2日目

 学校を休んだ。僕はもう、話せなかった。


 ただ涙を流していた。水分を取るのも忘れて。


 動画を見る気にはなれなかった。


 化学のノートなんて、頭の中には無かった。


 連絡アプリから着信のタブがスマホの画面に映し出された。でもそれを見る元気は無かった。


「………ご飯、置いとくわよ」

「………」


 人生で数えるほどしかしてない、無視をした。


 親と喧嘩してないのに、無視をした。


 ご飯なんて食べる気になれなかった。朝ご飯も昼ご飯も食べなかった。


 あいつとの記憶が何度も蘇ってきた。脳裏にあいつの笑顔が浮かびあがる度に、涙が出てきた。


 枕はもうびしょびしょだった。もう水滴を吸い取れないくらい、濡れていた。


 カレンダーをふと眺めた。来週、遊ぶ予定が入っていた。あいつとの約束だった。


 目の前がぼやけた。何も見えなくなった。ぼやけているのを止めるため、目を閉じた。目の前が真っ暗になった。


 でも、まだ。まだ、あいつの死が決まった訳じゃなかった。


 車に撥ねられても、死んでない例はいくつも見る。


 夕方なのにまだぼやけている目で、パソコンの画面を見た。


 いつもの実況者の動画ではなくて、車に撥ねられても助かった事例を調べた。


 どうやら、助かる方がが多いみたいだった。それを見ていくらか気が楽になった。


 いや違う、凄く気が楽になった。だって、助かってる可能性の方が高いのだから。


「よ、良かった、良かった、よっ………かった」


 涙を流し過ぎて、しゃっくりが出ている。口がうまく回らない。


 それでも嬉しかった。今日初めて、顔が少し緩んだ。


 階段を上がる音が聞こえてきた。ご飯を運んできてくれたのかもしれない。


 安堵して、急にお腹が空いてきた。当たり前だ、今日何も食べていないのだから。


「………ご飯?ありがと」

「………えぇ、ご飯よ。それと………」


 なんだろう、ご飯と何かデザートでも出してくれるんだろうか?今日何も食べてない自分を気遣ってくれたのかもしれない。


「………あの子、亡くなったって」

「………ぇ?」


 昨日と同じような状態に陥る。陥りたかった。

 でも、不意打ちとも呼べる状態で、脳が発せられる言葉を拒否していない状態で、拒否した言葉が飛び込んできたせいで、理解してしまう。

 さっきの安堵を返して欲しい。なんて急に冷静な反応を頭の中でしてしまう。

 気が付くと、床に雫が落ちていた。気が付かなかった。


「あんた………そうよね、ご飯置いとくわ」

「うん、ありがとう」


 ボタ、ボタと大粒の水滴が床に落ちて弾ける。体と脳がリンクしていない。

 何だか新鮮な感覚だ。


「そっか、あいつ死んだのか………死んだのか………うぅぅっ!!!!!」


 すでに理解している言葉を咀嚼するように、ゆっくりと口の中で転がす。脳が拒否反応を起こさないのを見かねてか、体が嗚咽を漏らし拒否反応を起こす。


 もう、自分ではどうしようにもなかった。


 幼馴染を助けることは勿論。自分の体を十分に扱う事すら、ままならなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る