【祝】配信をする時はね、誰にも邪魔されず――【初配信】

上位チャット:ウェーイwww 異世界ニキ、見てるー?

上位チャット:【祝】初配信

上位チャット:異世界ニキそれどこにいるの?

上位チャット:なんか森みたいなところにいる?


 「コメント」ってやつから、ニホンゴが流れてくる。


 俺はスマートフォンを片手に持ちながら、そのコメントを目で追っていた。


「えーと……今俺がいる場所は俺の故郷のエンドリス村ってところの近くの森です」


上位チャット:エンドリス村ってどこ

上位チャット:知らん

上位チャット:少なくとも日本じゃないことだけは確か

上位チャット:やっぱり異世界ニキは異世界ニキなのか


「逆に聞くけど、お前らこそどこにいるわけ?」


上位チャット:で、出会い厨だぁ!

上位チャット:逃げろぉ!

上位チャット:ねぇねぇどこ住み? てかアプリやってる?(笑)

上位チャット:真面目に言うと日本ってとこに住んでる あと、ネットで人に住んでる場所聞くのはマナー違反というか、よくない

上位チャット:千葉!

上位チャット:滋賀!

上位チャット:佐賀!


「住んでる場所聞くのはよくないのか……え、でもお前らめっちゃ俺の住んでるところ聞いてくるじゃん」


 掲示板の住人は、俺が掲示板でやり取りしてた時もどこに住んでるか聞いてきたし、さっきも場所聞いてきてるんだが?


上位チャット:異世界ニキはほら、本当に異世界ニキなのかどうか確かめなきゃいけなかったし……

上位チャット:そもそも本当に答えるとか思ってなかったし……

上位チャット:異世界人に住所聞くのはノーカン! ノーカンでお願いします!

上位チャット:異世界ニキも今後は気を付けろよな! まあ特定されても意味ないけど ホントに異世界なら


「自分たちのこと棚に上げすぎだろ! ……ていうか日本ってなに? どこにあるの?」


 俺の住んでいるエンドリス村っていうのは、ネオバルディアって国の東側にある。国境まではいかないけど、中央にある王都からはそれなりに離れている田舎の村だ。


 俺は翻訳の仕事を手伝っていた関係上周囲の外国の国名やそこで使われている言語についてそれなりに知識があるけど、日本なんていう国もニホンゴ……日本語か。日本語っていう言語も見たことが無かった。


上位チャット:どこにあるって言われるとなんか困るよな

上位チャット:地球の東の方にある

上位チャット:ユーラシア大陸の東にある

上位チャット:中国っていう国の東にある


「地球とか、ユーラシア大陸とか、中国とか言われてもまったくわかんない」


上位チャット:これだから異世界ニキは

上位チャット:まあ異世界ニキだししょうがないよな

上位チャット:常識なんだけどな

上位チャット:赤ちゃんだししゃーないやろ


「なんで『やれやれ』みたいな雰囲気出してんの? おかしくない? あと赤ちゃんじゃねーから!」


上位チャット:逆に聞きたいんだけど、ネオバルディアってどこにあんの?

上位チャット:地球知らないんなら地球上じゃないことは確か

上位チャット:まだ自分が地球という場所に住んでいることを知らない未開の地の住人かもしれない

上位チャット:そんなところそもそもネット回線通ってないだろ

上位チャット:いやそれいうなら異世界にネット回線とかないだろ

上位チャット:俺たちと同じくらいの文明の異世界かもしれないだろ!


 等々コメントで好き勝手言っている。こいつらそこはかとなく俺のことバカにしてないか……?


 せっかくさっき感謝の気持ちを持ったのに、一瞬で投げ捨てたくなってきたな、感謝の気持ち。


「ネオバルディアっていうのはアルダナリア大陸っていう大陸の西にある国だ。周りにはエリドラスとかセルナーラとかギルディアンって言うような国がある」


上位チャット:知らん

上位チャット:知らん

上位チャット:全く知らん

上位チャット:マジで一度も聞いたことなくて草

上位チャット:特定……できませんでした!


「これだから日本のやつは……ここじゃ常識だぞ?」


 さっきの仕返しとばかりに煽り返す。実際この程度のことは教会で習うから、よっぽど物覚えが悪くない限りはみんな知っている話だ。


上位チャット:急に煽ってくるやん

上位チャット:煽るの止めてください!

上位チャット:傷つきました 異世界ニキのファンになります

上位チャット:今の煽りでチャンネル登録しました


「なんか変な奴がいるな!?」


上位チャット:異世界ニキが全く知らんところにいるのはわかったけど、翻訳魔術? とかについてもっと聞きたい

上位チャット:今も俺たちに恐怖体験をもたらしてる謎の力な

上位チャット:くっ……頭が……!

上位チャット:↑それは病院行け


「恐怖体験って言うな。俺だって予想外の動きしてんの!」


 本来なら翻訳魔術は翻訳された言葉だけが相手に届く魔術だ。それが今は俺が喋ってる言葉まで一緒に届いているらしい。


 少なくともフォグさんと翻訳魔術の練習をしている時はそんなことはなかった。


「翻訳魔術っていうか、そもそも魔術についてお前らは知ってんの? 掲示板の時は知らないって言ってたけど」


上位チャット:知らん

上位チャット:ファンタジーの中身のやつしか知らん

上位チャット:地球にはないし


 魔術が無いっていうのが俺からしたらちょっと信じられないんだけど、みんな口を揃えて言うのだから本当なんだろう。


 じゃあこいつら魔術もなしにこのインターネットっていう意味不明な力使ってんの? ヤバすぎない? いや俺もこのインターネットっていう力使うのに魔術使ってないけどさ。


「えーと……魔術っていうのを説明しますとね?」


上位チャット:ふむふむ

上位チャット:あいわかった!


「まだ何も話してないんだが?」


上位チャット:ごめん

上位チャット:はよ続き話して


「話の腰折ってるのはお前らなんだよなぁ……。まあ、魔術っていうのは魔法技術っていうのの略称で、魔力を使って起こす現象のことです」


上位チャット:はぇー

上位チャット:まだよく聞くファンタジーの魔法


「日常生活で使う日常魔術とか、戦うときに使う戦闘魔術とか、怪我とか病気を治す治癒魔術とか、物の形とか材質を変える変成魔術とか、まあいろいろ種類があるんだけど、翻訳魔術っていうのはその中で言う『日常魔術』の一つだな」


上位チャット:戦闘って、やっぱ異世界だと何かと戦ったりすんのか

上位チャット:定番といえば定番だけど、実際に言われるとなんかビビるな


「まあ俺は戦闘魔術は使えないけどね。練習したことないし、別に危ないことしようと思わなければ必要ないしな」


上位チャット:修羅の国ではなかったか

上位チャット:生きとし生けるもの全員が戦闘狂のような世界ではなかったか


「何それ怖すぎだろ。まあ魔術の話の続きをするとだな――」


 なんて言いながら、俺は魔術や俺の世界についてみんなに説明していった。

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