この理不尽設定マシマシでテーブルトークRPGな異世界へ世知辛い人生を捧げます!

@sonobuuuu7777

1章 

「一体どうして、なんでこうなったんだ・・・」


 俺はうなだれながら隠れ蓑にした洞窟から星空を見あげる。

 神奈川の都心では絶対見られないであろう満点の星空が頭上を覆いつくすほどに輝いている。素晴らしい光景だ、普通の状況だったらこの絶景を横目に俺は酒を嗜んでいただろう。まぁ未成年なんで飲めないんですけど。


「おい生徒会長殿」

「んんん、何ご飯・・・? 翔太ったらまだ食べたりないの?」

「ちっがうわ!! いつまでもこんなところに閉じこもってたんじゃまたいつ魔物に襲われるかわからないんだぞ! つかお前よくこの状況でぐっすり寝れるもんだな! その図太い神経を幼馴染の俺にも分けてはくれませんかね」


 共にこの訳の分からない世界に降り立った盟友、基幼馴染。そして我が市橋高校の生徒会長殿は眠気ナマコを擦りながら硬い洞窟の床から体を起こした。


「何よ、人を見境なく女に手を出して性加害で訴訟されるような、図太い神経を持っている芸能人呼ばわりしてくれちゃって。女の子にそんなこと言う翔太は嫌いよ?」

「なんか色々言葉が付け足されてる感あるが・・・。つかそれ人によっては存在を消されかねない爆弾発言だぞ?!」

「この世界に例のマッチョ芸人を知っている人間なんていないわよ」

「だぁああ?! おま、やめろやめろ! そこまで言ったら誤魔化し効かないじゃねぇか! あと見境なくとかじゃないから! そんなことしてませんから多分!」

「でも芸能人なんてみんなそんなものじゃないの? 翔太だってスキャンダルなんて山のように見てきたじゃない。今に始まったことでもないわ」


 こいつは芸能人がらみで何か恨みでもあるのか。ストレートに言うその姿勢はやはり図太い神経を持っていると言わざるを得ないわけだが・・・。


「お前が芸人並みの図太い神経を持っていることはわかったから少し静かにしてくれ! 魔物がまた寄ってきちまうだろうが」

「ああ! また言った! あたしだってこう見えても生徒会長として日々頑張ってるんだからね! 翔太は知らないだろうけどあたしはあたしで市橋高校の事を思って―」

「だから少し黙れよ!! 森中にお前の声が響いてるだろうが!!」


 俺の痛烈な叫び声が洞窟の中に響き渡る。今、考えてみればアズサよりも俺は大きな過ちを犯してしまっていたのかも、しれない。

 俺の声を皮切りに森から無数の野獣たちの声が聞こえてきたのだから。


「しょ、翔太・・・? なんでそんな逃げようとしてるの? あわかった、トイレね? 翔太ったら夜のおトイレ行ってなかったのね。仕方ないわ! あたしが一緒に付いてってあげるから2分だけ待っててくれる?」

「バカ、ちゃうわ・・・! お前この状況わかってないのか? 俺たちの声のせいで奴らに見つかっちまった・・・! 洞窟の奥へ逃げるぞ!」

「ダメよ・・・! 今はできないわ!」

「はぁ?! なんでだよ! 今逃げないと食われておしまいだぞ!」

「だって、だって!」


 我が誇りある市橋高校の生徒会トップである宮島 アズサは泣け叫びながらこう言った。


「同じ体制でずっと寝てたから、足がしびれて動けないの。ねぇ翔太? あたしたち幼馴染よね? ・・・・・・・ねぇ、そんな人をゴミで見るような目で見ないで・・・。クラウチングスタートの姿勢も構えないで! ねぇ翔太さん! おんぶしてって!! おいてかないで!!」


 なんで、どうしてこうなった・・・・!




 俺たちは、誇りある市橋高校の生徒会だ。

 それはそれは伝統がある立派な校風が特徴のわが校。100年以上続く由緒正しいわが校であるが、この学校の生徒会のメンバーもまた、由緒正しく世間の手本となる素晴らしい人間性をもっている。


「翔太翔太! これ見て! 今日のテストで赤点取っちゃった! 今日補講テストがあるんですけどウケるよね」

「ウケませんけど」

「でもまぁ別にいいわよね、生徒会長だからどれだけ赤点とっても大丈夫だろうし、この学校のテストなんて本気出せば、こう。しゅぱぱぱっと」

「いや生徒会だろうが赤点は限りなくアウトに近い点数だろ。そんな訳の分からんシャドーボクシングしたって無理だから無理無理あっぶねぇな?! 拳こっちに向けんなよ!」

「だって翔太が変なこと言ってるから。生徒会長たるもの赤点でその座を降りることになるものならそれこそ前代未聞よ。そんなことあるわけないわ!」


 生徒会室は学校西校舎、そして最上階に存在する。本校舎が東校舎で1度外に出てここに来ることになるので雨の際は少し面倒なのだが。昼休みにはこうして生徒会メンバーが集まって食事を共にする。面倒なのにみんなもよく付き合ってくれるものだ。


「でも実際問題赤点はまずいと思うけれどね、この学校自称進学校だし。赤点のせいで進級できず退学する生徒、結構いるわよ」


 痛いところをついたのは会計である姫川 氷空。ひめかわ そらと読むらしくかなり珍しい名前だ。少し白髪が入ったその髪色は校内でも有名で美人と評判だ。自頭はよく、運動神経も抜群。正直彼女の事を知るまでは姫川が生徒会長をすればいいと思っていたのだが。


「さすが赤点常連のそら姫は言うことが違うわね!」

「ええ、それほどでも」


 そう、アホなのである。

 基本5教科130点、すべて赤点、他6教科もことごとく赤点。追試の鬼、補講の女神。それが姫川の異名だ。補講組だけが知る彼女の阿保さ加減。一部の界隈では女神として崇め奉られているらしいが、これ以上ないほどの侮辱を彼女は良しとしている。


 なぜならアホだからだ。


「いや褒めてないだろ」

「翔太、お前も何か補講について至らない点があれば相談してくれ。私でよければ手ほどきをしてあげよう」

「あ、結構です」


「にしても今日はあっついなぁ。まだ夏でもないってのに、そう思わねぇか翔太!」


 突然にして大きな声でそう言ったのは副会長である竜峰 天嶮。下はテンケンと読むらしくこれまた見ない名前だ。彼は凄まじい体育会系で部活はアメフト部に所属しており生徒会の業務と並行して両立している体力お化けだ。そして学力も高くテストでは毎回トップ10入りを果たしており、いつ勉強しているのか不思議なくらいの天才だ。


「声がでかいな今日も・・・。まぁ確かに今日は暑いな」

「だろ? 冷蔵庫にアイス入ってるからみんな食ってくれよな。なんてたって、今日はアイスの日だからな!」

「アイス?! そんな日あったかしら?!」


 目に見えてはしゃぐ生徒会長のアズサの喜びように竜峰は嬉しくなったのか上半身裸になって騒ぎ立てる。


 なんで脱いだんだろう。時々見かけるこの奇行に俺たちは慣れてしまったのだが。未だに謎だ。


「今俺が決めた! 今日はアイスの日、つーことでアイスを頬張るぞ!」


 生徒会室は今日もせわしなく盛り上がる。俺はこいつらが騒ぎ立てるさまを見るのが日課になっていた。ダルがらみしてこようものなら俺はそれをひらりと躱し、危ない真似をしようとするものならそれを静止し、色々な問題を解決すべく書記という立場ではあるが、俺は意見を出して結構・・・。


 俺は保護者か何かかよ。


 唐突にそう感じた。


「ちょっと! アイス4本しかないじゃない! どうなってんのよドラゴン!」


 ドラゴンとはアズサだけが竜峰を呼ぶ際に使うニックネームだ。彼もその可愛らしい名前を気に入って至るところでその名前を広めていたりする。

 というか4本なら丁度だろ、何を慌てる必要があるんだ。そう思っていた矢先、生徒会室の扉が開かれる。


「すみません遅れました・・・」

「音無さん! 今日も来てくれたんだね」


 俺は思わず彼女の名前を呼んだ。


 言い忘れていたが俺たちは2年生で学校内では真ん中の学年である。生徒会は基本冬に選挙が行われて春以降に新しい代に変わる。5月に入ったこの生徒会も空気はすでに俺たち色に変わりつつある。そんな中、今年に入ってきた新入生、それが彼女、音無 美奈。茶髪の入ったおとなしい印象の彼女は、話したら想像通りの女の子! この生徒会にはなかった癒しがここにはあったのだ! 


「もちろんです。先輩方のお仕事は私もすごく興味がありますし、アズサ先輩と逢えると思ったら毎日が楽しいんです!」


 あのアホ会長のファンという点を除けばある程度良識のある女の子だ。勿体ない、大事なブランドに傷がついた気分だ。


「翔太? なんでそんな苦虫を嚙み潰したような目であたしを見てくるの?」

「いや、なんでもない。お前は悪くない」

「なんでもなくない発言なんですけど、すごく気になるから教えてよ」


「それよりもだ。アイスをどうするかを決めないとこの昼休みは終わらないぞ。誰が食べる?」


 竜峰が冷凍庫から取り出したアイスを4本手に取りそう言うが、俺は元々食べるつもりがなかったので断ったのだが、それを竜峰は良しとすることはなかった。いいじゃん君たちだけで食べれば。


 食べられない人間を決めるために俺たちは何をしようかと話し合った。それはどんな会議よりも白熱し、どんな校内行事を決める時よりも真剣だったことは気のせいだと思いたい。じゃんけんでいいといったがなぜか却下された。面白くないと。そしてその問答の際アズサからこんなことを指摘された。


「翔太って、前から思ってたんだけど、時々萎えるくらいしょうもないこと言うわよね」


 うっせぇよ赤点女。お前の答案用紙今度の生徒総会でぶちまけるぞ。


「あの!」


 白熱する会議に声を大にして割り込んだのは、意外な人物、音無さんだった。

 赤面を顔に浮かせつつも手を上げて意見を出す。生徒会としてはその姿勢は素晴らしいものだと感じざるを得ない。


「あの、わたし、テーブルトークRPGがいいと思います!」


 いや、昼休み終わっちゃうよ。











































































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る