行でも班のメンバーの意見も聞かず遊びまわるわ、中学の文化祭でも自分はお化け屋敷がやりたいっていうのに途中で飽きて投げ出すわ。
俺は正直こいつのことがどうにも、好きになれないのだ。
だからこいつの言うことは基本無視するか否定するか罵倒するかの選択肢しかないのだが。
「絶対に嫌だ! お前どうせまた途中でやる気なくして投げ出すだろうが! お前の性格上一週間後には忘れてどうでもよくなってるに決まってるわ!」
「そんなことないもん! 私がいつどこで投げ出すような真似したか言ってみなさいよ!」
「修学旅行の時だってお前が行きたがってた京都の寺途中で飽きてただの団子食べ歩き大会に変更になっただろうが! あれ当時ほかの班員の機嫌めちゃくちゃ悪くなってたんだぞ! なのにお前は団子ばっか食いやがって! しかもあれだぞお前、団子も好き好みしやがって、気に入らなかった団子に関しては全部俺に処理させたことまだ根に持ってんだからな! あの時の俺のあだ名知ってるか?! 団子兄妹だぞ! 俺とお前が団子ばかり食ってるから変な噂立ってそんな異名がついたんだからな!! あれ以降俺はトラウマで団子が嫌いになっちまったんだからな!!」
「そ、それとこれとは別じゃない・・・。というかそんな昔の事まだ根に持ってるわけ!? ちょっと音無さんも何かこいつにいってやってよ!」
なんでここで音無さんに振るんだよ! ただ今の俺はなかなかに積もりに積もったものが爆発したせいで冷静ではない。例え可愛く天使のような微笑ましい美少女後輩音無さんに何か言われても俺の意志は屈しはしないだろう。
「先輩。私も、TRPGには少し興味あったりします・・・。ダメ、ですか?」
「いいに決まってんだろ、姫川準備を始めるぞ」
「・・・え?」
俺の変貌様に目の前の生徒会長はきょとんとした顔でそうつぶやく。
俺すらも今の俺がとっている行動の意味が分からずにいたのだ。この阿保がすぐに理解できるはずもない。
まぁいいや。音無さん可愛いから。どうにでもなれ♪
「あんたって、童貞くさいわよね・・・」
「う、うるへぇ!!」
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