許嫁は料理を頑張った
「……そんなに驚くことかしら?」
「あっ、いえ……ご、ごめんなさい……」
若干引いてる赤田。空ちゃんはまた小さめの声量に戻った。
「ホントに一応だからね? 親同士で勝手に決めただけ! 結婚なんてするわけないわ!」
そう言って赤田は歩き出し、俺もほぼ同時に歩き出す。
「ちょっとあたしのとなり歩かないでよ」
「うるせぇお前の指図は受けねぇ」
いちいち配慮するのも面倒なんで俺はただ普通に歩くだけだ。結果的に赤田と並んで歩いてるみたいになってしまったが。
「―――……」
……? 空ちゃんが寂しそうな目で俺たちを見ているような気がした。
後ろを振り向くと、動かずに立ち止まっている。
「どうした空ちゃん、学校行こうぜ」
「う……うん!」
空ちゃんはハッとしたような表情をして慌ててパタパタとついてきた。
―――
で、今は学校の教室にいる。
俺、赤田、空ちゃんの3人が全員同じクラスになった。
めんどくさがり屋の俺と、気が強い赤田、おとなしい空ちゃん。
この学校の生活は、まだ始まったばかりだ。
―――
そして、その日の夜。
俺と赤田は家にいた。
「さて、一緒に住むなら決めなくてはならないことがある。
料理とか家事の当番を決める!」
リビングの壁にあるホワイトボード。
それに『スケジュール』という言葉を書いて俺はホワイトボードをバンと叩いた。
「…………」
赤田はガン無視。ソファに座りスマホを弄っている。
「赤田! 聞いてんのかコラァ!!」
俺が怒鳴ると赤田はうざったそうに視線だけこちらに向けてきた。
「え? 料理? あたし一度もやったことないわ」
「ふざけんな! 居候するならそれくらいは必ずやってもらわんと困るんだよ! 昨日は俺が料理作ったんだから今日はお前が作れ!」
「はぁ!? なんであたしがそんなことしなきゃならないの!?」
「黙れ、お前もちゃんと手伝え! やらねーなら家から追い出すぞ!」
俺と赤田はしばらく言い争いを続けた。超ワガママな赤田とここだけは絶対に譲れない俺。こいつとはあまりにも相性が悪いと思った。
―――
「できたわ!」
何十分にも及ぶ言い争いの末、赤田は渋々料理を作り始め、そしてたった今終えたようだ。
あんなにギャーギャー言ってたわりには完成した途端すごく自信たっぷりな表情をして胸を張っていた。
で、完成した料理を見る。
なんだこれは。これは料理といっていいのか。なんか黒いものにしか見えないんだが。
「……まあ、予想はしていたが、ここまでひどいとは……」
俺は頭を抱えたが、とりあえず完成しただけまだマシかと思うようにした。
「さっさと食べなさいよ」
「……お前、味見はしたか?」
「いいから食べなさいよ。あんた人に作らせといて食べないっていうの?」
「味見もしてねーようなもんを人に食わせようっていうのかてめーは!」
「いいから食えっての!」
グイッ!
スプーンで料理のようなものを掬い、俺の口に無理やり突っ込んだ。
口の中に入ってきた瞬間、俺の脳裏に浮かんできたものは雑巾だった。それも真っ黒に汚れた雑巾。
なんで食事した時に雑巾をイメージしてしまうのか意味がわからない。
「おええええええ!!!!!!」
赤田の作った料理は想像以上に凄まじくまずくて、俺は断末魔の叫びを上げた。
―――
次の日の学校。俺は腹の調子が悪かった。赤田の料理が原因だ。
あのアマ……二度とあの女に料理を作らせたらダメだ……ああ、腹いてぇ……
「りっくん」
「空ちゃん……」
教室に入ってすぐ、空ちゃんと会った。
「あれ? りっくん、顔色が悪いよ? 大丈夫……?」
「大丈夫大丈夫……」
ピー、ゴロゴロゴロ……
「はうっ……! うーん……!」
「りっくん!?」
くっ……幼馴染の女の子の前で思いっきり腹の音を鳴らしてしまった。これは恥ずかしい。
俺は仕方なく腹を壊していることを空ちゃんに話した。
「えっ、お腹の調子悪いの? 大丈夫!?」
「まあ少し休めばなんとか……
くっそー、赤田は役に立たねぇし俺1人で2人ぶんの料理を作り続けなくてはならねぇのか……」
「料理……? よかったら私が作ろうか?」
俺は一瞬間を置いて、目を見開いて空ちゃんを見た。
「い……いいのか?」
「うん、私いつも料理してるし」
「いや、やっぱり申し訳ないからいいよ」
「気にしないで、おとなりさんなんだし。たまには一緒に食べようよ」
空ちゃんの料理か……
幼馴染だけど食べたことないな。いくら幼馴染だからってメシ作ってくれなんて図々しいこと言えないし。
でも空ちゃんが作ってくれると言うならいらないとは言えるわけがなかった。
―――
ドーン!!
というわけで、空ちゃんが家に来て料理を作ってくれた。
空ちゃんが作ってくれたオムライスは、ドーン!! って感じですごくおいしそうで、キラキラと輝いている気がした。
俺と赤田は目の前のオムライスに圧倒された。ヨダレが出そうになってしまった。
「張り切って作りすぎちゃったかな……」
空ちゃんは照れくさそうにしていた。
「す……すげぇ……」
俺はすげぇとしか言えなかった。
「こ、これ……全部あんたが……?」
赤田も驚きを隠せていなかった。
ちょうど腹が減っていたので、食べずにはいられない。
俺はスプーンを取ってガツガツと食べ始める。
「う……うまい! うまい! うまい! うまいぞ!」
すごくうまくて4回もうまいと言ってしまった。
俺ががっつくように食うから赤田は少し引いてるような表情をした。
そして赤田もパクリと一口食べた。
「―――!!!!!! ~~~!!」
赤田は言葉を発しない。認めたくないけどおいしい、そんな感じの顔をしていた。
「な、うまいだろ!? すごくうまいぞ空ちゃん!」
「ホント!? お口に合ったようでよかった……」
空ちゃんはホッとした様子で笑顔を見せた。不覚にもその笑顔にドキッとしてしまった。
赤田がすごく悔しそうな顔で空ちゃんを見ているような、そんな気がした。
―――
次の日の朝。
テーブルの上にはオムライス(?)が置いてあった。
たぶんオムライス……だと思う。正直に言うと色が変でお世辞でもおいしそうとは言えない……そんな料理だ。
「お……おい……これは……?」
「あたしが作ったオムライスよ!」
赤田はエプロンを着けた状態でエヘンとドヤ顔をしていた。
申し訳ないが正直に言うと、昨日空ちゃんが作ってくれたオムライスと比べると、あまりにも何もかも劣る……
「……なぁ、赤田。お前はもう料理しなくていいよ……」
「はぁ!? 家事しろって言ったのはあんたじゃないの!!」
「……俺が悪かったよ。謝るからもう作らなくていい。頼む……」
「いいから食べなさい!! もったいないでしょ、ホラ!」
グイッ!
「―――っ!!」
また無理やり食べさせられた。
くそっ、やっと腹の調子が回復してきたところだったのに、また腹壊すんか……
―――……
…………
……あれ?
「い……意外とイケる……?」
赤田が作ったオムライスは、見た目は酷いもんだが食ってみたらそこまで味は悪くなかった。
「あんたねぇ、この前と同じだと思ったら大間違いよ?
あたしは今まで一度も料理してなかっただけで下手ではないのよ。ちょっと練習すればこの通りよ!」
赤田はまたドヤ顔で胸を張った。
「えっ、お前料理の練習してたの!? お前が!? めっちゃ意外……」
「何よ、悪い!?」
「いや全然悪くねぇよ! ありがとう赤田!」
「……フン……」
気のせいか? 赤田が一瞬だけ嬉しそうな表情をした気が……
でもフンとか言ってそっぽ向いてしまったし、気のせいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます