7日目
いつもよりも重く感じる瞼を開けると、そこは自分の部屋だった。寝ていたようだ。悪い夢、幼馴染のあいつの葬式の夢だ。なんて縁起の悪い夢を見てしまったのだろうか。さてと、いつもの通り支度するか。
「あれ、制服はどこだか」
いつもベッドの左側にかけてあるはずの制服が無い。必死になって探すと、案外直ぐに見つかった。入っていたのは、ピンクの紙袋だった。
「………」
部屋の色彩が滲む。
「わかってるよ、もう。分かってるよ………」
紙袋は淡い淡いピンクになった。自分の心のようだった。
「………よし」
滲む色彩を整えて、制服の襟を整える。鞄の中身を整えて、鏡へ向かう。寝癖を整えようとしたとき、自分の顔が目に入る。赤く、重そうな瞼だった。
「なんか、無かったっけ」
高校生にもなって、こんなのみっともない。母親のメイク道具を勝手に漁ってペールオレンジを眼の上の皮膚に乗せる。使い方は知らない、でも。たまのたまに、あいつが学校でやっていた気がする。それを頭に浮かべて、真似ながら。乗せていく。
「………あんた~、ご飯は食べていきなさいよ~」
「………うん」
昨日のうな重がお腹に残っている気がする。でも、普段学校へ行く時より多いような朝食を無理にでも腹に詰め込む。昨日で、終わったんだ。昨日で………綺麗にお別れしたから、自分が一番悲しいわけないから。踏ん張るしかないんだ。
「………ごちそうさま。行ってきます」
「いってらっしゃい………本当に、気を付けるのよ?あの子の分もあんたが生きてあげな」
「………分かったよ、それじゃあ。行ってきます」
急いでる時は言って無かった『行ってきます』の言葉。あいつは1週間前、ちゃんと親御さんに言ったんだろうか。自分が迎えに行ってあげて、いつも慌ただしく家から出てきていたけど。しっかりと『行ってきます』と言ったんだろうか。
「暑………っ」
まだ物理的にも開ききっていない瞼をもっと閉ざさせるほどのかんかん照りだ。太陽は、あの日と同じくらい眩しい。
「………行こう」
ぐずぐずしてはいられない。もうそろそろ学校の予鈴が鳴ってしまう。歩いたならば間に合うかギリギリの時間。きっと、あいつを迎えに行くってなったら全力ダッシュしてただろう。でも、今日は。今日からは、ダッシュなんてしなくても。良い。
「ダッシュねぇ」
神様はなんであいつの命を
「………はぁ、だめだだめだ。そんなこと言ってちゃ」
心にかかっている曇りを吹き飛ばして、太陽を浴びる。
「そろそろ、定期テストだ!」
あいつ、定期テストから逃げやがって。いつも『嫌だー!』っていってたな。
「………お前の分まで受けてやるよ!」
走る必要なんて全くないのに、気が付けば走っていた。
未だ重い瞼を必死に開けて。
瞼は赤く腫れていた。
でも、空は青く晴れていた。
お前の気分なんて知ったことでは無いと、残酷なほどに青い空が。
空のエンジンをかけてくれた。
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