【祝】自由で何というか救われてなきゃあダメなんだ【初配信】
「それでさ、後ちょっとで王都に行ってリリーと会えるって思った矢先に、リリーとエルウィンが結婚するって聞かされてさ……!」
上位チャット:涙拭けよww
上位チャット:かわいそうでワロタ
上位チャット:割と不憫な人生で涙を禁じ得ない
上位チャット:まぁまぁ人生これからだって
俺はネット配信でこれまでの人生について語っていた。
きっかけはコメントの「異世界ニキのこと教えて欲しい」という単純な疑問だった。それに俺も最初は簡単に答えていたのだけど、喋っているうちに段々と歯止めが聞かなくなっていって、最後にはリリーとエルウィンが結婚するって聞かされて泣いている最中だったということまで話してしまった。
いや、やっぱ客観的に見て俺の人生ってかわいそうな部類なのか? リリーがエルウィンと結婚するって聞かされるまでは、そこまで不幸だとかかわいそうだとかってことを自分の人生に対して思ったことなかったけど。
「俺だって頑張ってたのにさぁ……! なんでこうなっちゃうかなぁ……」
上位チャット:まあしゃーない
上位チャット:異世界ニキの世界の文明レベルじゃ、遠距離恋愛とか無理でしょ
上位チャット:遅かれ早かれこうなってたと思うと、早めに知れてよかったまである
上位チャット:これからの人生長いんだし、王都での出会いに期待しようぜ!
なんか慰めてくれてるっていうのはわかるんだけどさ。こいつら他人事だからってめちゃくちゃ軽いよな? 傷ついちゃうよ俺。こう見えて繊細なんだよ?
上位チャット:異世界ニキの気持ちに寄り添ったことをいうなら、その異世界ニキの彼女と幼馴染が結婚するっていうのが誤報って可能性もあるよな
上位チャット:まあ、実際に本人から聞かされたわけじゃないんでしょ?
上位チャット:そもそも会える距離じゃないらしいしな
上位チャット:でも聖女と勇者の結婚とかいうビッグニュース、流石に誤報とかなくない?
「確かに本人から聞いたわけじゃないけど。村の皆も信じてるし……」
上位チャット:そもそも情報源ってどこなのよ
上位チャット:異世界ニキは近くの知り合いから聞いたのかもしれないけど、その知り合いは誰から聞いたわけ?
上位チャット:異世界ニキの話の中のその彼女さん、心変わりするようには思えないけど
上位チャット:まあそこは人の心だし、絶対はないんじゃね?
コメントに言われて、ふと考える。確かにどこからそんな情報が来たんだ? 俺はショックすぎて誰から聞いたっていうのもあいまいだけど、少なくとも俺の近くの知り合いの誰かだったのは確かだ。
フォグさんなりリリーの両親なりエルウィンの両親なり。じゃあその人たちはどこから二人の結婚の話を聞いてきたんだ?
王都から噂が流れてきたわけじゃない。それだったら村中その話題で持ち切りだったろうし。俺だって近くの知り合い経由じゃなくても耳に入ってたはずだ。
でも俺の覚えている限り、村が二人の結婚の話題で持ち切りってことはなかった。明日にはそうなるかもしれないけど、少なくとも俺がここに飛び出してくる前はそんな雰囲気じゃなかった。
となると、誰かが直接リリーの両親とかエルウィンの両親に伝えたことになる。誰がそんなことするかって言うと……誰だ?
「……教会の人じゃね? たぶん。あの二人を連れて行ったのも教会の人だし」
上位チャット:俺達日本人って宗教信じてなかったりするから感じるのかもしれないけど、異世界ニキの村の人たちって教会の人のこと信用しすぎじゃね?
上位チャット:聖女とか勇者とか知らないけど、普通年端も行かない子供を強引に連れ出して戦争に突き出そうなんてしないって
上位チャット:まあ異世界ニキの世界にはそっちの世界の常識があるのかもしれないけどさ
上位チャット:少なくとも日本でそんなことしたら大炎上解散命令待ったなしだな
「そん時は俺も怒ったけど、別に教会自体がどうとかっていうのはあんまり考えたことなかったな。そこにあるのが当たり前だし、小さい頃からお世話になってるし……」
上位チャット:学校代わりなんだっけ?
上位チャット:ちょっとした病院代わりでもあるらしいな
上位チャット:お祈りで人も集まるらしいし
上位チャット:生活の根底に教会がある感じ? 俺にはちょっと感覚がわからない
生活の根底に教会がある、か。言われてみれば確かにそうで、俺たちは小さい頃から大人になってもずっと教会にお世話になっている。
勉強から、成人の儀から、結婚から、病気の治療から、死んだ後の世話まで。
聖女と勇者の話は俺が気に入らなかっただけで、別に教会が嘘を吐いてたわけじゃないし。
「でも、確かに教会の言うことに間違いはないっていう感覚はあるかもな」
上位チャット:じゃあ彼女と幼馴染の結婚も嘘かもしれないな!
上位チャット:希望が持てたな!
上位チャット:これでかつる!
上位チャット:まあ本当かもしれないけどな!
「上げて落とすの止めてくれるかな!?」
まあ、でも教会が嘘を吐いてて、リリーとエルウィンの結婚が間違いだったっていう方が俺も嬉しい。リリーは心変わりしてなかったんだって。まだ俺のこと好きなんだって。
そう思ってたほうが頑張れる。本人に聞くまでは結婚の話は信じない。
「まあ、ありがとうお前ら。俺を慰めるためでも、そういう希望があった方が俺も頑張れるからな。リリー本人の口から聞かされるまで、結婚の話は信じないことにするわ」
上位チャット:へへ……照れるぜ
上位チャット:みなまで言うなって。……それでお礼になにくれるんですか?
上位チャット:タダで助けてくれると思ったんですか?
上位チャット:ところで異世界ニキ。異世界ニキの後ろにいる動物って異世界ニキのペットか何か?
「後ろにいる動物……?」
後ろにいる動物ってなんだ? ここには俺以外誰もいなかったはずなんだけど。もしかして配信に夢中で動物が近づいてきたのに気づかなかった?
いやでも確かに、この静かな森で声出して喋ってたら動物にはよく聞こえてたかもしれない。人間に対して近づかない動物もいるけど、縄張りが荒らされたと思って近づいてくる動物も当然いる。
なんにせよ、あんまり刺激するのもよくないし。姿を確認したらそっと刺激しないように離れるか。
そう思ってゆっくりと後ろを振り向いた俺の視界に映ったのは。
「ブルルッ……!」
「はい……?」
天に向かって伸びる大きな牙。みっしりと映えた体毛に、暗がりにありながら月明りを僅かに反射する蹄。ゆらゆらと蜃気楼のように揺らめく魔物特有の魔力。
数年前、俺を吹っ飛ばしてリリーとエルウィンに討伐されたあのイノシシ型の魔物だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます