ブラック・スワンのエゴ

鉄華まき

プロローグ 共鳴の蜂起

『共鳴の蜂起』


それは、この大陸の覇権を握る宗主国『イスクロス帝国』の徹底的な圧政に対し、反旗を翻して立ち上がった『フォリア王国』の独立宣言に端を発する紛争の事である。


当初、”帝国兵のガス抜き”として処理されるものと多くのヒトが悲観の情すら覚えていた。だが、フォリア王国は奇跡のチカラでもって、その予想を大きく覆していった。


『共鳴術』___人が文字を操り始めたころより、各地に伝承として伝わり続けていたチカラ。報告例があまりに少ないことから、

数十万人、数百万人に一人の割合でしか扱うものが出ないというこの神が与えたもうた御業を、フォリア王国は軍隊の一部隊として運用できるだけの人数を集め、帝国軍の圧倒的な兵力により敢行される人海戦術の前に、見せしめの象徴と化すと思われていた祖国を救ったのだ。




 彼らは通常のヒトには扱うことのできないその力を用いて大群で押し寄せた帝国兵を掃除でもするかのようにただの塵芥ちりあくたへと変えていき、鎮圧部隊を、さらには帝国貴族のアンドゥ・レイオス侯爵率いる精強兵団を壊滅させた。


これを好機とし、周辺国家も次々に独立を宣言。フォリア王国を代表として『独立国家連合軍』を結成した。


これは当時、怒髪冠を衝く勢いで予備部隊もフォリア王国に回していた帝国軍にとって、まさに寝耳に水であった。

電撃的な戦線の拡大に、各地の兵站を支えきれなくなった帝国は、ようやく『和平』という道を選択した。


コレが、フィリア暦元年最初の出来事、『共鳴の蜂起』である。


 その中でも特に戦功をあげた一人の兵士を、人々は『勇者』と、畏怖の念を込めて呼んだ。帝国の埋め尽くすような軍勢を

たった一人で次々に打ち破っていったというその様は、戦功そのものが、詩人の詩となり伝承となり、野を、山を越えて大陸中に轟いた。


 圧倒的な『共鳴術士』の力。

国の象徴『勇者』の活躍。

フォリア王国は、大逆転勝利という名の劇薬にひどく酔いしれていた。

しかし、明るい光の背後には、暗い影がどこまでも付きまとってくる。


戦争によって荒れ果てた国土。

混迷により生まれた暗黒街。




本来であれば美しく羽ばたくはずであった鳥の子も…

今や泥濘の中に沈みゆくだけである。



和平締結より15年。火種は今だ、燻ったままである。



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