1日目
「だから私はキャビンアテンダントさんになりたいの!」
「そんなカッコいい職業、宿題忘れてたやつが務まるか~?」
「なにおう!宿題とそれとは関係ない!」
「そうだそうだ!」
「二人して今日の宿題忘れて………しかも俺の映して提出しただろ」
「「ありがとう!!!」」
「まぁいいけど」
いつもの登下校の道。
「またね!」
「それじゃ。また、明日な!」
「ほんじゃ~」
普段と変わらないような面子で帰っていた。
「おいおい、さっきからイチャイチャしてんなよ!」
「してねぇよ!あいつは幼馴染でただの友達だって言ってるだろ!」
「おいおい、そんなこと言って!ほら、お前が読んでるラノベ?とかだと『幼馴染と主人公が成長して、だんだん意識し始めちゃって………!!!』なんていうストーリー多いだろ?え、多いよね?」
「いや、あるけど!でも基本的に幼馴染は負けヒロインだから!」
「え、なんすか?じゃあお前はあいつの事『負けヒロイン』って思ってんすか?」
「そうは言って無いだろ!お前は恋愛脳すぎるんだよ!」
高校生になってから数か月経ち、仲の良い友達もできた中で。幼馴染のあいつだけはずっと俺と一緒に居て仲が良かった。保育園の時から高校まで、あいつとはずっと一緒に学年が上がっていた。だからこそ、恋愛感情なんてものは存在しなかった。
「あいつはどっちかというと兄妹みたいなもんだから!」
「え?義兄と義妹ですかぁ?たしかにそういうラノベもあるよな!」
「だから違うって!!!」
この数か月で気の知れた友達もできてあいつと疎遠になるかな………なんて思っていたけどそんなことは無かった。家は歩いて5分位でついてしまう程近いし、良くお互いの家に遊びにいったり普通に高校生らしく色んな場所に行って遊んだりもした。
「んじゃ、また明日な~」
「んん、また明日。あ、そうだった!化学のノート明日返せよ!」
「分かった分かった、ノートありがとなー!学年トップ5さん!」
「うるさい!お前はもっとしっかり勉強しろ!」
はぁ、あいつ。毎回ノートせびって来やがって………そろそろ金取るぞ。
なんて、本音交じりの軽口を一人で頭に浮かべながら家に着く。
いつも通り、授業の復習をして問題集を解く。
そろそろ疲れたなとお気に入りの実況者の動画を開く。
3日に1回の投稿だけどいつも動画時間が3時間とか馬鹿げてるから、3日かけて見ている。丁度、今日は動画が上がっていたようだ。
「ん、救急車か」
実況動画を見るためイヤホンを付けようとしたが、いつもは聴こえてこない音が耳とイヤホンの隙間を縫うように飛び込んでくる。でも、所詮はただの雑音でしかない。救急車に乗る人は可哀そうだな、大丈夫かな、とか少し考えたらもうその音に興味は無くなる。
『どうもー。今回は悪夢っていうゲームをやっていきたいと思いまーす。でも大丈夫、僕が
「ふふ、なんだそれ」
イヤホンを付けて動画を視聴する。ゲームは面白いけど自分でやると見境がなくなっちゃうから、実況者がやっているのを見る。まぁというよりも、この実況者のプレイとかトークとかが面白くてつい見ちゃうだけだけど。
「あれ?なんか………」
さっきの救急車の音がまだ聞こえる。この辺で何かあったのかな?少し怖いな
「まぁでも、自分には関係ないからなぁ」
人の命も所詮は他人事で、自分には関係の無い事。自分は一度も救急車に乗ったことは無いし、家族も無い。なんなら友達も無い。多分ね、知らないけど。そして、またすぐに救急車の事は頭から無くなり、目の前の画面に集中する。
「よし、続きは明日!」
途中で救急車に気になりもしたけれど、やっぱりこの人は面白いなぁ~。テンポとテンションが良いよね、全力でゲームを楽しんでて見てるこっちも心がウキウキというか、テンションが上がってくる。
「ん、もうそろそろご飯かな」
時計を見るともう7時を回っていた。いつも大体この時間にはご飯が出来かけている。勉強もしたし、動画も見たし、あとはご飯食べて風呂に入って英単語の暗記をしたら寝るだけかな。
「お母さ~ん、ご飯できた~?」
「………はい、はい、えぇ、そうですか………えぇ、無事を祈ってます…はい」
ん?なんだろ、今はお取込み中みたいだ。顔があんまり笑ってない。学校からかな、別に自分なにも悪い事してないはずなんだけど………なんか緊張してきた。
自分の鼓動の音が聞こえる。まぁそんなに深刻な話ではないだろうと、そう自分に言い聞かせながら椅子に腰かける。でもどこか胸騒ぎがするような気もしながら。そんな状態でいると、母親は電話を静かに置いてこっちに歩いてきた。表情は、明らかに暗い。
「ねぇあんた。ちょっと………待ってね」
「え、うん。待ってるけど………」
「えっと、なんていうか………落ち着いて聞いてね」
「え、なに、なんか学校で悪い事したみたいな電話?してないはずなんだけど」
「いや違う………だから、真剣に聞いて」
頭が警告音を鳴らしていた。さっき見ていた動画で、主人公が危険な時になる音がこれでもかというほど鳴っていた。その話を聞いてはいけないと、本能で警告音を鳴らしていた。でも、理性がそれを止めた。
「………どうしたの」
「あんたには辛いかもしれないけど………言うね」
「早く、早く言って………!」
「あんたの幼馴染の子が、車に………」
目を瞑った。頭が次の言葉を拒否していた。何も聞きたくなかった。でも聞かなければならなかった。母親の口は無情にも、止まってはくれなかった。
「撥ねられたわ」
「……………!!!!!!!!!!!!!!!」
母親の口から発せられた言葉を脳が最初拒否した。理解に遅れた。それでも無理やり言葉が脳に入ってくる。それと同時に目の前が歪んだ。それは眩暈がしたのか、それとも目に雫が溜まったのか、はたまたそのどちらもなのか。分からなかった。
「………明日、休む?」
さっき入ってきたたった一つの言葉が頭の処理容量を遥かに超えて頭を埋め尽くしていた。母親の言葉は、それから入ってこなかった。
「………!!!」
悪夢を見ていた。幼馴染が車に撥ねられる夢。
いや違う、正確には幼馴染が車に撥ねられたと親に伝えられる夢。
体はへんな脂汗でびっしょりだった。気持ちが悪い。
「風呂入るか………」
今何時なのかは分からない、それでもこの汗のまま眠ることは出来ない。
見ていた悪夢の内容にうんざりしながら自分の部屋の扉を開け、風呂に向かう。
「あの子、大丈夫かしら………」
「そりゃあ卒倒もするだろう。10年来の付き合いの子が亡くなったって知らせを受ければ………」
「ちょっと、あなた!まだ、まだ助かるかもしれないじゃない………」
「あ、あぁすまん………はぁ、助かるといいんだけどな………」
両親の声が聞こえる。その声の内容に、もう掻き切ったはずの汗が滝の様にあふれ出してくる。涙は出ない、理解したくなかった。
「………ぇえ?」
「っ!あんたっ………どうしたの、こんな夜遅くに………」
「………ねぇ、さ、ささ、さっきの、はっ、なし。何?」
体がいう事を聞いてくれない。恐怖で口が動かない。
お願いだよ。夢であってくれよ。ただの悪夢であってくれよ。
そしたら、自分が、自分が………ナイトになってでも、守るから………だから
「ただの、夢であってよ」
「「………」」
「返事、してよ………!!!!!!!!!!」
体の水分は汗となってかなりの量が出たはずなのに、まだまだ目には水が溢れては零れていった。
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